#3 初陣─③

「こちら、ブルー3。ヒューマー9機、座標D243にて横列隊形を取り、時速約22キロメートルで移動中。センサー網到達まで約2分。無反動砲3基を確認。オーバー」


 ロンが他の仲間と基地に連絡を送った。だがすでにデータリンクで伝わっているはずだが、業務連絡だ。


 センサー網は国境線から3キロメートル進出したところに展開されている。それは国境線1キロメートル後方に小隊ごとに控えている『アフランニク』から有線接続されているドローンからなっている。そして、リアンたちはセンサー網最左翼を担っている。


「“ブルー1確認した。小隊回線をつないでおけ。ブルー小隊各機はセンサー網を維持しつつ、後退せよ。機体で目視した場合、相手がが撃ってこない限り発砲を禁ずる。焦るなよ。オーバー”」


 隊長機に乗るダッドから指示が降った。ロンが応答する。


「ブルー3、了解。センサー網を維持しつつ後退します。オーバー」


「“ブルー2、了解。センサー網を維持しつつ後退します。オーバー”」


 ブルー2の機体に乗っていたギアが答えた。


『アフランニク』3機は線を伸ばしつつゆっくりと基地の方へ後退していった。そしてついに、センサー網を敵が突破した。


「敵、突破しました!」


 ロンが無線に叫ぶ。


「“よし、全員、線を切れ!あとの索敵は無線で基地の奴らに頑張らせる。俺たちは防衛線まで走るぞ”」


『アフランニク』は線を切り離し、一気に走り出した。とはいえ、密林地帯であるがゆえ、その速度は敵と同じかそれ以下だ。つまり、いずれ追いつかれる。


「“連絡が入った。敵はセンサー網に気づいたらしく進撃速度を上げてきた。どうやら的な目的は威力偵察らしい。増援を送るからその場で迎撃しろとのことだ。やるぞ。戦闘用意”」


 リアンは操縦桿を強く握りしめた。額を汗が伝う。ついに、ついに実戦だ。これからの一挙手一投足で自分とロン、そして小隊の運命が決まる。


「リアン、いつも通りだ。俺はお前を全力でバックアップする。前だけを見てろよ」


 ロンは無線を切ってそう声をかけた。リアンはふっと笑った。大きく深呼吸をする。大丈夫。


 僕ならやれる。


 リアンの乗るブルー3は短機関銃を腰から取り出した。『アフランニク』は基本自衛用の最低限の装備しか持っていない。25ミリの徹甲榴弾は装甲車や歩兵を効率よく破壊するが、ヒューマー相手には火力が足りない。だかそれも使い方次第だ。相手の目と足を潰すことができればそれでいい。命中率のよくない短機関銃でできたらの話だが。


「“距離を詰められるなよ。こっちは白兵戦装備なんか持ってないんだ。一定の距離を保って敵を足止めしろ。足止めだ、撃破なんか狙わなくていい”」


 ダッドが今回の戦闘の注意を話す。無理もない、自分の機体以外が新兵なのだから。


「“敵を確認しました!”」


 ブルー2に乗るギアが叫ぶ。彼の声は震えていた。これは、まずいかもしれない。


「“まだ撃つな!もっと距離を詰めてからだ”」


 ダッドが制したがもう遅かった。


 ブルー2はすでに敵に向かって発砲していた。それは運良く突出していた先頭のヒューマーに直撃した。相手の左腕がちぎれ、よろめく。


「“や、やったぞ!”」


 ブルー2の操縦手のフックが歓喜の声を上げる。ブルー2はすでに1マガジンを撃ち尽くしていた。


「“ちきしょうが……。まあ仕方ない。ブルー3、右側の敵を抑えろ。ブルー2は左。3点バーストでいけ。いいか、3点バーストだ。俺たちが狙い撃つ”」


 ダッドが悪態をつきながらも指示を出した。3点バーストを強制したのは無駄弾を減らすためだろう。自分たちはそれに従って生き延びる。


 敵も撃ってきたが、リアンはなんとか身を隠し、射撃を行った。身を出した敵は次々とブルー1に狙い撃たれた(ブルー1のみ狙撃銃を装備していた)。


 敵は少しずつ戦力が削れ始め、このまま押し込めば勝てるとリアンは思った。そのときだった。


 突如爆音がした。その後すぐにもう一度。思わずリオンは耳を塞いでしまった。


「あ、」


 ロンが間の抜けた声を出した。


「一体何が……」


 リアンが状況を飲み込めずに、音の出所であろう左側を向いた。


 そのときリアンが目にしたのは、上半身が吹き飛んだブルー1が後ろに倒れこむ姿だった。

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