第33話 …弱いなりの…戦い方 下

 翌日。


 「おぉ?」とインシュアが言葉にする。

 「いる、6匹。」とチャ子が指さして言うと、ナガミチは適当な大きさの石に腰かけた。


 確かに100mほど離れたところで、狩猟人パーティーとゴブリンが戦闘をしていた。

 狩猟人パーティーは、盾持ちが一人、アタッカーの男は戦士なのだろう、大きな両刃剣を持っていた。

 そのそばにアサシンであろうか、短い剣を両手に持っている。

 そこから少し離れた場所に男の神官と女の魔法使い。

 5人パーティーのようだ。


 アルが腕組みをしながら冷ややかな目で見ている。

 インシュアもアルの少し後ろで見ていた。


 ゴブリンが6体。

 盾持ちの大柄な男がゴブリンを2体ひきつけ、アサシンの女が1体を相手にし、剣士は2体を相手にしていた。

 1体が神官と女魔法使いを草むらに隠れて狙っている。


 盾持ちの男が1体を刺して仕留める…が、剣がゴブリンから抜けないようで、もう1体に攻撃され始めた。

 アサシンは飛び跳ねながら攻撃を繰り出していたが、ゴブリンに浅い傷を与えているだけで致命傷にはいたっていない。

 剣士も1体には傷を与えてはいたが、どうも苦戦している。

 草むらに隠れていたゴブリンには、神官たちも気づいていなかった。


 「ありゃ…、全滅するな…」とインシュア

 「あぁ、なにやってんだ…、あのクソガキどもは…」とアルベルトが言葉にする、その光景を見ていたナガミチが、杖に顎を置いて

 「アル。インシュア…4匹仕留めろ。あとはアサトだ」と言うと、アルベルトが最初に駆けだした。


 「あぁ~くそ!出だしはあいつが速い。全部仕留められる…行くぞ、アサト!」と声にして、背中の両刃剣を抜きながら駆け出した。

 その言葉に促されるままに駆けだす。


 そう、生きる為に狩る。そして、苦戦している同じ種族の人間を、助ける為に狩る。

 …弱いなりの…戦い…死なない為の…戦いをする…


 アルベルトは、草むらに潜んでいたゴブリンの背後に着く。

 どうやら、アルベルトの接近には、ゴブリンは気づいてなかった。と言うか、あれがアサシンの技なのか…。

 背後から心臓に一刺しすると、身を翻して剣士の援護に向かう。

 「あっ、」と神官が声をだすと、女魔法使いもアルベルトに気付いて言葉を発した。

 「…ゴブリン…」と…

 どうやら近くにいたゴブリンには、気づいていなかったようだ。


 アルベルトは剣士の傍にくると

 「おぃ、どけ…」と剣士を突き飛ばし、側転をすると無傷のゴブリンの前に出る、そして、膝を折って態勢を縮めると、足払いをして転ばし、眉間に短剣を刺す。すかさず、剣士が傷をつけていたゴブリンを仕留め、アサシンの相手をしているゴブリンに目をやった。

 「アル、そいつはアサトが!」とインシュアが叫ぶと、盾持ちを相手にしていたゴブリンに切りかかった。


 ゴブリンは、インシュアに気付くと盾持ちの背中に回る。

 盾持ちは剣をあきらめすぐさま振り返り、ゴブリンの攻撃を防いだ。と、そこにインシュアが「…どけぇ~」と怒鳴りながら突っ込む。

 盾持ちは、盾を捨て右側にダイブする。と、同時にインシュアがゴブリンの頭上から両刃剣を振り下ろし真っ二つにした。

 その向こうでは、アサシンの女に腕組みをしながら近づくアルベルトが見える。

 アルベルトが近付いてくると、アサシンの女は、アルベルトに近づいて後ろに回りゴブリンを見た。


 「っチ。」と、アルベルトは舌打ちをする。

 ぴょんぴょん左右にはねるゴブリンの前に、腕組みをして立つアルベルト。

 「…ったく。なんだぁ?おまえ。俺を挑発しているのか?」と言葉にする。

 ゴブリンは、短剣を左手から右の手。そして、左の手へと何回も往復させてアルベルトを挑発していた。

 「…ったく…、とことん頭にくる生物だな…。胸糞悪い。」

 そこにアサトが息を切らして、アルベルトに並び、「…すみません。遅くなりました。」と言うと

 「あぁ~、あと3秒遅かったら、俺の堪忍袋が、どえらい事になるところだった。」と眉間に皺をよせ、かなりイラついている表情で言葉にした。

 「…ほんと、すみませんでした…」とアサト

 「…んじゃ、弱いなりに勝て。昨日の俺に向かってきた意気を見せろ。」と言うと、振り返り距離を置いた。


 インシュアもそばに来る。

 その後に盾持ちと、アサシンの女、そして、アサトを挟んだ向かい側に神官と女魔法使い、遅れて戦士が来た。


 アサトは、鞘から太刀を抜くと中段の構えを見せる。


 ゴブリンが不敵な笑みを見せながら、左右に飛び跳ねて間合いを詰めはじめた。

 その動きを注視している。


 ゴブリンが踏み出すと同時に小さく太刀を振るが、外れる…、それは想定内。


 これはジャブだ…。

 ゴブリンも本気で来ている訳ではないはず、出方を伺っただけだ。


 ゴブリンは後ろに下がると、今度は跳ねるのをやめて、右側に動き始めた。

 剣先をゴブリンに向け、少しずつ…ほんの少しでいい…と思いながら間を詰める…。

 ゴブリンは、横に移動しながら短剣を出す仕草を見せる。

 その間合いは段々と近づいてくる。

 カチン…と、アサトの剣先にゴブリンが探検の剣先を当てた。


 …この距離だ…。

 この間合いを維持するんだ…。


 アサトは、そう言い聞かせながらゴブリンと対峙する。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る