第6話「上陸作戦」


 まだ夜が明けきらない早朝のユリシア海。

 

 そのユリシア海での漁が盛んなユリシア王国の港町「ミズリ」。

 

 現在はバルニア王国の占領下に置かれていて港の船は全てバルニア王国の管理下に置かれ、駐留していたユリシア王国海軍の船はバルニア王国海軍の船に取って代わっている。


 嘗ては賑やかな町だったが活気を失い、町を堂々と闊歩するバルニア人に脅えながらもユリシア人は生活している。

 

 そこに自衛隊の揚陸艦、イージス艦などの少数精鋭の艦隊が送り込まれ、先行した極西基地所属の飛行部隊が到達しようとしていた。


 元々は国産のFー2戦闘機を基に外宇宙の船の技術で改良が加えられた戦闘機に乗る中隊規模のブルーカラーにサメのエンブレムの飛行編隊、対艦攻撃部隊ウォーシャーク中隊。


 制空権確保のために黒いカラーリングにコールサインレイブンの二機――レイヴン1、川西二尉も来ている。


 他にもFー15の改良型で固められたゼロ戦を連想させるカラーとエンブレムのサイクロン少隊も来ていた。


 更には作戦支援の為に電子戦機や航空管制機まで飛んで来ている。


『レイヴン1、2。今回は最初から派手にやっても構わんぞ!』 

 

 と、航空管制機ウェザーリポートが指示を飛ばす。

 前回は政治的配慮で攻撃は禁止だったが今回は最初から派手にやっても構わないと上から許可を貰っている。


「了解、レイヴン1交戦!」


『レイヴン2交戦・・・・・・またFー4なのね・・・・・・』


 二人共前回の出撃と同じ機体で出撃している。

 川西二尉は拘りがあるのか前回と変わらずFー4JCで飛んでいる。

 両翼真下のバルカンポッドも相変わらずだ。

 

『まず上空を哨戒している敵を叩け』


「了解――レイヴン1交戦」


『レイブン2交戦』


『サイクロン隊交戦!!』


 ウェザーリポートの指示でレイヴン1、2とサイクロン隊は上空を飛ぶドラゴンへと攻撃目標を定め、猛スピードで飛び込んでいく。

 戦いに来たと言うよりまるで狩りに来たようだった。


『悪いがこれは戦争なんでな!!』


『ウォーシャーク隊、攻撃目標割り当て完了!!』


『重複目標無し!! 対艦ミサイルロックオン!! 一斉攻撃!!』


『了解!!』


 既にウォーシャーク部隊が対艦攻撃を始め、竜母を撃破している。

 対艦ミサイルは一発ずつきちんとバルニアの軍艦に吸い込まれていき、信管が作動して港すら破壊しかねない程の爆炎と一緒に吹き飛んだ。


「な、なんだ!?」


「一体何が――」


 ドラゴンとその突然の出来事に呆然としたが、二機の黒いカラスのエンブレムの機体に高い高度からの急襲に合い瞬く間に撃墜されていく。


(止まってる的を落とすようなもんだなこれ・・・・・・)


