第28話 約束の地
城に戻る道中、魔王は私達に今後の事について少し話をし始めた。
「私は、今回の事について……勇者にも協力してもらえないか打診しようと思っています。
そう魔王が言うと、後ろからハンナは私の服の裾を引いた。
「ねえ、アリンちゃんはこれからも戦うの?」
彼女の問いに、私は迷わずに答えた。
「私はこれからも変わらない。お兄ちゃんを助ける為に出来る事をする。それが一番有意義な命の使い方だと思うから。」
もう、自殺をしようとした時のような無責任な事はしてなるものか。
「まぁ、君が何を選ぼうと僕は何処までも君に付いていくよ。だから僕も戦う。」
「ありがとう。あなたならそう言ってくれると思ったよ。」
「それに、僕は僕でディアスの事がある。魂術を使える人物は僕が最後で良い。アイツが後継者を作る前になんとかしないと。」
城に着いた私は、ハンナが手当てを受けている間一人で中庭に行った。魔王軍は今訓練中である為か回りには誰も居ない。
「ミリア、ちょっと良いかな?」
「良いけど、私と話すならわざわざ声を出す必要は無いわよ?心の中で呼び掛けてくれれば大丈夫。」
「そうなんだ……まぁ、今は声出すよ。やっぱり、ちょっと違和感あるし。」
私が彼女と話をしようとした理由は、今日の戦闘を踏まえて彼女の力を少し頼ってみようと思ったのだ。
「私の視覚を補うって事は出来る?流石に片目でディアスとか……あと……戦いたくは無いけど、お兄ちゃんみたいな強敵とやり合うのは無理かもしれないから。」
「可能よ。ただ、戦闘の間だけにしてくれるかな?」
「分かったわ……ありがとう。」
ミリアとの話を終えた私はベンチでハンナを真つ事にした。
「ハンナ、遅いね……」
「うーん……そろそろかな?」
ミリアの声に答えた直後、誰かが手で私の目を覆う。
「誰……んうっ……」
私は、その誰かに唇を重ねられる。でもキスの感触で“彼女”が誰なのか、はっきり分かった。私は安心しきって彼女の首の後に手を回したが、我にかえって彼女を突き放す。
「ハンナ……外ではやめて。」
「良いじゃん。誰も居ないんだし、キスくらい見られても僕は良いよ。」
誰も居ないというのは大きな間違いだ。ミリアがもしかしたらこれを見ているかもしれない。だとしたらこれは、とんだ地獄のような状態なのでは無いだろうか?
「とにかく、次やったら夜も禁止だからね?」
「それは嫌……もうやらないから。」
「分かれば良いわ。」
彼女はベンチを飛び越えて私の前に立つ。様子を見る限りは元気そうで何よりだ。私は気になった事をミリアに問う。
(今までも夜はこうやって見てきたんじゃないでしょうね?)
(見たかったけど、力は有限だからずっと意識を覚醒させてるわけにもいかないのよ。それじゃ、私は寝かせてもらうわ。)
果たして本当だろうか。夜くらい安心して気持ちよくなりたいものだが。
「そういえば、勇者にも協力してもらうって話だったよね。だとすると僕達、帝都に行く事になるのかな。」
「そうね……あんまりあそこには行きたくはないけど。」
「それは僕もだよ……」
二人にとって帝都は大事な物を奪われた場所だ。出来る事なら行きたくはない場所だ。
「じゃあ……そうだ、こうしよう。僕達はあそこに自分の大切なものを取り戻しに行くんだ。そう思って行けば辛さも紛れる。」
「それ良いわね。ありがと。」
また私はハンナの言葉に前を向かされている。思えば私は彼女に生かされているのかも知れない。
翌日、私達は魔王と共に帝都にまで繋がる機関車の駅にいた。勿論、ローシャとカイン、それにエリーゼも一緒だ。
「3時にやってくる車両で私達は帝都に向かいます。到着したら勇者との会合があります。一応、皆さんにも立ち合って欲しいとの事なので……くれぐれも無礼の無いように」
勇者が私達と会うべき理由がイマイチ見えてこないが、多分革命軍の被害者や追跡者として意見が欲しいのだろう。
甲高い音を上げて、黒く巨大な車体が私達の前を横切って止まる。これがどうやら機関車らしい。
「これが機関車かぁ……デカいな……」
「ローシャは、乗るの初めてなのか?」
「ああ。でも、気を緩めてもいられねぇな。」
ローシャが抱いたのと同じような感情を私も持った。これからの戦いは、お兄ちゃんを取り戻すための最終の段階になるかもしれない。この巨大な乗り物に乗り、彼方の帝都に向かえば後には退けない。
私達は機関車に乗り込んでいく。中には紺色の椅子がたくさん並んでいる。居心地は存外悪くない。
「出発しまーす!!」
車掌の声の直後、汽笛と共にこの巨大な車体が前へと加速しながら進む。あっという間に港は遠くの景色に消えていった。
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