第3話 裕子さんとビンタごっこ

思えば中学1年生、初めて一緒になった裕子さんは僕のすぐ後ろの席、たぶん

僕の方から最初に声を掛けたと思う・・・


”たぶん”というのは小学校からずっと気が小さく体育も苦手で苛められっ子

だった僕が自分から女の子に声を掛けるなんて、とても恥ずかしくて出来ない

けれどその時はたぶん話しかけることがとても自然に出来たような・・・


彼女と小学校も違ってたから性格も趣味も何にも解らなかったけど、すんなり

気楽に話し掛けていった様な気がする。


当時流行っていた外国のお笑いドラマの話で盛り上がったり、そのうち彼女を

見るなり「や~い、雌ライオン!」とからかい初めていた。


「何でアタシが雌ライオンなのよ~?バッカじゃないの?」


そして、雌ライオンに鬣をくっつけた様な彼女の似顔絵を漫画チックに描いて

爆笑させていたっけ。


それからしばらくそんな事が続いていたけど今度は自然と彼女のほっぺを軽く

パチン!と叩いてしまった。


「イタッ!何すんのおー?」バシン!「アッつ、痛てえー!」


僕も叩き返された、2~3発やり合った後で、半ばお互いに笑い合っている。

当然”軽く”叩いてるし、僕がからかってる事は彼女も解っているのだろう。

それが可笑しな事にスキンシップの日課になってしまっていた。

やっぱり今思うと、大好きだったんだなあ~って。


可愛いというより凛として清楚な美人タイプで、女優の本田翼さんにそっくり

似ていて、映画アオハライドを偶々見て「あっ!裕子さん?」って思わず呟いて

しまうほどだった。


休み時間になるたび僕は後ろを向いて裕子さんとお話しをしていた。


家に帰っても、裕子さんのことばかり、明日はどんな話をしたら喜んでくれる

かな?何か可愛い消しゴムや下敷きとかないかな?スヌーピーやディズニーや

キティちゃんとか喜ぶかな~?


ああそうだ!洋画が好きでスクリーンとか映画雑誌を読んでるとか言ってたな。

さっそく親に買ってもらって学校に持って行って、

「はい!裕子さんの好きな映画の雑誌だよ」

「わあ、貸してくれんの?今月号未だなのよお~」

「いいよ、あげる、僕も読んでしまったしね」(本当は読んでなかったけど)

「ありがとう、いいの~?もらっとくわね~」


ワルガキの級友たちは僕と裕子さんが楽しく話しているのを見て、からかった。

「おっ!お前ら似合ってるなー、夫婦みてえだぜ~」

「そうだ、そうだ、いっつもイチャツキやがってよお~」

「早く結婚しろ~~~!!」などと冷やかされたものだ。


だけどそれもまた僕にとっては何かすごく嬉しかった。


裕子さんも恥じらいながら、

「何よ~~、バカぁ~!」って叫んでいたのを思い出す。


春の日差しがポカポカと温かい、校舎の中庭の木々や草むらを揺らしながら、

そよそよと心地良い風が吹いて教室の窓から入って来た。

木漏れ日に煌めきながら、ゆうこさんの髪も優しく春風に揺れていた。


まるで昨日の事の様にそんな場面が浮かび、走馬灯の様に回っている。


ポワ~ンと裕子さんとの想い出に耽っていると、裕子さんが僕を見つめながら

「ねえ、中学の頃を思い出してるんでしょ?」


「うん、そうだよ、ごめん、ごめん」


「本当に久しぶりだもんね~」裕子さんも微笑んでいた。

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