 川西二尉はミサイルをケチってバルカンポッドと機銃でだが手早く仕留めていた。

 何だかんだで彼も前大戦を生き抜いたエースなのである。


「なんなんだ!? 一体な――」


「に、逃げ――」


 血飛沫をあげてドラゴンとその騎手が市街地に落下していく。

 こうして一分もしないウチに制空権を確保した。


『ウォーシャーク隊、攻撃達成率100%間近!!』


『燃料が許す限りこのまま対艦攻撃を続行する!!』


 ウォーシャーク部隊も景気よく船を沈めている。

 このままではイージス艦の出番がないまま終わりそうだ。


「な、何が起きた!?」


 ディアス王子に代わり、港町で艦隊と占領政策を指揮していた艦隊司令官のマクニスは驚いている。


 港に停泊していた自分達自慢の軍艦が轟々と燃え盛り、空に展開していた竜騎士団の代わりに竜以上の早さで飛ぶ鉄の飛翔物体が飛び回っていた。


「マグニス将軍! 港に停泊していた我が艦は全て――」


「見れば分かる!! まさか日本が攻め込んで来たのか!?」


 日本が最初に接触してきた時、このユリシア海の海上でマグニスは空を我が物顔で飛び回る飛行物体に見覚えがあった。


 あの時は何処かの腰抜けな田舎国家だと思っていたが時間が経って冷静に考え、そして此方の艦隊を退けた辺りからある不安を感じていたが――その当たって欲しくない不安が的中した。


 日本と言う国は恐るべき飛行機械を持つ国家だったのだ。


 現にあっと言う間に港の軍艦は焼き払われ、ドラゴン達も赤児の手を捻るように撃墜されていっている。全滅の時間の問題だ。 


「クソ――このままでは――」


 マグニスの脳裏には撤退と言う文字が過ぎっていた。

 手際があまりにも良すぎる。

 明らかに計画的な攻撃だ。

 港町にいる此方の戦力も全て把握されているだろう。

 それをあの攻撃力でやられたら打つ手はない。  


「マグニス将軍! 援軍としてレッドドラゴンを送るだそうです!!」


「なに? それは本当か!?」


 まさかの朗報にマグニス将軍達は士気を取り戻した。


「魔獣、それもレッドドラゴンは制御がまだ難しいからな――此方にも多少の被害は出るだろうが今は謎の軍を迎撃するのが先だ。よし、なんとか持ち堪えるぞ!!」


 そして応戦体勢を整えるに指示を飛ばす。

 軍艦以上の防御力と火力を持ちあせた空飛ぶ要塞であるレッドドラゴンには敵うまい。

 

 敵として回せば厄介だが味方とあれば頼もしい限りだ。


 マグニスにとって、これは最後の賭けだった。

 先ずは防御を固め、そこからレッドドラゴンを中心に反撃へと転じる構えである。



『此方ウェザーリポート。作戦目標達成――燃料が許す限り上陸部隊を援護しろ』


「了解――つってももう倒す敵はいないぞ?」


 川西二尉の言う通り港の敵は全て海に沈んだ。

 後は市街地にいるだろう敵兵ぐらいだが、奪還するべき町を攻撃巻き込むわけにはいかない。

 仕事はもう終わったも同然だ。


『そうね。艦隊もウォーシャーク中隊が片付けたし、敵の砲台を見付けて潰していけばいいのかしら?』


 と、レイヴン2桜木三尉が命令の詳細確認を行う。


「まあそんなところだな――」


 と、川西二尉相方の桜木三尉の意見を尊重した。


『うん? 此方ウェザーリポート・・・・・・この世界はどうなってるんだ? 多数の飛行物体を確認、五十m以上の大型の飛行物体も確認出来た』


「何処の方角から?」


 多数の飛行物体に三十メートルの飛行物体。

 その言葉に川西二尉はイヤな予感を感じてより詳しい情報を聞き出そうとした。


『北の方角から――バルニアの勢力圏からだな』


 話し込んでいるウチに姿を確認できた。

 赤い巨大なドラゴン。

 その周囲を報告にあった魔導式の飛行機械や竜騎士団が飛び回っている。

 

「怪獣が出て来るとはな・・・・・・ウォーシャーク隊? ミサイルは?」


 こう言う時は火力があるウォーシャーク中隊の出番だと思い、川西二尉はミサイルの残弾を尋ねてみる。


『此方、ウォーシャーク中隊。全機景気良くミサイルを使っちまった』


 だよな~と川西二尉は思った。

 ウォーシャーク隊は対艦、対地攻撃専門の重爆部隊である。

 全段外す事無く精確に攻撃目標に撃ち込んで任務を全うした彼達を誰が責められようか。

 

