その猫は臆病な自尊心と尊大な羞恥心を抱える

 現代を生きる官僚の遠藤は激務からの帰宅途中、言葉を喋る獣に出会う。その獣の声がかつての友人にそっくりだと気づいた遠藤は思わず叫んでしまう
「待って。その声は、ズッ友、アチョーじゃない?」と。

 ……どこかで聞いたようなあらすじで、どこかで聞いたようなセリフであるが、本作の場合、遠藤の親友であるアチョー(あだな)がなってしまった獣は虎ではなくて茶トラの猫であった。

 そうして元ネタ同様、久々の再会をきっかけに始まるアチョーの過去話。まあ夢破れて気が付けば動物になっていたというアレである。しかしここからが元ネタとは少々違ってくる。行く当てのないアチョーは遠藤に自分を飼ってくれと頼み、人の良い遠藤はそれをあっさり了承してしまうのだ。虎じゃなくて猫で良かったね!

 かくして始まる一人と一匹の共同生活。どこかすっとぼけた遠藤と妙にあつかましいアチョーのやりとりが非常に微笑ましく読んでいてついつい顔がほころんでしまうし、終盤で滔々と語られるアチョーの心情の吐露には心を打たれるし、最終的に彼らが出した結論に思わずほろり。

 猫好きの人にはもちろん、カクヨムで小説を書いている人たちにも是非読んでいただきたい作品だ。


(「動物と暮らす」4選/文=柿崎 憲)

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