第39話 本当の絶体絶命

 藍の悲鳴を受けてすぐに動いたのは霧口氷河だった。「黙れ」と繰り返し脅しながら、暴れる藍を藤次郎と二人で抑え込んでいた。そして二人掛りで無理やり元のベッドへと放り投げる。江向吹雪の指示で俺の上から越ケ浜佳澄が離れた。


「そうだ、佳澄。こいつには彼女が犯されるシーンをたっぷりと見せるんだ」

「はーい。私たちもしばらく鑑賞しまーす」


 そして藍の上に覆いかぶさった霧口氷河が、ワンピースの上から藍の豊かな胸を揉みまくっている。


「へへへ。このデカいおっぱいはたまんねえな。へへへ」

「嫌、嫌よ。止めてえ!」

「黙れ。このメスガキ」

「嫌あああああ!」


 藍は両手と両脚をバタバタと動かして必死に抵抗しているのだが、彼女の両手は藤次郎に抑えられ、両脚は清十郎に抱えられた。


「嫌あああ! 助けて緋色お!」


 目に涙をためた藍が俺の方を見る。俺だって助けてやりたいんだが、手足を縛られているから身動きが取れない。


 霧口氷河が藍のワンピースをひざ下からたくし上げてしまった。藍のむっちりとした太ももが露わになり、淡いピンク色のショーツも見えた。そして、淡いピンク色のブラに包まれた豊満な胸元も。


「ひゃあ。こりゃデカいぜ。はあ。たまんねえ」


 霧口氷河が藍の胸に顔を埋める。

 藍は「嫌、嫌」と繰り返し叫びながら体をくねらせ、必死に抵抗しているのだが、それが返って霧口氷河の興奮を煽っている。


 藤次郎は両腕を抑えつつも、器用に藍のワンピースを脱がしていく。伸縮性のあるニット生地の為か、すんなり脱がす事に成功したようだ。藍の裸がモロに見えている。そして、尚も暴れる藍の背に両手を回した霧口氷河は藍の立派なブラのホックをすんなりと外してしまった。


 露わになった藍の乳首に霧口氷河がむしゃぶりついた。


「ああ。こりゃいい。乳首も乳輪も小さめでピンク色じゃないか。こんな綺麗なおっぱいは初めてだぜ」


 いいように蹂躙されている藍を見つめ、俺は自分の無力さを痛感する。今まさにレイプされようとしている藍を助けることができない。そんな自分に対して涙が出て来た。悲しさが心の中に充満して、性的に興奮するなんてない。さっき江向吹雪が言ってたことは嘘っぱちだ。


 枕に顔をこすり付け、目に溜まった涙を拭きとった。そして床に敷かれた布団を見たのだが、そこにいるはずの美海さんの姿が消えていた。布団の上には美海さんの手足を縛っていたであろうロープも落ちていた。しかし美海さんはいない。俺はそっと周囲を見渡してみる。


 藍の上に覆いかぶさって、藍の体を乱暴に触りまくっている霧口氷河。藍の両腕と両脚を抑えている藤次郎と清十郎。その様を見つめている江向吹雪と大型のビデオカメラを抱えて撮影している金谷太。越ケ浜佳澄と河添奈々恵は俺の寝かされているベッドにちょこんと座り、乱暴されている藍を見つめていた。


 この部屋は10畳ほどの広さだ。窓際に藍が寝かされていた立派なダブルベッドが据えてあり、反対の壁側に俺が寝かされていた簡易ベッドがある。美海さんは床に敷かれた布団に寝かされ、それはダブルベッドの傍だ。恐らく、ビデオ撮影する際の為の配置なのだろう。しかし、美海さんの姿はどこにも見当たらないし、その事に誰も気づいていなかった。


 さっきだ。藍がベッドからずり落ちて美海さんの上に乗っかってしまった。あの時に美海さんは目を覚ましてこの部屋からそっと逃げ出したに違いない。それは、今まさに藍がレイプされそうになっているこの悲惨な状況下で、唯一の明るい出来事だと思えた。


 藍は「嫌、止めて」と叫び続けている。霧口氷河はショーツに手をかけ脱がそうとしていた。藍は体をくねらせ、必死に抵抗しているのだが剥ぎ取られるのは時間の問題だろう。あの巨乳を揺らしまくって抵抗する様にも、霧口氷河は興奮しまくっているのだろう。性質の悪い変質者だ。


 もうダメだ。

 藍を助けてやれない。


 俺が諦めたその時だ。床に円筒形の缶が転がって来てそれが激しく煙を吹き始めた。噴き出す白い煙が充満し、部屋の中は何も見えなくなった。


 これは何なんだ。

 煙幕弾っていうやつなのか?


 そういえば、グレーの缶にSMOKEと書かれていたような気もする。軍用だとしても、こんな狭い空間で使うなんて馬鹿げている。


「この煙は何なんだ」

「火事か?」

「わからん。とりあえず逃げろ」


 その場にいた面々は咳き込みながら、部屋から出て行った。しかし、俺はどうすればいい。手足を縛られて身動きが取れないんだぞ。


 ゴホゴホと咳き込んでいる俺にガスマスクを被せてくれた人がいた。その人もガスマスクを着けていたのだが、小柄な体形から美海さんだと分かった。


「大丈夫か。今、ロープを切ったるで」


 美海さんの声だ。彼女は赤に白い十字のマークが入っている柄の小型のナイフを使ってロープを切断し、俺を開放してくれた。


「藍がいるんです」

「大丈夫や。藍ちゃんは会長さんが救助しとる」


 会長。

 そうか。彩花様だ。


 ん?


 そう言えば、彩花様はどうやっていたかは知らないが、この家の監視カメラの映像を把握していたんだ。俺たちのやウルトラフリーの霧口氷河の行動は全て把握していた。そして藍がレイプされそうになった時点で介入した。本当にギリギリのタイミングだったのは、証拠映像を十分に確保するためだった。


 そう考えると辻褄が合う。だが、藍をあんな目に合わせるまで放置しておくのは人が悪いと思う。


 しかしだ。まさか睡眠薬を使ってレイプしようと企んでいたなんて、彩花様にとっても想定外だったのだろう。そんな事をしたら普通は犯罪行為になるはずだ。それをビデオ映像を撮って脅迫していた。また、薬物を使って性的快楽に依存させるような真似もしていた。


 こういう輩は本当に性質が悪いと思う。犯罪者組織に匹敵する悪さをしながら、学生の身分で堂々とサークル活動を続けていたのだから。


 俺は美海さんに手を引かれ、合コンが行われた大広間へと向かった。そこには素っ裸の霧口氷河たちと薙刀を構えた椿さんが対峙していた。

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