第8話 メイクゲーム

「二回戦に行うゲームは……」

 トゥルズが、勢いよくキーボードのキーを押した。



メ・イ・ク・ゲ・ー・ム



「メイクゲームです。二回戦はかなり自由なゲームになります。プレイヤーで行うゲームを自分で作成メイクしてください」


 ……これはまた、なかなか凄いゲームが出てきたな。

「と、言ってももちろん、細かいルールもあります。初めに言っておきますが、今回はリハーサルなしで説明していくので、聞き逃さないようにしてください。一応、後からルールを見直す手段もありますが、ここで覚えた方が賢明です」

 

「まず、二回戦では、プレイヤーの10名全員に、タブレットを支給します。今から、全員分配布するので、まずはご自身の指紋を登録してください。タブレットは、1分間操作をしないと電源が自動的に切れます。電源を入れ直す場合は、タブレットの管理者である私か、タブレットの持ち主の指紋を認証しないと操作ができないようになっています。とはいえ、二回戦のゲームの中で私がタブレットを操作することはないので、基本的には自分のタブレットは自分しか操作することは出来ません」


 全員にタブレットが配られた。俺は、早速電源をつけた。

 『右手の人差し指を置いてください』というメッセージが表示される。


「ちなみに、予め言っておきますが、他の人のタブレットは、電源がついている状態で持ち主から手渡しされた場合のみ使用することができます。電源がついて置きっぱなしになっているタブレットを使用する行為や、タブレットの強奪及び他人のタブレットを隠す行為は、禁止事項になっています。禁止事項が侵された場合は、一回戦と同様失格となります。失格の時の処遇は、後程説明します」


「じゃあ、電源がついてないタブレットを誰かから貰ったときは、どうなるんだよ?」

 これは、例の4人のうちの1人の、五十嵐の発言だ。

「その場合は、失格にはなりませんが、操作することができないのであまり意味はありません」


 タブレットの指示を見て一瞬、誰かに取られたときのために別の指を置こうかとも考えたが、トゥルズの説明を聞いた限り、そんな小細工は必要なさそうだ。俺は、タブレットの指示通りに右手の人差し指で指紋を登録した。


 トゥルズが全員の指紋の登録が終わったことを確認し、説明を続ける。

「タブレットの用途については後程説明します。まず、このゲームの目的は今から配られる、50枚のメダルをより多くの枚数手に入れることです。プレイヤーの皆様は、このメダルを賭けたゲームを作って下さい。先ほども述べましたが、もちろんルールもあります」


 早速、一人につき50枚ずつのメダルと、それを入れるケースを渡された。


「ルールは全部で5つあります。自分で作れるということで、少々縛りが多いですがしっかり覚えて下さい。1つ目は、4人以上が参加できるゲームにすることです。ちなみに、人数指定は6人以下か6人以上という大きな括りであれば許可されます」


「2つ目は、メダルの枚数が10枚以上変動する可能性のあるゲームにすることです。但し、プラスとマイナス、両方の方向にです。例えば、敗者はメダルを5枚失い、1人の勝者はそれらのメダルを全てもらえるというルールだと、マイナスの方向には10枚未満しか変動しないので、認められません」


「3つ目はメダル総数が50枚×10人=500枚から変わらないゲームにすることです。例えば、勝者や敗者の数が決まっていなくて、敗者は10枚メダルを失い、勝者は15枚メダルを失うといったゲームだと、勝者や敗者の数によってメダルの総数が変わってしまうので、認められません」


「4つ目は2時間以内で終わるゲームにすることです。これは2時間以内に終わらないゲームになってもゲームは行えますが、2時間が過ぎた時点で没収試合となりメダルの移動はありません」


「最後に5つ目です。これはいたって単純で、殴り合いなど暴力行為が前提になっているゲームにしないことです。『前提となっている』というのは、最初からゲームの中に組み込まれているという意味です。例えば、殴りあう時間があるゲームは当然ですが認められません。回りくどい言い方をしているのは、仮に暴力行為があったとして、作った人が罰せられたら何も作れなくなってしまうので、このような表現になっているだけです」


「じゃあ、例えば『たたいて被ってじゃんけんポン!』とかはセーフなの? アウトなの?」


 ……突拍子もない質問だな。これは、俺の目の前に座っていた目黒の発言だった。あいつには悪いが、ちょっと健一と通ずるところがあるような気がする。

 皆が一斉に目黒の方を見たが、目黒は気にも留めていないようだった。静かにトゥルズの返答を待っている。


 ……当のトゥルズも、想定外の質問に少し困惑しているようだった。

「えー、それはギリギリ認められるかもしれませんが、4人以上が参加できるという条件は、満たしていないので認められないと思います」

「あー、そっかぁ。じゃあダメだな」


 自然と笑い声が起こる。目黒も周りと一緒に笑っていた。緊張感に包まれた会場が、ほんの一瞬だけ緩んでいく。

 でも、この説明を聞く限りは、『鬼ごっこ』とかでも一応認められるってことだ。参加する人はいないかもしれないが。

 一段落したところで、トゥルズが仕切りなおした。


「ゲームを作った人(以後『親』とする)がゲームを作ったら、タブレットを使って登録してください。認められればその時点でゲームが作成されたことが放送され、ゲームの内容がタブレットに表示されます。放送から15分後、参加を表明する人が親を含めて4人以上(指定があった場合はその人数の範囲内で)いれば、ゲームの開催が決定し、即時でゲームがスタートします。また、ゲームの参加は、自分が持っているタブレットからすることができます」


「質問だ。もし人数が合わなかったらどうするんだ?」

 ここで一回戦で俺と同じくコールド勝ちをしている月影がトゥルズに尋ねる。

「はい、人数が合わなかった場合はそのゲームは没となり、メダルの移動などなく元の状態に戻ります」


 つまり、人数を指定するのにもリスクを伴うというわけだ。没になったらまるまる15分が無駄になってしまうしな。でも、これだとゲームを作らないほうが有利なのではないか……?


