4.「底砂はご法度」……ほんとぉ?

 ところで、ウーパールーパーは底棲の生き物である。


 魚の中にも水底を好むものはいる。しかしウーパールーパーの場合はそれとも事情が違って、なにしろ彼らは手足を使って水底を「歩く」のだ。


 だとすると、ベアタンク(※注1)のままにしておくのではなく、底砂を入れるべきではなかろうか。ツルツルして引っかかりどころのないガラス面よりも、砂を敷いてやったほうが移動しやすいんじゃないか。滑らないし。


 というわけで、ウーパールーパーを飼育するのに適した砂について調べることにした。


 するとまあ、謎の情報が出てきたわけだ。


「ウーパールーパーは底砂を誤飲して消化器官に詰まらせるおそれがあるため、ベアタンクでの飼育が好ましい」


 ……さて。どうしたものか。


 正直なところ、この情報を目にして最初に抱いた感想は「そんな生き物いるわけねえだろ」というミもフタもないものだった。


 たしかに流通しているウーパールーパーはブリードされたものだ。が、こいつらにだって原種はいるわけである。原種――メキシコサラマンダーは当然ながら自然環境の中で暮らしているのであって、現地の水底が砂利なのか泥なのかはさておき、少なくとも真っ平らなガラス貼りということはあり得ない。


 誤飲した砂を喉に詰まらせるようなヤツが大自然で生きていけるはずがない。わたしは先の情報を脳内の「眉唾モノ」フォルダに一旦突っ込み、飼育者の口コミを漁ってみることにした。


 結論を述べる。案の定「ベアタンク推奨」は間違いであった。


 このあたりのことは『アクア・デイズ』で扱った(※注2)ので多くは語らないが、どうもくだんの珍説、どこかの動物病院が発祥らしい。死亡したウーパールーパーの消化器官から砂利を発見した獣医が「この砂利が死因になったのだろう」と推測した……とか何とか。


 だが、ウーパールーパーを実際に観察しているとわかるのだが、「砂を飲む」のは捕食行動における大前提だ。近づいてきた獲物に一気に襲いかかり、丸呑みにするのが彼らのスタイル。そのときどうしても多少の砂は一緒に口に入ってしまう。


 そしてどうなるかというと、ウーパールーパーは器用に砂だけを吐き出すのだ。


 また、そもそも「誤飲」なのかどうかにも疑問が残る。意図的に砂利を飲み込んでいるように見えるのだ。それによってミネラルを補給しているのか、胃の中で食べ物を細かくするのに利用しているのかまではわからないが。


 そういうわけで、底砂は敷いたほうがいいという判断に落ち着いた。


 ネットに転がっているハウツーは、多くの場合、リスクが指摘されている行為を勧めたがらない。たとえその指摘が非論理的であっても、である。万一のことがあった際にクレームを避けるにはそのほうが好都合なのだろう。


 だから、情報を鵜呑みにしても最適な飼い方ができるとは限らない。


 今回のウーパールーパーの例で言えば、ベアタンクで飼育すること、すなわち歩きにくさを我慢させることは生体にとってストレス要因かもしれないのである。それでは誤飲のリスクを冒すよりもむしろ寿命を縮めてしまうかもしれない。


 結局、自分のアタマを回転させることが大切なのだ。考えて取捨選択し、その結果を受け止める。それが「責任を持ってペットを飼う」ということではないだろうか。



     ◇ ◇ ◇



 ※注1:底砂を敷かずに魚などを飼うこと。または、何も敷いていない水槽。


 ※注2:ウーパールーパー回は第29話~第31話。

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