彼女のことを救えたなら

月環 時雨

第1話 浸る少年と夢の少女

 16歳。不登校にして引きこもり。高校だけは入っておけと受験したものの、入学式にしか行っていない。やりたいことも特になく、アニメやゲーム、ネット漬けの日々。

 学校からくる連絡を聞いても、別に楽しそうだとは思わない。だったらもっと興味のある学校を受験すればよかったのでは、と思うだろう。確かに、教師から勧められた高校をそのまま受験した。しかし僕は、そのことに関して後悔はない。それどころか、受験勉強中の僕はいつもより活き活きしていたかもしれない。そんな中学校生活に、悔いはない。

 悔いはないけど、心残りは一つ。

 3年生の3学期、僕のクラスの、1人の女子生徒が事故で亡くなった。

 その人は、僕が小学校の時から恋焦がれていた子だった。

 ポニーテールにまとめた、サラサラの長い黒髪が印象的な子だった。

 その子は友達がたくさんいた。それに対して、僕は友達が少なかった。本来なら関わらないような人だったが、彼女はこんな僕でさえ、目が合うとにっこり笑ってくれた。あまり話したことはなかったけれど。

 そんな彼女は、亡くなる直前に彼氏を作った。僕は少し悲しい気持ちになったが、彼氏になった人は人気者だったから、あらがう気にもなれなかった。

 ここまでは特に何の問題もない、ちょっぴり切ない平和な毎日。問題は、この後だ。

 その日2人は、一緒に帰る約束をしていたらしい。後から聞いた話によると、2人で彼の家でおうちデートをする予定だったとか。

 しかし、その帰り道、2人は喧嘩をしてしまった。起こった彼女は道を引き返し、自分の帰路へついた。

 不運なことに、そこで事故にあってしまった。

 大きな事故で、ダンプが転倒したらしい。彼女のほかにも、巻き込まれた人が数名いた。

 つまり、その時2人がけんかさえしなければ、彼女は事故にあわなかったということだ。

「いまさらそんなこと考えても仕方ないか」 

 6月某日の昼下がり。

 外では猫がのんきな鳴き声を上げていた。

 哀れな僕は今更死んだ人のことを思い返し、それに浸っていた。

「でもまぁ、時間が戻ったら、何かしてあげたいよなぁ」

 例えば、彼氏君にどうにかしてけんかをしないよう忠告するとか。

 例えば、僕が勇気を出して彼女と仲良くなり、その日の下校時刻を遅らせて、事故にあわないようにするとか。

 一度考え出したらきりがない。

「一回寝て気持ちをリセットしよう」

 そう思ってベッドに入り込む。昨日の夜は夜遅くまでゲームをしていたから、すぐ眠りにつくことができた。

 すると

「かわいそうな君に、希望を上げよう」

 光輝く女性が、僕に話しかけてきた。

 そうか、これは夢だ。自分の記憶にないものを夢に見るなんて、なんだか不思議だ。

「これは夢じゃない」

「……は? じゃあ、あんた誰」

僕は挑発するように、少し鼻で笑って言った。

「この際そんなことはどうでもいいのです。せっかく希望を上げようといっているのだから」

「えっと」

「君は、茜さんを守りたいんだろう? だったら守らせてあげるよ」

「何を、言っているんだ」

「そのままのことさ。一つ確認をしよう。君は、本来あるべき歴史を変えてでも、彼女を守りたいか?」

「……できることなら、そうしたいものだね」

「ふむ。その願い、聞き入れよう」

「は」

「チャンスは一度きりだ。うまく使え。目が覚めたら、中学時代に戻っているはずさ」

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