第3話  薔薇と龍

「貼ってくれるかな」三十才

七十キロ、色黒、筋肉質の男が優しく囁く。

サンオイルを塗ったツルツルの肌から

ペロリと龍のタトゥーシールが剥がれる。

「家に着いたらね」二十五才

四十キロの色白の女が微笑む。

胸にこれまた薔薇のタトゥーシール。

流行りものだ。

海辺の日差しの強さから肌を守るため、

男は女の背中に日焼け止めを塗る。

そしてお嬢様だっこで海まで運ぶ。



その男は夫。筋肉がすっかり落ちた

六十才手前の四十五キロ。

龍のタトゥーシールを貼っていた同じ場所に、

私は湿布をはる。

そして薔薇のタトゥーなど全く似合わなくなった

五十五才手前の五十キロ。

背中にアンメルツを塗ってもらう。

 

貼ったり、塗ったりの相手への思いやりは変わらない。

愛だ。素晴らしい夫婦愛。

「連れてって」夫が甘えた声を出す。

「あいよ」私は夫に背中を向ける。


幸年期。私はお殿様おんぶでトイレに運ぶ。

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