悪戯狐と嘘つき狼

みずかん

第1話 極悪コンビの愚行

私は絵を描く事が好きだったが、その才能に特段の関心を示してくれる奴は誰もいなかった。こんな事はもう無意味だと思い、私は広い世界を放浪した。

だが、本当に世界はつまらなかった。

死ぬ事も念頭に置きながら、歩き続けてると、砂漠にて1人の人物と出会った。


彼女もまた、この世界について不満を抱いていた。私と彼女は、“この世界に対する不満”という共通点を持っていた為に意気投合することになった。


彼女はフェネック。

私はタイリクオオカミ。


私達は、この平和ボケしたパークを転々としながら行く宛もない旅をしていた。







緑深い森の中を歩いていると、私達の目の前にあるフレンズが出てきた。


「なんだよ!なに見てんだよ!あっち行けよ!」


何とも高圧的な態度を取るフレンズだ。


「ねぇ〜、あんな奴やっちゃおうよ」


フェネックが小声で囁く。


「そうだね...、暇だし」


私は笑みを浮かべた。


「何だよ!何コソコソしてんだよ!」


両手を上げているのは、威嚇のつもりか。

滑稽だ。


私は色の異なった目で睨み付けながら、

間合いを詰めて行った。


「な、こ、こっち来るなよ!」


素早く彼女の胸ぐらを掴み持ち上げた。


「うがぁっ...!?」


「お前は誰に向かってそんな口が聞けるんだ?...ああっ!?」


「ひっ...、ご、ごめんなさい...」


小心者だ。弱い癖に高圧的な態度を取る。

典型的なバカだ。これは、痛い目に合わせないと、改心しない。


「ごめんで済む問題じゃないよ!」


怒鳴りつけ、地面に叩きつける。


「痛ぁっ...」


「キミには自覚が足りないんだよ…」


フェネックもそう言って片足を彼女の腹に食い込ませる。


「いたたたた!!」


「弱い癖に偉そうにしてんじゃないよ、アホが」


「弱い動物は弱いらしく巣穴でも篭ってれば?」


私達は嘲り笑いを見せながら、罵声を浴びせた。


「あぁっ...、すみま...せんでした...」


彼女は苦し紛れに謝罪を述べたので

足を離した。


「二度と調子乗ったりするんじゃないよ?今度やったら、これだけじゃ済まないからね」


「私たちにかかわらないでよね〜、おバカさん」



彼女から少し離れた所で笑いが込み上げた。


「あははは!実に良い表情だったね!」


「そうだね、ふふっ...、アレは傑作」


私も彼女も他者を困らせるのがとても大好きだった。弱そうなフレンズを見つけては

今みたいに恐喝をしたり、物を盗んだり、

まあ色々やっては楽しんでいた。


奥まで進むと大きな川へ出た。


「わーい!」


楽しそうな声が聞こえる。

よく見ると、灰色のフレンズが遊んでいる。


私は一度フェネックの方を見た。

アイコンタクトで次の標的を決定したのだ。


「おーい、君、何してるんだい?」


私が声を掛けた。

すると、彼女は一度川へ潜ってから、

岸辺まで来た。


「あたしコツメカワウソ!

ああやって滑るの楽しいんだ!君達は?」


「私はタイリク」

「フェネックだよー」


「ここに何しに来たの?川を渡りたいの?」


「うーんと、そうだね...」


私達の目的は川を渡る事ではない。

もちろん...






「うぁーん...!!」


川を泳いでいたジャガーは、その泣き声を

聞いた。


(あれは...、コツメカワウソの声!)


泣き声など聞いた事が無かったので、急いで現場に向かった。


「キミさー、ムカつくんだよねー」


フェネックはそう言いながら、靴の踵を腹に食い込ませていた。タイリクは彼女の両腕をガッチリと拘束している。

コツメは十字架に掛けられたような姿勢になっていた。


「ほらほら、もっと泣きなよ、弱虫!」


タイリクは煽てる様に言った。


「痛よぉ....やめてよぉ...」



「おい!何してるんだ!」


その声で振り向いた。


「ジャガー...っ!!助けて...!」


「ッチ」


「...ふん」


コツメカワウソを乱雑に放り投げ、フェネックと共に逃げた。


「待て!!」


ジャガーは咄嗟に追い掛けた。

フレンズがフレンズを虐めていたのが、

気に食わなかった。正義感に駆られ本気で追いかける。


「はぁ...!早い...、何アイツ...!」


「マジかよ...」


フェネックも走るのは得意ではない。

私も、動物だった時は走るのが得意だったが、この身体では速く走れない。


「おい、待てっ!!」


ジャガーはそんな2人に直ぐに追い付いた。






結局、2人は捕まってしまった。

こうなってしまった以上、大人しくせざる負えない。

ジャガーは捕まえた2人をある所まで連れて行った。


さばんなちほーの水場だ。


「カバ、聞いてくれ...」


事情を説明すると、温厚そうな彼女の顔が豹変した。


2人は正座させられ、こっ酷く叱られる事になった。


「自分より弱い子をいじめたらダメでしょ!私達フレンズはみんな仲良くしなきゃいけないのよ。あなた達見たいに弱い子を見つけていじめるのが、本当の弱い子なのよ!」


カバは心を込めて長いお説教をしていたが2人にとっては馬耳東風。

話の内容など殆ど聞いていない。

適当に、“はい”とか、“すみませんでした”を繰り返すだけだ。


「カバ、この2人どうする?」


ジャガーは尋ねた。


「パークの掟を破った訳ですしねぇ...」


カバは腕を組み考える。


「そうだわ...」







「ここで大人しく反省してなさい」


2人は木に縄で括り付けられてしまった。

ミナミコアリクイをいじめたこともバレてしまい、夜、不気味な森の中で過ごすという罰を与えられたのだ。


「...、ここはダメだったね」


タイリクが言った。


「そだねー...、もっと怖くないフレンズが居るとこに行く?」


「湖畔とかどうかな」


「おー、いいねぇー。いつ行こうか?」


「今行こうよ」


不敵な笑みをタイリクは浮かべた。

それに応じる形で、フェネックも笑った。


反省する気は更々無い。


タイリクは器用に手を動かし、自分のツメで縄を裂いた。


「よし、行こうか」


「はいよー」


このお騒がせ極悪コンビの旅はまだ始まったばかりだ...。

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