昇二は百一段階段のたもとに放り出された。車はあっという間に走り去っていった。

 それは高台にある高校へのアプローチとなる階段で、その名の通り百一段ある階段だった。

「ゴー・ゴー・レッツ・ゴー! しょうじ!」

 突然元気のいい声を浴びせられ、昇二はびくっと肩をすくめた。顔を上げると、階段にずらりとチアガールが並んでいるのが見えた。あまりにも超現実的な光景だった。

 チアガールたちは、きびきびとした動きで足を蹴りあげ、ポンポンを振って昇二を応援した。

「レディ、オーケー?」

 一番下の段のチアガールが問いかけた。

 昇二は圧倒されてこくこくとうなずいた。

「エブリバディ・セイ!」

 一番下のチアガールが上に向かってコールすると、仲間たちが応えた。

「ゴー・ゴー・レッツ・ゴー! しょうじ!」

 昇二は声援に押されるようにして百一段階段をのぼりはじめた。

 チアガールたちは段差をものともせずに華麗な技を披露した。彼女たちが飛び跳ねたり、片足を軸にして回転したりすると、ミニスカートがふわふわ舞ってショートパンツがちらちら覗いた。

「S・Y・O・J・I! SYOJI!」

「ヘイ! ナンバー・ワン!」

 一段のぼるたびに、昇二はチアガールたちから全力の笑顔で前向きな言葉を投げかけられた。

「ファイト!」

「笑顔を見せて!」

「負けないで!」

「くじけちゃダメ!」

 昇二は、笑顔を見せてと言われると顔がこわばった。負けないでと言われると負けそうになった。くじけちゃダメと言われるとくじけそうになった。

 階段も残りわずかになると、昇二はチアガールたちに担ぎあげられた。

「レディ? レッツ・ゴー!」

 最初に一番下の段にいたリーダー格のチアガールが言った。

 チアガールたちは昇二の手足や胴体を掴んで高々と持ちあげると、そのまま一気に残りの階段を駆けあがった。一番上に着くと、昇二は「ヘイ!」という全員揃った掛け声とともに空高くへ放り投げられた。

 昇二は、わけも分からずに空中できりもみ回転しながら、このまま地面に激突して死ぬことを夢見た。そうはならなかった。チアガールたちが手を交差させて作ったネットで、うまいこと昇二をキャッチしたのだ。

「ヘイ!」

 チアガールたちはフィニッシュを決めると全員でポーズを取った。

 昇二が一番息が切れていた。

「き、きみたちは誰?」

「私たちは101匹チアガール!」

 リーダー格のチアガールが元気いっぱいに言った。

「匹? 人じゃなくて――」

「エブリバディ・セイ!」

 リーダー格のチアガールが昇二をさえぎってコールした。

「ゴー・ゴー・レッツ・ゴー! しょうじ! ヘイ!」

 他のチアガールたちが応えた。

 チアガールたちは、ポンポンを振りながら跳ねるように退場していった。

 あっという間に誰もいなくなった。昇二は一人とぼとぼ校舎に向かった。

 教室に入ると、昇二はいきなりドロップキックを食らった。廊下まで吹き飛ばされると、後ろに回り込んでいた生徒二人に捕まって再び教室に投げ戻された。昇二は腕まくりをして待ち構えていたクラスメイトにラリアットで迎えられた。

 床に突っ伏して喘いでいると、数人に取り囲まれて激しくストンピングされた。ようやくそれがやんだかと思うと、一本の手がすっと差し出された。昇二は思わずその手を掴んだ。強い力で引き起こされたかと思うと、頭を相手の膝の間に挟む格好にさせられた。助けてくれるのではなかった。昇二は体を逆さまにして抱えあげられた。教室が沸いた。パイルドライバーだった。

 失神しているうちに四時間目まで終わっていた。

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