ルビーの血

私はいつものようにお店を開いていた。

そこに必死の様相で、お客さんが入ってきた。


私はお客さんに向かって「いらっしゃいませ。本日は買い取りでしょうか?お求めでしょうか?」と聞いた。

そのお客さんは男性で、私と目が合うと掴みかかるように言う。


「あの。その。貴女は思い出が見えると聞きました」

「は、はい。そうですけど」

思い出が見えることをあまり、公にはしていない。ただ知っている人は一部いる。

刑事の森本もりもとか、一度ここに来たことのある人か。

「よかったー。あのこれの思い出を見て欲しいのです」

男性はルビーのネックレスを取り出した。

私は宝石受けを差し出す。男性はそれを置いた。

「どうして、見てほしいのですか?」

「実は」

男性は深刻な顔で、話し始めた。

「この持ち主の沙羅さらは、私の恋人でして。最近、変な奴等と知り合った後、行方不明になったんです」

男性の話す内容は、警察に通報するべきものだろうかと思えた。

「警察には通報しましたか?」

「それが行方不明になった後、彼女と一緒にいるとされる人物が」

男性は震え出した。

「警察には知らせるなと?」

「はい」

私は男性の話を信用した。

「貴女なら、沙羅を連れ去った犯人が解るかと」

男性は必死だった。

自分の恋人の生死が掛かっている。必死にならざる終えないだろう。

「解りました」

私はルビーのネックレスに触る。


その瞬間、いつものように見えてきた。

映画館のスクリーンで、映像が再生されるように見える。

このネックレスがプレゼントされる瞬間が写し出された。


「誕生日おめでとう」


男性が言った。彼氏からのプレゼントだったのだろう。

彼氏の男性の顔は見えない。

沙羅は嬉しそうな表情を浮かべている。


「ありがとう」

「沙羅の誕生日が7月だから、ルビーにしたんだ」

「凄く嬉しい」

沙羅は自分の首にネックレスをつけて見せる。

男性は嬉しそうな声で「良かった」と言った。

男性の顔が写し出される。私に相談に来た男性と違う。一体どういうことだ。


私は一度、ネックレスから手を離し、相談に来た男性を見る。

「見えましたか?」

「ええ、まあ、ちょっと待ってください。もう一度見ます」

私は男性に愛想笑いをする。男性は興味津々で私を見た。


私は再び触る。

思い出が切り替わった。

このネックレスをプレゼントしてくれた男性とは別れ、相談に来た男性と付き合ったのだろうかと思った。

切り替わった思い出は、沙羅と男性の楽しそうな場面だった。


「でね、サークルの裕二ゆうじのやつがさ」

彼氏の男性が楽しそうにサークルの話をしている。 二人が別れる気配などない。


では、相談に来た男性は一体、誰なのか。


また思い出は切り替わった。

今度は沙羅が合コンに参加している。

どうやら、無理矢理参加させられたらしい。そこにやっと、相談に来た男性が現れた。


沙羅の向かい側に座っている。男性が喋る。


齋藤さいとうさん、僕、同じ学部なのだけど解る?」

沙羅は男性を知っているようで頷く。

「知ってますよ。喋るのは初めてですよね?」

「やっと話せて良かった。前から可愛いなと思っていて」

男性は照れている。他の合コン参加者は、男性をからかう。

「お前、積極的だな!頑張れよ武田!」

「うるせぇな。葉山。齋藤さん、すいません」

どうやら武田という名前らしい。

武田は沙羅に片想いをしていたのだろうか? 私は考える。

沙羅は少し困惑しながら言う。

「ご、ごめんなさい。私、彼氏いて。今日は友達に言われて」

「なんだよぉー。彼氏持ちかよー。チャンスないの?」

葉山が残念がっている。

武田は茫然とした表情を浮かべ、ショックを受けているようだった。

この後は一体、何が遇ったのだろうか。私は嫌な予感がしてくる。


思い出は再び切り替わった。

今度は学食で沙羅と武田が話している。

どうやら、武田が沙羅に告白した後のようだ。

「武田さん。貴方の気持ちは有難いんですけど、私は和樹と付き合っています」

沙羅はきっぱりと断っている。武田は諦めきれないようだ。

「俺にはチャンスないの?好きでいたらダメ?」

沙羅は諦めの悪い武田の応対に困っている。 やはり揉めているのか。

「チャンスはないよ。本当にごめん。武田さんはいい人だと思うけど」

「何で、沢井のどこがいいの?」

武田は和樹の悪口を言った。

好きな人の悪口を言うのが一番、軽蔑される。

