灰色の空:殺人容認高校シラハナ

紅藍

#0 プロローグ

 どこかのバカが言った。

 かつて、ではなく。

 つい最近。

「いやあ、最近の子どもはたるんどるよね。ゆとり世代だっけ? 自主性も積極性もない。反抗心がない分、大人としては扱いやすいが……。これから我が国を引っ張る人材としては心許ないよねえ」

 もうひとりのバカが言った。

「でしたらいっそ、奇抜で過激な手段を講じてはいかがでしょう。ショック療法というやつですな。そしたらば、少しは若者もしゃっきりするかもしれません」

 またひとりのバカが言った。

 最大級に愚図の一言を。

「では、人殺しをさせましょう」

 バカが柏手を打つ。

「そいつは名案だ!」

 バカが首を傾げる。

「しかしそれは、どうですかな?」

 バカが喜色満面、言い返す。

「わたしは最近、本を読んで勉強しましたぞ。そういう危機的な状況に子どもたちを実際に置いた実験があったんですな。そしたらなんと、子どもたちの生き生きとすること!」

 バカどもは頷きあう。

「よしよし、ならばそれでいこう!」

 そしてわたしが転校した学校の生徒会室に、ひとりの死体が倒れることになった。

 部屋は密室。それをクラスメイトがぶち破って侵入。窓際に倒れた死体は、足下を窓に向けて、頭部を部屋の内側に向けている。

 死体の傍の窓は開いているが、ここは六階。窓は出入り口に適さない。スパイダーマンじゃあるまいし。

 わたしは死体に近づく。死体は胸を撃ち抜かれているらしく、白いブレザーを真っ赤に染めている。傍に落ちたスマホが気になるが、少し遠くて取りにいけない。

「…………」

 扉をぶち破ったクラスメイトは人を呼びに行っている。もうひとり、一緒にいた校長は心配そうに生徒会室の入り口でこちらを見るだけだった。大人としては少し頼りない動作だが、今はそれでいい。もし仮に犯人がこの部屋に潜んでいて、騒ぎに乗じて逃げようとしていた場合、彼女はそれを阻止できる位置にいるのだから。

 ただ、この生徒会室、隠れられる場所はなさそうなのだが……。

「どうした!?」

 そのとき、怒声とともにずらずらと、黒い詰め襟学生服の男たちが生徒会室に乱入する。さっきまで入り口にいた白鞘校長を突き飛ばすようにして。

 どうした? はこちらの台詞だ。

 

 この事件の捜査件は警察でも私立探偵でもなく、にあるのであって。

 の馬の骨どもに、出番はないはずなのだが。

 そのはずなのに。

 男子生徒は宣言する。

 当たり前のように、高らかに。

「マーダー・チャレンジ・プログラム。略称MCPにおける白花女学院第一事件の捜査をこれより鉄黒高校生徒会警察が開始する!」

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