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 選挙の翌日、私は熱を出して学校を休んだ。一人で静かな家にいると、余計なことを考え始める。私は昨日のことを思い返していた。開票結果を見たコトは、「過半数に達してない」と言っていた。八票差だから、たった四人の差だ。もしくは白票が三〇以上もあるんだから、その内一〇票が相手のものだったら……。そう思うと、本当にどっちが勝ってもおかしくなかった。


 私には組織票もあった。選挙前、ミッキー先輩が齋藤先輩について教えてくれていた時だ。

「タカキちゃんは有名人でね」と、先輩は楽しそうに話す。「一年生の頃から鬼のように勉強して、学年トップの成績を譲ったことはない。去年は放送部から生徒会長選に立候補するや、圧倒的支持で当選。現職の生徒会長だ」

「すごいんですね」

「その通り。そしてみんなタカキちゃんという人間にとても興味を持っている。クールな顔立ちに、人を寄せ付けないあの雰囲気だ」

「はぁ」確かにシャープな感じはする。

「そこへ一年生のかわいい女の子が正統な後継者として現れたら、みんなはどう思うだろう。敢えて一年生を後継者として擁立するということは、よほどその子に思い入れがあるんだろう、という風に見えないかい? 告示日以降、三年生の間では彼女説も含めていろいろなうわさが飛び交っている」

 ミッキー先輩のウィンクは自然で、いやらしさもぎこちなさも無い。これは生まれ持った才能だと思う。

「そんなの根も葉もないじゃないですか」と否定するが意に介さず、「根も葉もなくても花は咲く。悪意がなくても疑問は憶測を呼び、憶測は確信へと育っていくものだ」だって。

 ミッキー先輩はニヤリと笑った。この人は何か企んでいる時はいつも楽しそうにしている気がする。それから一秒おいて、先輩は「それを利用するんだ」と私に助言した。

「タカキちゃんの正当な後継者だと言うだけで、三年男子という組織票はサキちゃんものになる」ということらしい。


 ということは、逆に言えばそれが無かったら私は負けていたのだ。布団を頭まで被る。演説は私の方が断然盛り上がったし、規則の撤廃とか文化祭クラス費の増額とか、内容だって勝ってたと思う。それなのにこの僅差。選挙って思ってたほど簡単じゃないのかな。「馬鹿な国民を扇動して票を集めればいい」くらいに思ってたけど。

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