絶好調の日

午後は普段一段と騒がしくなるはずだが、今日はやっぱり静かだ。


いつもは明日の準備もままならない程だが、16時を回る前に、


すっかりやる事もなくなっていた。


今日は早めに帰るかとカバンに荷物を詰め込む。


すると、スマホのLINEに着信が届いた。



「佐伯君、今日の飲み物のお礼に、夕ご飯付き合ってくれない?」



なんと香川さんからディナーのお誘いだ。思わず顔がニヤけそうになるが、


袴田に気付かれたら一貫の終わりだ。


出来るだけ表情を変えず、



「俺で良かったら喜んで!」



と返す。


これは良い日なんてもんじゃない。全てが絶好調だ。絶好調の日だ!


袴田も仕事が早めに終わったのか、17時を回る前に、


「先帰るわ」


と言い残し、会社を後にした。


俺と香川さんは二人してエレベーターを降り、近所で評判の居酒屋へと向かった。



「実は、ちょっと相談したい事があって」


「な、なに?」



胸が高鳴る。どうか、彼氏とかの相談ではありませんように。



「私、新しいパソコンが欲しくって。


佐伯君そういうの詳しいって袴田さんが言ってたから」


「あ、あぁ。パソコン」



何かちょっとガッカリしたが、香川さんの役に立てるならそれはそれで嬉しい。


俺は予算や使いたい目的を聞いて、


それに見合ったオススメのパソコンをいくつか提案した。



「やっぱり佐伯君に相談してよかったー。


私一人だったら店員さんの言われるまま買っちゃいそうだし」


「ネットで買った方が送料も掛からないし、


何より重いから持って帰るのも大変だしね」



今日程、パソコンに詳しくてよかったと思った日はない。


パソコンの話が終わった後も、終始楽しく話す事が出来た。


普段の俺なら、緊張してあまり話せない事もあるはずなのに、


やはり今日の俺は一味違った。


頭が冴えに冴えて、香川さんが降る話題の殆どについていくことが出来た。


それなりに良い時間になり、そろそろ帰ろうという流れになった。


勿論、お会計は香川さんがお手洗いに行っている間に済ませた。


ここは男の見せ所、のはずだ。


店を出てからも、帰りの方向も電車も同じ。


もうしばらくは香川さんと一緒の時間だ。


帰りの電車も、普段なら座るはおろか、


乗車してもギュウギュウ詰めな事が多い時間帯にも関わらず、


すんなり座る事が出来た。


香川さんの最寄駅が近付く。


すると、香川さんから思いも寄らない一言が飛び出した。



「あの、佐伯君。もう1軒だけ付き合ってくれない?」



絶好調過ぎて困るぜ。もう俺に怖いものはなにもない。


このままいけるとこまで行ってやる!



「良いよ。いくらでも付き合うよ」



平静を装っているが、内心はドキドキとワクワクで胸が爆発しそうだった。

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