炎都の王子

第一話 砂塵の二人

 踏み出す足が地に沈む度、砂埃が舞う。季節外れの疾風がそれを宙へと巻き上げ、淡黄色の澱みへと溶け込んでいった。

「…こうあっては進んでいるのか戻っているのかも分からんな…」

 灰色の薄汚れた厚手のローブに包まれた一人が言う。もう一人の声がそれに応えた。

「間違いない。ここより北北西へ二リート(四km)ほどだ。あと一刻(二時間)もあれば見えてくるだろう」

「…この視界でか?」

 両手を額の上に置き、ローブの人物がおどけて見せながら続けた。

「西壁を経由していれば今頃は旨い酒で酔いしれておられたかも知れんがな…。ま、文句は言わんさ。お前に任せることにしたんだ。それよりも…確かなんだろうな」

 問いに対してすぐに返事は返ってこない。突如悲鳴を上げるような風が突き抜け、二人は小さく身を屈めた。

「任せると言う割にいちいち小煩い奴だ…。疑うのならば貴様だけでも引き返すか?一人でも十分な仕事だ」

「…ふっ、大した自信だこと」

 それ以上二人は会話を続けることなく、ただひたすらに進んだ。目指すべき道標は視えない。ただひたすらに広がる荒砂の景色は、人の絶えた終末を描いているようでもあった。

 二人のどちらかがボソリと呟く。

「…八年…か。未練がましい死人に、今こそ真の終焉を──」

 二つの影は再びの砂塵に紛れ、もう見えなくなっていた。

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