僕を励ます声が聞こえる

プロローグ 哲也

 僕の名前は前野哲也といいます。だけど誰も本名で僕の名前を言ってくれません。クズテツやサビテツなんて呼びます。僕はいつも悲しい気持ちになってしまいます。中学三年生の夏休みが終わってまた学校に行くと、またみんな僕のことを気持ち悪いといって遠巻きに避けていきます。みんな僕のことを嫌います。先生も僕のことを嫌います。僕がどうしてそういうことをするのと言ってもみんな笑ってばかりで答えてくれません。僕はまた頭をなでるクセをしてしまいます。お母さんからやめなさいと言われていますが、僕はガマンができなくなると頭をなでてしまうのです。お母さんもそういう僕のことがつらいと言います。つまり僕はみんなの邪魔なんです。僕はお母さんのサイフにあった5万円を抜き取りました。僕はドロボーをしてしまいました。僕は不良になってしまったんです。僕は死ぬことにしました。僕みたいな人は死んだほうがいいと思ったからです。5万円で北海道に行くことにしました。北海道で死のうと思ったのです。僕の家で死んだらお母さんやお父さんに迷惑がかかります。そうですね、近所で死んでも知っている人がたくさんいますのでその人たちにも迷惑がかかります。死体処理は大変だからです。だから僕は北海道の海に身を投げて死のうと思いました。そのまま僕の死体が北極まで流れてくれたらいいと思ったからです。北極には人がいません。北極熊とあと少しの鳥がいるだけです。南極には人が少しいますが北極には人間はいません。学校の図書室で調べました。北海道より北はロシアという国があります。外国なので行くにはパスポートやビザが必要です。だけど僕はパスポートとビザをとる方法がわかりません。だけど北海道でいいと思いました。北海道でも北極まで流れてくれるはずです。そしたら誰にも知られず迷惑をかけることもなく死ぬことができます。北海道までは電車で行きました。本州と北海道は青函トンネルが通っていて電車でも行けることができます。これも学校の図書室で調べました。時刻表を買ってあといろいろ人に聞きながら北海道に着きました。お婆ちゃんとかすごく親切でした。お腹がすいたらコンビニでおにぎりを買って食べました。一日で行くことができなくて途中で公園などのベンチで寝たりしました。涼しかったけど寒くなかったので風邪をひいたりはしませんでした。日本の最北端の稚内に三日かかって着きました。目の前には海があります。あとは飛び込むだけです。僕は目をつむって手で鼻を押さえて飛び込もうとしました。

そのとき海の上に浮かんで立っているお爺さんが僕を押さえるのです。

「死んではいけない」

とお爺さんが言いました。僕はお母さんのサイフからお金を盗んでいるし、みんなから必要とされていないから死ぬしかないんですと言ってもお爺さんは手を離してくれません。

「君にはその高い身長があるじゃないか、例えばその身長を使ってスポーツなどしたらどうだ、バスケットボールとか」

お爺さんは今初めて僕に会ったからそんなことが言えるのです。確かに僕はお爺さんの言うとおり身長が百八十三センチあります。中学二年生で急に伸びたんです。あの時は足がすごく痛かったです。気がついたら僕は学年で一番ノッポになっていました。数学の先生の小谷先生が僕をバスケ部に誘いました。だけど僕にバスケットボールをやらせてくれませんでした。キャプテンの木村君が僕をいじめるからです。木村君は僕の顔にシュートをしてきます。顔がすごく腫れてすごく痛かったです。だから僕はバスケットボールがすごく嫌いになったし木村君も嫌いになりました。僕にはできるものがありません。だから死ぬしかありません。だけどお爺さんは僕を離してくれません。僕がいくら言っても無駄でした。そのうち僕が諦めて今日は死ぬことをやめると言いました。そしたらお爺さんはニッコリ笑って僕の体に乗り移りました。

「これから君についてまわる。そこでいろいろアドバイスをする。こう言えと言ったらそう言いなさい。こうやれと言ったらそうやりなさい。大丈夫、いつでもワシがついている。とりあえずバスケットボールをやりなさい」

お爺さんが言います。だけど僕はもう退部してしまって、それからもう9月だからバスケ部には入れないと言ったら

「高校生になったらバスケ部に入ればいい」と言いました。それまで練習しなさいといいました。僕は、本当は死にたくありませんでした。お爺さんは僕に死ぬことを止めてくれました。だから僕はお爺さんの言うことをきこうと思いました。なぜならお爺さんはずっとついていてくれてずっと僕の味方だと言ってくれました。僕は家に帰ることにしました。お母さんは怒ると思うけど謝りたいと思います。僕は死にたくありません。お爺さんが受ける高校はどこがいいかも教えてくれると言いました。僕はお爺さんの言うことをきくために一所懸命勉強したいと思いました。勉強は嫌いだし、とくに小谷先生の数学はすごく苦手だけどがんばりたいと思います。

 僕は死にたくないからがんばります。

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