第6話 立場を乱用するのはよくはない

 馬車からおろされた僕達はそのまま城の中を歩かされている。


 目指している場所は謁見の間。


 つまり聞いた話通り僕達はこの国の王に会わされるらしい。


 いきなり王が「有罪!死刑!」などというような輩でなければいいのだが。


「……?」


 兵士達に囲われて移動している最中、周りから視線を感じる。


 最初は犯罪者に対する嫌悪かと思ったが顔を窺うにそんな様子ではない。


 何か遠慮しながらもこちらを見ているというか、見ては視線を逸らしているというか。


…エルフを連れている僕が物珍しいのだろうか?


 そう考えてはみるものの、結局思い当たることななかった僕は謁見の間まで首を傾げ続けるのだった。



 ◆●◆●◆●◆●◆



 予定どおり僕達は謁見の間へと辿り着く。


 周りには槍を構えた兵士達が列となって僕達を囲っており、おかしな動きをしたらすぐに取り押さえるつもりなのも透けて見える。


 僕達の正面にいる王と王妃の尋問を滞りなく終わらせるための準備だとしたらこの国の王は慕われているのだろう。


 そしてその王だが王らしからぬ鍛えられた肉体、腰につけた剣。


 どうやらなかなかの武闘派らしい。


 体格も大きく身体中に傷があることから若い頃は戦士だったのかもしれない。


 その筋骨隆々の王の隣の妃はそれとは真逆。


 純白のドレスに身を包み穏やかな笑みを浮かべた彼女はその綺麗な肌に傷1つなく美しい姿をしている。


 まさしくこれこそ王妃と呼ぶに相応しいといった様子だ。


 その二人の前に僕達を連れていった兵士達が、玉座に座っている王達に礼をした後、大きな扉から謁見の間を出ていく。


 最後の兵士が出ていくと同時に謁見の間の大扉は轟音と共に閉じる。


 そしてこちらを睥睨した王は1つの咳払いと共に口を開いた。


「それではこれよりお前達に問いかける。

 …と、言いたいところだが…」


「…なんだ?」


 何やら先程まで険しそうな顔をしていた国王が僕をみて気まずそうに視線を逸らし、見て、逸らしては、見てを繰り返す。


「…うぉっほん!…そのだな…なぜお前は服を着ていないのだ…」


「…………ん?無かったからだが?」


「無いわけがないだろう!何より!縄で肢体が浮かんでおろう!」


「突然の縛られたのはこっちだ!」


 どうやら王は裸ローブで縛られ裸体の浮かんでいる僕の姿が気になるご様子。


 ここでようやく今までの兵士達の視線の意味がわかった。


 …あいつら僕の胸とかを見ていたのか!


 今更ながら縄はローブに食い込み胸の谷間やお尻を強調している。


 といってもしたくてやっているのではなく、裸ローブの時に捕まるなどとは予定外もいいところ。


 手も縛られているためどうしようもない。


途端に恥ずかしくなるがもはや後の祭りである。


 ―結局、こちらの姿が気になって仕方ない王様がこちらを直視出来なかったため、王妃の命によって僕に大きな上着がかけられることで王の尋問は再開された。


「それでお前が自称大魔導師か?」


「…大魔導師かどうかは知らないが僕がレスティオルゥという名前なのは事実だ」


 少なくとも嘘じゃない。


 僕が大魔導師と呼ばれているかどうかは僕には分からないし、僕の名前はレスティオルゥだ。


 だがこちらの話をはなから信じていないのか、小馬鹿にするような顔で王が反論してきた。


「適当なことをいいやがって!いいか?今までのその名を好き放題使っていた奴らは山程見てきたが…どいつもこいつも口ばかりのぺてん師どもだった!お前もそのうちの1人なんだろう!」


 …どうやらこのリアクションを見るに僕の名前を騙る者共が過去にいたらしい。


 そして漏れなく僕もその1人だと思われているようだ。


 だが、これはチャンスではないだろうか?


 ここで僕が「実はそうなんですー。偽物なんですー」と言ってしまえば少し怒られるくらいで許されるのでは?


