お伽話に取り残された私の話 ―改稿版―

ヴィルヘルミナ

お伽話のような結婚式

 華々しく音楽が鳴り響き、人々の歓喜の声が上がり、美しい薔薇の花びらが舞い踊る。


 大通りを進むパレードの中心、六頭立ての白馬の馬車に乗るのは、婚礼衣装に身を包んだ金髪碧眼の青年と長い銀髪に青い瞳の美しい王女。お伽話の一場面とも思えるような光景の中、人々の表情は喜びに満ち溢れて輝いていた。


 貴族と平民。厳格に分けられた階級制度が敷かれた王国の歴史を打ち破り、王女と平民の結婚式がこれから行われようとしている。


 可憐で慈悲深く〝銀の聖女〟と称される第三王女スヴェトラーナは、学問で優秀な成績を修めた平民ダヴィットに恋をした。一方で平民ダヴィットは王女に憧れ、王国に尽くす為に学問の道を選んでいた。


 二人の出会いは偶然であり必然。二人の恋は静かに燃え上がり、優秀なダヴィットの功績を認めた王は二人の結婚を許し、盛大に祝うことを国民に約束した。



「ダヴィット! 私よ! エミーリヤよ!」

 人混みをかき分けて沿道から馬車に向かって走り出そうとした私を、屈強な兵士が取り囲んだ。伸ばした手は、押さえつけられ、まるで罪人のように後ろ手にされた。


「ダヴィット様は公爵になられた。お前のような平民の女が近づいて良い方ではない」

「話を、話をさせて!」

 非力な女が暴れても無駄だった。兵士に口を塞がれている間に、美しく輝く二人が乗る馬車は私の前を通り過ぎていった。

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