「貴方には解らなくていい!和樹の悪口言わないで!」

沙羅は怒り、武田を残して学食を出て行こうとする。

「待って!」

武田は沙羅の腕を掴む。沙羅は振り払う。

「離して!」

「ごめん。本当にごめん。怒らないで、諦めるから最後に一緒に行ってほしいとこがある」

沙羅は武田を見る。武田は涙を浮かべた。

一緒に行ってはダメだと私は思った。嫌な予感は膨らんでいく。

「一緒に行ってほしいって?」

「ううん。蛍が見える場所があって」

「蛍が?」

「うん。だから今夜」

沙羅は考え込んでいる。

私は行くべきじゃないと思った。沙羅が行かないことを願う。 その願いは届くことなどない。

だって、私が見ているのは過去だからだ。思い出は再び切り替わった。


暗い森の中だ。 沙羅は武田に連れてかれている。もうダメだと思った。

「蛍が見えるってどこに?」

沙羅は武田に質問した。

「もうすぐだよ」

先を歩く武田に、沙羅が着いていく。

「ここだよ」

武田は立ち止まる。

「どこ?どこ?」

「どうしても一緒に見たかったなぁ」

「は?」

武田は沙羅の背中をナイフで刺す。

「……っう。なんで」

武田は沙羅に刺したナイフを抜く。

「君が僕のものにならないから。あんなに思ったのに君は」

「…っ……助けて」

武田は、沙羅の腹を思い切り刺す。

血が武田のほほに着く。 私は息苦しくなる。見ていられない。武田はどういうつもりで、私に依頼してきたのか。


私はネックレスから手を離した。

武田と目が合う。

「見えましたか?」

武田の顔はひどく歪んで見えた。

「見えました……」

「沙羅を殺した奴、解りましたか?」

武田は何がしたいのか。私をどうしたいのか。

私も殺す気か?私はボイスレコーダーの録音をオンにする。

「貴方ですよね。殺したの」

「大正解です!」

「何で依頼してきたの?」

私は武田が万一、攻撃してくると思い、防御策を考える。

「過去が見える人が警察に協力しているって噂があって」

「そう」

私と武田は睨み合う。武田は笑う。

「今、貴方が思っているようなことをしようと思ってますよ」

武田はにやにやしながら、私にナイフを向ける。

「私を殺して、自分は捕まらないようにしようと?」

私は冷静を装う。

「その通りですよ」

「へぇ。私を殺しても貴方が捕まらない保証はないのでは?」

「言ってくれるねぇ」

武田は私の顔に向けて、刺す素振りを何度か見せる。

力では勝てない。どうするべきか。迷う。

その時だった。


「うぃーっす!川本!実は」


刑事の森本もりもとヒカルがやってきた。森本は私が武田にナイフを向けられているのに気づく。

武田はすぐさま、私を掴み、首元にナイフを当てる。


「この女の命が惜しかったら、警察に知らせずに出ていけ」

武田は森本が刑事だと気づいていないようだ。森本は笑う。

「この人、大丈夫?」

森本は私を見て、笑う。

「ヤバイ人だよ」

武田は自分がバカにされたと思い、キレる。

「馬鹿にするな!」

私を離すと、ナイフを持って森本に襲いかかる。

森本は武田がナイフを持っている腕をつかむ。

武田は森本の首筋に向かってナイフを突き刺そうとする。

しかし、森本のほうが戦術にたけており、あっさりと武田のナイフを手から

落とした。

すぐさま、武田の右腕を掴むと、一本背負いをする。


地面に打ち付けられた武田が痛そうにへばった。

「っ痛」

「お前はなんだ?強盗か?」

森本は手錠を出すと、武田の両腕にかけた。武田は驚く。森本は笑った。

「俺はこういうものだ」

森本は武田に、自身の警察手帳を見せた。

武田はがっくりとした。森本は私を見る。

「なぁ。コイツ、なんだ?」

「実は話すと長くなるのだけどいい?」

「ああ、わかった。そこにあるルビーのネックレスと関係あるのか?」

森本はルビーのネックレスに気づく。

「そうだよ」

「手短に頼む」

私は森本に、これまで遭ったことを話した。

武田は「自分は人を殺していない」とウソを着いた。

しかし、私は武田の自白を録音していたのだ。

その音声を再生すると武田は黙って罪を認めた。

その後、武田は殺人容疑で逮捕された。

ルビーのネックレスは血を浴びて、悲しく赤く輝いているように見えた。


ルビーの血 (了)


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