第28話 マヨネーズさん@がんばらない。

 詳細は省くが、休職期間に入ったにも関わらず、何故か翌日の金曜日、課長と、その他上司や同僚を巻き込んでバトルになるクソ展開になった。

 バトルというか、その後またしょうもないショートメールが入っていたことを考えると、課長の方は私がブチ切れていたことに気付いてもいない可能性があるが……

 ものすごく気使いな同僚の一人がフォローのメールを一通送ってきたのを見て、号泣してしまった。自宅で3時間ぐらい泣いた。仕事のことは忘れて療養に専念してください、業務のことは復帰後に僕らがフォローしますから、という、文字にしてみればものすごく普通のことなのだが、常識的に考えて、この台詞を言うべきなのは直属の上司ではないのか……と思うと、本当に絶望だ。とにかく、悔しさと焦りと同僚の優しさに3時間泣いてから、私は、誓った。


 療養に専念するんだ。


 ……とはいえ、怪我のリハビリとかと違って、今の私にできることって、安静にすることぐらいしかない。そもそも原因や治療法どころか病態もはっきりとしていない状況である。

 わかっているのは、自分の免疫系が異常を起こして戦わなくて良い何かと勝手に戦っているっぽいってことだけである。

 ああ、そうだなあ。私と一緒だ。そんなに頑張らなくて良いのに、何故か必死になって、頑張り過ぎちゃってるんだ。おっぱいが。おっぱいが、無駄に頑張っているんだ……。

 私は泣きながらツイッターで呟いた。


>ねえ、おっぱいさん、何とそんなに戦ってるの?何とも戦わなくていいんだよ。頑張ったね。もう頑張らなくていいんだよ。私も。私も、頑張らないから。何とも戦わないから。つらかったね。つらかったね。。。

posted at 14:44:08


>何かと頑張って戦っているおっぱいのことを責めず、お互い、頑張らないで生きていこうねって、今日の昼間、誓いました。マヨネーズです。

posted at 23:53:34


 そういうわけで、ここから数ヶ月、私はツイッターネームを「マヨネーズさん@がんばらない」に改名し、「がんばらない生活」を心がけると誓った。マヨネーズは膿のことである。尚、元ネタの「ささみさん@がんばらない」は実は読んだことありません、すみません……。「ビスケット・フランケンシュタイン」を昔読んで、面白かったので、今度読もう。




 さて、時間を巻き戻すと、その日は朝から、前日にメスを入れた傷口からじゃんじゃか膿が出ていて、寝ている間にガーゼがどろどろになっていた。

 予約の時間に皮膚科に到着。診察室ではなく、いきなり処置室に呼び出され、処置台に寝かされる。

「どうですか、その後」

「痛みは少し治まったような治まらないような……膿はずっと出てます」

 朝張り替えたばかりのガーゼを先生の目の前でめくると、どろ~っと膿が出てくる。

 昨日切った傷口からそのままもう一度、膿を絞り出す作業が始まった。

 これが、予想以上の痛さだった。昨日はメスを入れるために局所麻酔をしていたのが、それなしでいきなり絞り出すのだ。麻酔なしで針を刺したことはあったが、そのときの傷口は小さい針の穴だけだったので、さほどの痛みではなかった。今回は、爪の先ぐらいの大きさの傷口を力尽くで開くのである。

 先生がおっぱいを押すと、昨日あんだけ大量の膿を出したのに、全然衰えない勢いで黄土色の液体があふれ出てくる。

「生食」

 と、先生は言ったと思う。生理食塩水のことかな、と思ったら、湿らせた脱脂綿みたいなものを、看護師さんが持ってきて、差し出した。何するんだろう、と思ったら、膿と血が出てちょっと塞がってきた傷口に、それがあてがわれた。それで、どろどろした膿や血液が傷口にこびり着いたのを拭い取るのだが、これが、とても痛い! 水が傷口にしみる! しかもその脱脂綿を掴んでいたピンセットを使い、今度は傷口を豪快に押し広げる! 痛い!

 処置自体は2,3分で終わったと思う。ぐったりした私の肩を、看護師さんがまたぽんぽん、と叩いた。膿は3カ所から出ているので、貼ってもらうガーゼがめちゃくちゃでかい。特大サイズを2、3枚駆使してほぼほぼおっぱい全部が覆われる形になった。ガーゼを貼ってもらっていると、いつの間にか一度診察室に行って戻ってきた先生が

「ステロイド、減量しましょう」

 と言った。え、何故こんなに大量の膿を出しておきながら、このタイミングで減量? と思ったが、まあ、休職したわけだし、どうしても我慢できないならまた昨日みたいに予約外で来れば良いか、と思い、頷いた。

 減量は、前回は15mg(3錠)→10mg(2錠)の段階で減らしたが、今回は12.5mg(2錠と半分)という減らし方になっていた。その場で処方箋を受け取り、診察室に一度も入らずにこの日の診療は終了した。

 会計窓口は相変わらず混雑している。大きな病院なので計算とか事務処理とか色々複雑になって大変なんだろうと思うが、システム的なもので何かもうちょっと改善できないものだろうか……なんて思ったりする。まあ、大きな病院でシステムを変えるとなると、それはそれでコストや手間が発生し、最初は混雑も発生するのだろうから、難しい問題である。

 などと考えながら、ようやく「領収書受け取り窓口」から領収書と明細書を受け取り、それを持って、「会計窓口」へと移動する。どちらも列が出来ている。並んでいる間に、領収書の料金を見たら、460円となっていた。「ええっそんな安いの?」と思って内訳みたいなところを見ると、今日は、処置ではなく「診察」だけしたことになっている。結構、がっつり、処置っぽいことをやったように見えなくもなかったが……(というか、された方はされた気分だったがw)。確かに、メスで切ってないし、だから局所麻酔もしていないので、なんか病院の決まり? 的には「処置」にはならないのかもしれない。先生も頑張ってぎゅうぎゅう絞ってくれたので、なんだか460円(3割負担)なんだ……なんか申し訳ないな……という気がしないでもない。まあ別に先生の懐にそのままお金が入る仕組みじゃないんだろうしどうでも良いのかも知れないけど。そして患者としては、これからもこういうマヨネーズ絞り出し処置が続くんだとしたら、お財布的には圧倒的にありがたいけど……。

 ちなみに、前日の、メスを入れた上でのマヨネーズ絞り出しは「手術・輸血」のカテゴリになっていて、5000円ぐらいだった。これまでで一番高かったのは、たしか、MRIで、10000円行くか行かないかだったか。そろそろ、領収書を集めて整理しないとなあ。自己負担額が10万円を越えたら医療費控除とかいうのができるはず。聞いたことはあったが、自分の人生でまさかそんな日が訪れるとは思わなかった。

 人生、何が起こるかわからない、情報は自分で調べて、すこしでも自分の身を守らないと行けないのである。

 でも、頑張らないけど。

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