『サイクロン隊。機銃もあるし、ミサイルはまだあるが空対空ミサイルしかないぞ?』


『レイヴン2、まだミサイルはあるし両翼のレーザーキャノンはあるけど敵に通じるかしら』


 他の隊もこんな感じだ。

 バルカン砲ばかり詰んでるレイブン1の攻撃もあの五十mの怪獣――特撮物とかに出て来るサイズの化け物に通用するかどうかは不明だった。


『ウェザーリポート。敵の出方も戦力が分からん。ここはイージス艦・那阿が来るまで持ちこたえろ』

  

 それを聞いてレイヴン1はハッとなった。


「レイヴン1、海上に敵を引き寄せる。そうすれば被害は抑えられる筈だ」


『此方ウェザーリポート。出来るのか?』


「伊達に第三次大戦は生き延びちゃいない」


『分かった。許可する』

 

 フウとため息を付いて川西二尉は愛機のFー4JCを走らせた。


「レイヴン2、まず周囲の敵を黙らせるぞ」


『分かったわ』

 

 と、桜木三尉は川西二尉の後に続く。


『此方サイクロン1、まさか自衛隊の伝統を異世界でやる事になるとはな・・・・・・』


「まったくだサイクロン1」

 

 絶対誰か言うと思ったがサイクロン隊が言いやがったと川西二尉は笑みを浮かべた。

 レイヴン隊とサイクロン隊はドラゴンに向かって飛び込む。

 

『おい、あいつらこっちを見て腰抜かしてるぞ?』

 

 と、サイクロン隊の一人が相手を見て笑うが――


『油断するなサイクロン4。まだ魔法の全てを解明したわけじゃないんだ。手筈通り護衛の竜騎士達を叩く。俺とサイクロン二は右、他は左、レイヴン隊は上から頼む』


「『『『『了解』』』』」

 

 直ぐさま隊長が気を引き締めるように言う。

 そして戦闘機隊は左右、上に広がるように別れ、そして両側面、上空から一斉にドラゴンの周囲を飛び交う飛行戦力に襲い掛かった。


 搭載したミサイル、機銃、レーザーなどが惜しみなく放たれる。 

 竜騎士は血の霧となり、飛行機械は爆発を起こした。

 

「グルオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」


 同時に五十m以上の巨体を持つドラゴンが咆哮を挙げた。


『怒ってる?』


 その事に桜木三尉は疑問を感じたようだ。


「たぶん魔法のアイテムか何かで制御してそれの制御が外れたとかだろう。よく見たら首輪とか付けてるしな」


『じゃあ、戦わなくて済むの?』


「どうだかな・・・・・・おっと」


 ドラゴンはブレスを薙ぎ払う様にして吐いた。

 予想以上に攻撃範囲が広い。

 もし戦闘機が浴びればミサイルなどに引火して空の藻屑となるだろう。


『今迄のドラゴンとは違う! 油断してたらやられるわよ!!』


 警告を飛ばすように桜木三尉が叫ぶ。

 

「まずはどうにかして海の上に叩き出すぞ!! あの巨体が市街地に落下したら大惨事だ!!」

 

 と、川西二尉は先程提案した作戦を開始する。

 それに同意して桜木三尉も『了解!!』と返した。


 真正面から機関銃を浴びせ、そして左右に分かれて通り過ぎる。

 速度を落とし、ドラゴンの誘導を開始する。

 ドラゴンもレイブン1の陽動に引っかかってくれたがブレスの放射が激しい。

 並のパイロットなら撃墜もありえる状況だ。


『ドラゴンの誘導開始――レイヴン1、大丈夫?』

 