「また、ゲームを開催するときですが、この部屋の中にある4つのドア、この先にそれぞれ4つの部屋があります。部屋AとB、CとDは繋がっていて、一つのゲームに2つまで部屋を使用することができます。通常はロックがかかっていますが、ゲームの開催が決まった時のみ、ロックが解除されます。全員が部屋に入ったらもう一度部屋にロックがかかり、この広間にいる人は中の様子を見ることはできません」

 なるほど。さっき開かなかったドアは、このことだったのか。


「ここまでがゲームを作る際の大まかな流れです。ここで一つ、追加の説明をします。親は、ゲームを開催すればそのゲームの参加者から参加料として1枚ずつメダルをもらえるという特別ルールがあります。人数が合わなかったり、時間が過ぎて没収試合となった場合は、この1枚はもらえません」


 参加料……か。もし全員が参加すれば、それだけでも9枚のメダルがもらえる。さっきの疑問は、ここで解消された。


「ここから、ゲーム全体の説明をします。まず、ゲーム時間は8時半~12時半の4時間です。ゲームの途中で12時半を過ぎた場合も、先ほどと同じで没収試合となり、当然参加料の1枚もなくなります。12時半になった時点でゲーム終了となり、メダルを現金に換金し、それが賞金となります。メダル1枚のレートは10万円です」


 当然だが、1回戦の時より賞金の規模は大きくなっている。1回戦の時はコールド勝ちしてやっと500万円だったのに、今は全てのプレイヤーがそれと同じ額に値するメダルを持っていることになるのだ。

 

「ちなみに、何回ゲームを作っても構いませんし、作らなくてももちろん罰則はありません。但し、親は必ず自分の作ったゲームに参加しなければならないので、私が放送したあとに別の親のゲームに参加することはできません。ディーラーは、ゲームの開催に合わせて必要な分だけこちらで用意します。親のルールに基づき、公平なジャッジを行うので心配は無用です」

 難しいな。自分がゲームを考えて親となるか、他の人が作ったゲームに参加するか。めちゃくちゃなゲームでは時間を浪費するだけになってしまう。


「ここで少し、補足の説明をさせていただきます。まず最初に、プレイヤーが作ったゲームについて、ルールは満たしているものの不完全な部分があった場合は、こちらからタブレットを通して質問をさせていてだくことがあります。その場合は、早めに返信をくださるとありがたいです。30分経っても返信が来なかった場合は、申し訳ありませんが没ということにさせていただきます。また、タブレットを通して質問が来てから、質問に返信するまでの間ならば、登録を取り消すことができます」


「また、これはゲームの内容には直接関係しませんが、このタブレットにはチャット機能が搭載されています。このチャットは、自分が決めた相手にだけ、メッセージを送ることができるというものです。この機能は、二回戦が終わり、タブレットを回収するまでの間ならいつでも使うことができます」


 はぁ、チャット機能か。これを使えば、わざわざトイレに行かなくても、健一と連絡を取ることができる。でも、これは他の人にも同じことが言えるんだよな。この機能は、二回戦のカギとなる機能になりそうな予感がする。10人の中で、うまく立ち回ることが必要とされそうだ。


「それでは最後に、失格について説明します。以下の条件を満たした場合失格となります」


「1つ目は、ゲームに2回負けることです。『負ける』とは、自分のメダルの枚数がゲームによって減少することを指します。また、当然ですがメダルが0枚以下になったときも失格になります」

 

「2つ目は、ゲーム終了時に、ゲームに参加した回数が2回未満の場合です。没収試合は参加に含まれないので気をつけてください」


「3つ目は、ゲームをしないでメダルを移動させることです。渡した方も受けた方も両方失格になります。ただし、盗んだ場合はこの限りではありません」


「4つ目は、先ほど説明した通り、タブレットの不正な使用です。他の人のタブレットを使えるのは、そのタブレットの持ち主から手渡しされた場合だけです」


「最後の5つ目は、暴力行為です。失格になると借金1000万円となり、メダルはすべて没収となります。また、その後の他の人が作ったゲームには参加できなくなります。また、この没収についてはゲームを作る際のルールの3つ目の、メダルの総数の変動にはカウントされません」


「ゲームの説明は以上です。何か質問はございますか?」

 誰も声をあげないまま3秒経ち、もう質問は出ないだろうと思ったが、ここで本庄が1つ質問をした。


「えっと、もしメダルを1枚だけ持っていて、親が作ったゲームに参加しようとしたら、親に払う参加料でメダルが0枚になってしまうよな? そういうときって、どうするんよ?」

 ……あぁ、そういうことか。質問にしては、微妙に話がまとまっていないような気がするが、着眼点は鋭い。


「はい、そもそも参加料は、没収試合のこともあるので、ゲームが終わってメダルの移動をするときに、参加料を加味して計算するというルールになっています。そのため、持っているメダルが1枚でも、ゲームに参加することができます。ただし、参加料は失格の条件である『2回負ける』の判定には影響しません。他に質問はありますか?」


 質問は、今度こそ無いようだった。


「質問が無いようなので、これにてルール説明を終了とさせていただきます。20分後の8時半にもう一度ここに集合したあと、二回戦を開始します。それまではご自由にお過ごしください。皆様のご健闘をお祈りいたします」


 トゥルズが言ったルールをもう一度思い出す。


 メイクゲーム、か……



 俺は作戦を考えながら、健一にチャットを打ち始めた。

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