 そうすれば後ろのエルフの少女にも危害は加わらないかもしれない。


そう思った僕は念のために確認をとることにした。


「もし僕が偽物だとしたらどうするんだ?」


「打首」


「…は?」


「火炙りから打首」


「は?」


「大魔導師レスティオルゥの名を騙る輩は打首獄門だ!」


火を吹きそうな勢いでこちらに王が返事をする。


 思ったよりも罪が重かった!


 良かった…確認しておいて良かった。


「…あー…だったらどうやってお前に僕が本物のレスティオルゥだと証明すればいい?」


 この感じだと僕が本物のレスティオルゥだと分かっても首を飛ばされそうな気はするが、何とかして後ろにいるエルフの少女だけは他人ということにして逃がしてあげよう。


 そんなことを考えつつ王へと問いかける僕に鼻をならした彼は返事をした。


「そんなことは簡単だ。大魔導師のみが使える伝説の秘術、『言葉のままに世界を変える魔術』をやってみせろ!まぁ、偽物のお前には不可能だろうが…」


「そうか、わかった」


「…え?」


 思ったよりも簡単な証明方法を提示されたので王の気が変わる前に僕は実行に移した。


 後は野となれ山となれだが後ろで心配そうにこちらを見ている彼女だけは逃がさないと。


「【レスティオルゥが命ずる!縛りし縄は消えよ!】」


 僕の言葉により魔力が世界を変える。


 そしてきつく結ばれていた捕縛用の縄が「ぱっ!」と光るとその光りと共に姿を消した。


 周りでそれを見たもの達が驚いているが僕は構わずに縄の当たっていた場所を撫でる。


「…ふぅ…ようやく解放された。

 これで僕が本物のレスティオルゥだと証明されただろう?」


 謁見の間がざわめく。


 偽物だと思っていた犯罪者が実は本物のだったことに驚いているのだろう。


 あとはついでに後ろのエルフの少女について問われたら「拾った!」と無関係を装えば…。


「…まだだ!」


「えっ?」


 何故かさっきよりも血走った表情の王がこっちを見ている。


「一度ではダメだ!もし本物なら…!」


「カッ!」と目を見開いた王が王冠を持ち上げる。


 …そこにはとても輝かしいスキンヘッドが姿を現した。


「もぉしっ!もしお前が本当の大魔導師ならこの死んだ毛根を再生させてみろぉ!」


「…お、王?」


「本当に大!魔!導!師!なら!国費を半分費やしても復活しなかった私の髪を再生させてみろぉ!」


「国費を半分!?」


 何か必死な王から何か聞いてはいけない情報を聞いてしまった気がする。


 ふと周りの兵士や王の隣にいる王妃達に視線を送ってみると皆さん悲しげな表情で頷いている。


「本当に!貴女がぁ!大魔導師様ならぁ!お願いしますぅっ!」


 …だんだん敬語混じりになってきている…。


 そこまでか。


 なんかもう僕が本物だということは証明出来ている気がするが、何となく憐れに思えた僕は軽くため息をつくと改めて秘術を使う。


「【レスティオルゥが命ずる!国王の死んだ毛根よ蘇れ!】」


 魔力が世界に…というか王のスキンヘッドに溶け込んでいく。


 そしてスキンヘッドが太陽のように輝いたかと思った次の瞬間、次には髪の毛がフサフサに変貌した王が光臨していた。


「お、おぉぉぉぉっ!」


 王、歓喜。


「ふぉ、FOOOOOOOOOOOOOッ!!!」


 王、超歓喜。


「FOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!!…」


『バタッ!』


 両手を天に伸ばして喜んでいた王がそのまま白目を向いて倒れる。


 …興奮しすぎて意識を失うほど嬉しかったのか…。


 ――その後、なんともいえない残念なモノを見る表情の王妃の指示のもと王が搬送されていった。


 で、残された僕とエルフの少女と王妃。


「…えーと…これで僕が本物のレスティオルゥだと分かってもらえたか?」


 王は意識を失ったが少なくともあちらの要望を叶えたからには捕まることはなくなるかもしれない。


 そんな可能性を脳裏に馳せつつも話を進めようとした僕だが、思いもよらない王妃の一言でまた戸惑うこととなる。


「はい、まさか本当の『救世の大魔導師様』だとは露知らず…ご無礼をお許しください」


「…はい?」


「はい?」


首を傾げる僕と、首を傾げられ首を傾げる王妃。


 どうやらまだ僕と彼女の認識には何か差があるらしい。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る