 桜木三尉が心配そうに声を掛ける。


「どうにかな。ウェザーリポート? イージス艦からの攻撃は?」


『後方に待機していた電子戦機のナイトアイがデーターリンクして誘導している。ナイトアイ? 大丈夫か?』


 との事だ。

 コールサイン、ナイトアイ。

 電子戦特化型の白い戦闘機で桜木三尉が乗るネクストナンバーの機体に乗っている。

 性能は折り紙つきで、機体の上真ん中辺りに埋め込まれるようにレーダーレドームが搭載されているのが特徴である。


『此方ナイトアイ――リアルタイムで位置情報をイージス艦に送っている。何とか攻撃を凌いでくれ』


「了解――おっと」


 返事を返しながら川西二尉はブレスを避ける。


『レイヴン1!! 見てて危なっかしいわよ!!』


 桜木三尉の言う通り速度を落としてギリギリで相手の放射状に広がる遠くまで届くブレスを見切って攻撃を回避し、誘導しているのだ。


 まるで後ろに目でも付いているかのような神技を披露しながら。


 桜木三尉はどうしてこんなオタクな若い自衛官が二尉でしかも自分の隊長なのか分からなかったが腕はもう疑いようがない。

 本人が言っていたように川西二尉は確かに前大戦を生き延びた歴戦のパイロットなのだと確信した。


『ドラゴン海上に到達。同時にイージス艦からミサイルが発射された。着弾カウントダウン』


「分かった!!」


 急いで川西二尉は退避した。

 ドラゴンは突然の急加速に驚いたに値がない。


『カウント開始、10、9、8、7、6、5、4、3、2、1――弾着今!』


 そして遠くからミサイルが――なにげに外宇宙のテクノロジーでアップデートされた最新鋭のタイプが文字通り目にも止まらぬ速さで接近。

 目標のドラゴンは回避どころか気付く間もなく左脇腹に命中、海上の空でカタログスクッペ通りの大爆発を起こす。


 そしてそのまま上空から海面に落下、大きな水柱が発生。

 

 少しの時間をおいて五十メートルの巨体がプカプカと浮かび、周囲がドラゴンの体液で血の海になっていた。


 見るとドラゴンの、50m以上の巨体の左半分以上がまるで巨大生物に食い破られたかのように無くなっている。

 それ程外宇宙のテクノロジーで強化されたイージス艦の攻撃が凄まじかったと言う事だろう。


『此方ナイトアイ。目標の沈黙を確認。再攻撃の必要なし』


『後は海自と陸自の仕事だな――此方、ウェザーリポート。全機帰投せよ』


 そうして空の勇士達は東の方角に向かって飛び去っていく。


 港町の守備をしていたマグニスにもう戦う意思は無くなっていた。

 バルニア王国の兵士の誰もが意気消沈してその場にへたり込んでいた。


「馬鹿な――ありえない――ドラゴンが――あのドラゴンまでもが倒されたと言うのか・・・・・・」


 大型魔獣の類いは未だに自然災害と同じだ。

 その中でも最上級の存在がレッドドラゴンだ。

 どうしてそれをバルニア王国が御しているのか不明であるが、それを倒したと言うのだ。


 その光景は港町に居た全てのバルニア将兵やユリシアの民が見た。

 

「降伏準備をしろ。去りたい者は去れ――」

 

「え――」


「聞こえなかったのか! あのドラゴンを倒すような奴と戦えるか!」


「は・・・・・・ハッ!!」


 即座にマグニスは降伏を選び、兵士達は素直に従った。

彼達もマグニスと同じ気持ちだったに違いない。


 海上自衛隊の艦隊が到着した頃には既にもう降伏準備は完了していた。

 上陸した陸上自衛隊達はこれには拍子抜けしたが「一発も撃たず、民家や住民に被害を出さずに済んだ」とプラスに考える事にした。

 

 こうして上陸作戦は成功した。

 

 この戦いはバルニア王を激昂させ、バルニアの将兵に衝撃を与え、そしてユリシアの将兵達に不安(日本の事がまだ良く分からないため)と希望を与える事になった。

 

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