ハダカデバネズミの幸年期

星都ハナス

第1話  夜中の訪問者


 ガタッ、とふすまが開く。

 「来たっ?」 「来たよ」

 別の部屋で寝ていた夫が小声で囁く。

 寝ぼけ眼の私はあわてて一枚羽織る。

 今夜も来た。恐れていたあいつだ。

 時間など気にせず、突然の来訪。

 私は替えのパジャマとタオルとシーツを

 持って、夫の部屋に行く。

 あいつの名前はホットフラッシュ。

 偉そうに英語名だ。 <のぼせ>という柔

 かい大和言葉で表そうなんて10年早い。

 滝のような汗。シーツまで濡れとるワイ。

 アポ取ってこんかいと毎回突っ込み、

 夫の体を拭く。夫が悪いわけではない。

 夜中の訪問者は安眠を妨げる。

 夫は水を一杯飲みまた眠る。

 土産も、挨拶もなしにホットフラッシュ

 は帰っていく。

 これがあの更年期の始まりか。

 楽しく過ごし、この時期を幸年期に変えて

 やろうとニヤリと笑い眠りについた。

   

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