第14話 空言
僕は、どこかのベッドの上で目覚めた。周りは真っ暗で、窓からは星が見えた。体の火傷はすっかり消えていたが、足の傷はまだズキズキと痛んだ。
ランタンを灯して横を見ると、アリンちゃんがベッドの上の僕に寄り添うようにして寝ていた。
一度彼女を起こそうかと思ったが、夜遅くまで起きて一人で僕を看ていたのだと思うと、そうは出来なかった。僕はアリンちゃんを起こさないように慎重に、彼女の手を抱いてもう一度眠りについた。
「…ンナ…ハンナ…!」
翌朝、僕はアリンちゃんの声で目を覚ました。
「良かったぁ…ハンナっ!!!」
アリンちゃんは僕を優しく抱き寄せた。柔らかな感触が僕の体を包んだ。
「…ハンナが気を失った後にたくさん
アリンちゃんの声は泣きそうに震えていた。
「僕こそ…君の言う事聞いておけば良かったんだ…」
「結果として行くべき状況だったんだし、大丈夫よ。」
僕は立ち上がろうとしたが、流石にアリンちゃんに止められた。
「ここは…?」
「アバカン市兵団寮の空き部屋よ。カインがほぼ処置はしてくれたの。」
「そっか…お礼言わないと。」
僕の心は晴れなかった。二回も好きになった人の死を体験したのだ。
とたんにアリンちゃんの事が不安になった。
「ねぇ…アリンちゃんは…僕とずっと一緒に居てくれる…??」
アリンちゃんは、僕の言葉を聞いて顔色を変えた。
「なんで…あんたは私の事…そんなにも求めるの…?」
「僕の事は、好きじゃないの?」
「お願いやめて!!そんな事聞かないでっ!!」
彼女の悲鳴にも似た声が、部屋に響いた。
「こんなに親しくした子なんていない位に好きだよ。
だけど…私…そんなあんたに甘えて…嘘を吐き過ぎた……
いつか言わないとって思い続けて…結局言えなかったけどね……」
今度は強く、僕を抱きしめた。僕の服に彼女の涙が滲んだ。
「私はネフィリムなの。もうこの先長く生きるのは難しい。」
それを聞いて僕は茫然とした。
「そんな…嫌だよっ…!!」
「だから言いたくなかったのよ…あんたを傷つけるって分かってたから。」
「ううっ…!!」
僕の目からも涙がこぼれた。
「次に、あんたと初めて会った時の事を話すわ。」
「え、あれは…
「そもそもそれが違うのよ。私があんたの顔を初めて見たのは…帝都の酒場。そこで私は、とんでもない大罪を犯した。」
「まさか……!!!」
「そう。私は…殺しやすそうな女の子に目を付けて、あんたの好きな人を殺したのよ。」
怒りとも、絶望とも言えない気持ちが僕の中に込み上がった。
「だから…私はあんたに殺される事になったって文句は言わないし抵抗もしない。それに、あんたと仲良くする権利なんて微塵も無かった…許してとは言わない…けどこれだけでも言わせて…」
「ごめんなさい…」
僕はアリンちゃんを恨む事は出来なかった。更には好きになってしまった彼女と、あとどれくらいあるか分からない彼女の生活の中に、僕は居続けたいとさえ思った。普通の人が見たら愚かだと思うだろう。でも彼女が僕に見せ続けた優しさまで嘘だとは思いたくなかった。
「アリンちゃん。まだ嘘吐いてるよね。エリーゼさんが、兄さんを助けようとして騙されて、人を殺めてしまったって言ってたもん。殺したくて殺したんじゃないでしょ。」
「うん…お兄ちゃんを助けたい一心で…」
「君がそれ以外で、そんな事する子だとは思えないもん。
許しはしないけど、恨む事はしないし、これからも好きでいるつもりだよ。」
それを聞いた彼女は、子どもみたいに泣きじゃくった。僕は彼女の頭を撫でてなだめる。
「私を受け入れてくれて…ありがとう…」
「僕だって君を放ってはおけないさ。君の兄さんを助けてやらないと、ミリアも浮かばれないし。」
僕はアリンちゃんの頬にキスをした。
「だから、泣いてる暇は無いよ。悔いのないように生きて欲しいんだ。」
僕達は二人で兵団の外に行った。外ではエリーゼさん、カイン、ローシャ、そしてマリーと一緒に居た槍使いの四人が待っていた。
「あんまり遅せぇから迎えに来てやろうとおもってな。」
ローシャは笑顔で僕達に話しかけた。
「ハンナ、俺はジャッカルと言う。
俺のせいでお前達を巻き込んでしまった。申し訳ない。」
「君だってマリーを失った被害者なんだ。そんな事で自分を責めないでよ。」
「俺はこれから、お前達とは別で行動して傭兵ギルド経由で情報を集めてみる事にする。微力だとは思うが宜しくな。」
「うん、よろしく。」
ジャッカルと握手をし、別れた。
「みんな…わざわざ僕の為にありがとう。」
「良いの良いの。困ったらお互い様よ。」
エリーゼさんは明るく答えてくれた。
「色々思う事あるとは思うけど、難しい事は港湾兵団に戻ってから考えましょ。」
僕達は転移魔法でポートフレイに戻る為、あの中庭にもう一度集まった。
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