第4話 慶應生には危うい偏りがある

ミスター慶應生が逮捕されたという文字を目にして、坂木は反射的に容疑者の名前を検索していた。検索上位にでてくるサイトは浅い情報しかなさそうであったので、掲示板やSNSの方を調べてみると、容疑者の情報はすぐに出てきた。


逮捕されたのは大河内という男。93年生まれ、埼玉県出身。浦和高校を卒業後に慶應大学商学部へ進学。ミスター慶應生に選ばれている。準強姦罪に加えて、ドラッグもやっていたらしいと掲示板には書き込まれていた。


彼は六本木のクラブのVIPルームで、何人かの友人に加えて女の子と激しく飲んだ後、そこにいた一人の女の子に目をつけた。クラブを出た後にしつこく誘い、屋外で行為に及んだ後にその女の子の顔を蹴りつけているところを、近所の住人に通報された。現場を目撃した人の情報によると、多少ラリっていたのではないかということだった。これとは別に、ついこの間も慶應生は逮捕されていた。その男はヒップホップ系界隈では有名人で、ホテルの一室で女とドラッグをしていたところ、ホテルの従業員に通報され現行犯で逮捕された。大量の大麻と、少量のMDMAや成分不明のドラッグが没収されたとのことだ。


それにしても、どうして慶應ばかりドラッグ沙汰が多いのだろうか?それは別に、早稲田でも青学でも起こりうる話なのではないか。慶應へ進学したがる連中の中には、根源的にドラッグへの親和性というべき偏りがあるのかもしれないな、と坂木は思った。そう、慶應生には危うい偏りがある。


「こいつらの共通の友人に美人の女がいる」という書き込みを見つけて、坂木は画面のスクロールをとめた。


大河内とヒップホップ野郎は、facebookのアカウントを停止する前に逮捕されたのか、彼らの情報は友人としてつながっている者から筒抜けでネットにリークされていた。どうやら、大河内とヒップホップ野郎は学部も学年も微妙に異なるので直接はつながっていないのだが、その二人とつながっている友人に、モデルのような女がいるということだった。


その女の写真も掲示板に貼り付けられていた。確かにはっとするような美人だった。そして、その女も慶應大学を卒業しているらしい。つば広の女優帽のような麦わら帽子をかぶり、南国かどこかの海岸で振り返りざまに微笑して写っていた。顔はあまり鮮明には見えないが、立ち居振る舞いと顔の造形からは、人を強烈に惹きつける何かを感じる。彼女が着ている白いワンピースは風紋のように美しい曲線が描かれていて、その場所の風を感じることができた。写真の中のあらゆる要素が黄金比で構成されているのかと思うくらい、それは完璧な構図だった。


慶應でチャラチャラしているだけでこんな完璧な美女と知り合えるんだからいい身分だよな、と坂木は思った。


坂木はその後一週間ほど、その美女が頭から離れなかった。

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