第23話 婚約パーティーの結果

 セリアンが「ローウェルド司祭」と呼んだ壮年の聖職者は、五人の聖職者と一緒に会場に入ろうとしていた。

 そんなローウェルド司祭の二人ほど後ろ。やや頬がこけている司祭服を着た男性の隣に、シャーロットがいた。


 セリアンもすぐ彼女には気づいた。ただ、シャーロットの特徴は話しているのだけど、顔を見知っているかどうかは怪しい。

 壮年のローウェルド司祭と話をしつつ、彼女を視線で確認した後でちらりと私の方を見る。


 あ、これはシャーロットが彼女だってわかっているのかしら?

 うなずくと、セリアンはローウェルド司祭に言った。


「聖職者の方をこういう場にお招きできる縁も、めったに結べないもので有難いことですが、沢山の方をお連れくださってありがとうございます」

「いえいえ。このように黒服の集団を良き日に招いていただき、我々もとても嬉しいですよセリアン。お隣のお可愛らしい方が、婚約者殿ですね?」

「リヴィアといいます」


 セリアンに紹介されて、私は小さく一礼してみせる。


「君の婚約を祝う日が来るとは思わなかったよセリアン。聖職者から還俗して女性を娶る者はいないわけではないけれどね、珍しいものだから」

「そういえば……。聖職者の方々が女性を同伴されているのもとても珍しいですね?」


 シャーロットのことについて話を振ったセリアンに、ローウェルド司祭という人はちらりと苦笑いしてみせる。


「少し事情がありましてね。教会でしばらく預かることになりそうなのです」

「事情……ですか」


 やや戸惑うセリアンの横で、私も頭の中にたくさんの「?」が並ぶ。

 教会で預かるというと、修道女になることだと思う。普通は。だけど今、青のドレスを着て微笑んでいるシャーロットが、修道女になるとは思えない。


 そもそも修道女になる人を、聖職者が婚約パーティーへ連れて来るだろうか?

 私たちの疑問を察してか、ローウェルド司祭が続けた。


「少々別な形で神の家とかかわることになりそうなのですよ」


 微笑んで、ローウェルド司祭はそれ以上を明かさなかった。

 一体どういうことかしら。私はさっぱり想像がつかないのだけど、


「そういうことか……」


 セリアンは私にしか聞こえない小声で、そんなつぶやきをもらしたので、何か心当たりがあったようだ。これについては後で教えてもらおう。

 その分、セリアンは断り方も心得ていたようだ。


「事情がおありなのはわかりました。けれど本日は、ローウェルド司祭の同伴者として、他の聖職者の方々はお名前をご連絡いただいておりました。

 けれどそちらのご令嬢はご連絡もなかったので、十分なおもてなしのご用意ができません。申し訳ないのですが、またの機会に……ということにしていただきたいのですが」


「そういうことになるのでは、とは覚悟しておりましたよ、セリアン。とりあえず会場まで行ってみて、君の判断を仰いだ上で彼女だけ帰すこともやむを得ないと思っていました。

 顔見せだけできればと思っておりましたし、今日はあなたがたのための会ですからね。場を騒がせないように、彼女にはここでお帰りいただきましょう」


 意外なことに、ローウェルド司祭はセリアンの話を受け入れた。

 シャーロットも参加を断られたというのに、にこやかな表情で一礼する。


「場をお騒がせして申し訳ありませんでしたわ、セリアン様。またの機会にお会いいたしましょう」


 穏やかに辞去の言葉を口にしたけれど、私は彼女からまたポエムが聞こえてきて鳥肌が立つ。


『うふ、うふ……。動揺しているに違いないわ。私に追い込まれて、無視できないようにしてあげる……』


 何なのシャーロットは。セリアンのことが好きなんじゃないの?

 たしかに前回も、なんだかおかしな執着をしていると思ったけど! まさかマルグレット伯爵みたいな、変な嗜虐趣味があるんじゃ……。


 ってやだ。私の方にも視線をちらっと向けて、にやぁっと笑った。怖い!

 しかし今は客の前だ。隣にセリアンがいるので、一人でいる時より心強い。だから身震いしないようになんとか耐えた。


 挨拶をしたシャーロットは大人しく帰ってくれた……心底ほっとした。

 その後私とセリアンは、無事に婚約披露パーティーを行うことができたのだけど。


 パーティー中に、セリアンはさらにローウェルド司祭達と話していたようだ。私はその時、参加してくれたエリスやフィアンナと話していたので、内容はわからない。

 フィアンナとエリスには心配されてしまった。


「何の目的で、付きまとうのかしらね」

「どちらにせよ今後も用心してね? セリアン様の方に嫌がらせはしないだろうけれど」


 エリスの言葉に私は苦笑いする。ディオアール家に喧嘩を売るようなことは、シャーロットであってもしないだろう。まだ結婚前で子爵の娘でしかない私には、何かするかもしれない、と彼女達も思っているらしい。


「とりあえず今日は心配しなくても良いみたいでよかったわ」


 私はそう言って笑ってみせるしかない。

 そんな話をしていたからこそ、婚約披露パーティーの後のセリアンの話には驚かされた。


「リヴィア、帰る前に時間がほしいんだ」


 その言葉にイロナやディオアール家の使用人たちも、艶めいた話かと勘違いして目が笑っていた。でもセリアンがそんなことをするわけがないって私はしっている。

 何か悪い話でもあるのかと思いながら、パーティー用のドレスから着替えた上で、セリアンと居間の一つで二人きりで話をすることになった。


「ちょっと厄介なことになりそうだ。君にかかわって来ていた、あのシャーロット嬢のことなんだけど」

「ど……どうかしたの?」


 不安になったのが表情からも察せられたんだろう。セリアンは私の隣に座り直し、肩に手を触れて言った。


「今すぐにどうこうというわけじゃないんだ。ただ、まだシャーロット嬢が君や僕になんらかの執着があるのだとしたら、面倒なことをするかもしれないという話なんだ」

「というと?」

「彼女が、マディラ神教の聖女になる可能性がある」

「はい?」


 私はもう、目を丸くするしかなかった。

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