絶好調の日

T_K

今日1番運勢が良いのは・・・

目覚ましがけたたましく鳴り響く。いつもの日常の始まりだ。


決まりきったルーティーンを決まりきった様にこなしていく。


焼きたてから食べ頃を少し過ぎたパンを齧りながら、ふとテレビに目を向けた。


7時57分。占いの時間だ。


何となく、出勤前のこの時間はボーっとテレビを眺めてしまう。



「今日1番運勢が良いのは5月産まれのあなたです」



どうやら俺は今日1番運勢が良いらしい。


世の中に何人この1番運勢が良い人がいるかは知らないが。



「今日のラッキーナンバーは21、ラッキーカラーは赤です!」



聞き流しながら食事と仕度を進め、いつもの時間通りに家を出た。


家から会社までは地下鉄で1本。


我ながら良い場所にある会社を選んだものだ。


家からは歩いて13分程で駅に着く。


遅れない様に、毎朝乗車時刻の20分前には家を出る様にしている。


8時18分、駅に到着。これもいつもと同じだ。


改札を通り、ホームの自動販売機の前へ。


駅周辺にはコンビニや改札前にも自動販売機があるが、


必ず買うのはこの自動販売機。理由は簡単。電子マネーのポイントがつくからだ。


携帯をかざし、TVCMでお馴染みのスポーツ飲料水を選ぶ。


ごとん、とペットボトルが落ちる音と共に、異変に気付いた。


自動販売機のボタンのランプが消えていない。


自動販売機の電子版には当たりを示す同じ数字が4つ並んでいた。



「あ!当った」



思わず声が出てしまった。


その声に電車を待つ人数名がコチラに振り向く。



「初めて当った。これ本当に当ったりするんだ」



何気ない日常が変わるほんの一瞬。


少なからず好奇な目に晒されているのを感じ、急に恥ずかしくなった。


迷わず同じスポーツ飲料水のボタンを押す。


ごとん。本日2回目のこの音に、心なしかウキウキしている自分が居た。


ただ、自動販売機の飲み物が当っただけだというのに。


いつも買うスポーツ飲料水を、


今日は2本カバンに突っ込んで足早に2号車の列へと並ぶ。


程なくして電車が駅に着く。


物凄く混んでいるわけではないが、座れそうにもない。


吊り革を持ち、スマホを弄ろうとポケットに手を突っ込む。



「あ、佐伯くん?」



可愛らしい声が耳に届くこれはひょっとして。



「え?香川さん?」



いつもの日常が一瞬で華やかになる。


会社でも指折りで可愛い香川さんと、まさか同じ車両に、しかもすぐ隣になるとは。



「お、おはよう。香川さんも同じ地下鉄だったなんて知らなかった」


「そういえば、電車では初めて会ったもんね。私、隣の駅なんだよ」


「え!そうなの?」



明日からは俄然出社が楽しくなりそうだ。


と、そんな会話をしている内に隣の駅に着いた。


この時間帯には珍しく、目の前で座っていた乗客二人が降りていく。


ラッキーと言わんばかりに、香川さんは席に着く。


人の流れに飲まれそうになるものの、何とか俺も席に座る事が出来た。



「朝から座れるなんて良かったね!」


「うん」



良い日だ。とても良い日だ。


朝から座席に座れて、しかも香川さんと隣だなんて。



「あ・・・。私飲み物買うの忘れちゃった。会社までの道にコンビニってあったっ

け?」


「確か、無かった気がするなぁ。ドラッグストアも少し離れてるし」



ふと、さっき当たったスポーツドリンクの事を思い出す。



「もしスポーツドリンクで良かったらあげるよ」


「え!良いの?」


「うん、俺、さっき自販機で買ったら当たったんだよ」


「佐伯くん凄いじゃん!私ああいうので一度も当たった事ないよ」


「俺も今日初めて当たったんだ」


「今日は佐伯くん、運が良い日なのかもしれないね。ありがとう!」



運が良いなんてもんじゃない。超ラッキーだ。


香川さんにお礼を言われるなど、これからの人生で絶対にないと思っていた。


電車は定刻通りに会社の最寄り駅へと到着した。


いつもなら遅延でギリギリの出社になるはずなのに、やはり今日はツイテいる。

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