第8話 優位性

「コンペット君...スミス君が待ってるのではないかね?」


 コンペットの話を中断させるグデリア。流石に我慢の限界だったようだ。


 コンペットが話したのは、俺に施した整形手術の話だ。無駄な知識の披露が多かったが、皆概ね内容は理解したようだ。


「この方の身分の偽造は、私の方で済ませておきます。グデリア元帥は、早急に陸軍から選抜を行なって頂きたい」


「このグデリア。ローゼ様の御意志のままに...」


 歳の割に、スッと腰を上げたグデリア元帥は、真っ直ぐに俺の方へと歩いてくる。


「君は、見たところ一騎当千の武人であろう?期待しているぞ。スケアー『親衛隊少佐』」


「ハッ!」


 体に染み付いた、直立不動の姿勢。そしてハキハキとした返事は、それだけで良い軍人を体現している。


 『親衛隊少佐』と言ったのは、階級を用意するという事だろう。グデリア元帥の様な上官は、大事にしなければならない。後ろ盾が無くなれば終わりだ。


 グデリア元帥は部屋を出る。ガチャリとドアが閉まり、部屋にはローゼ、リリ、アグライア、そして俺の4人となった。


「ローゼ王女。親衛隊からは誰を選抜するんだ?」


「そこの2人よ。私が最も信頼している親衛隊員だわ」


「女か...」


「あら?人間と違って、エルフの女は強いわよ?」


 ポツリと出た本音に、アグライアが反論する。


「まあいい...それは『今後』確かめていくとしよう」


「なんか嫌な言い方ね...」


 露骨に不快感を示されたが、まあ合ってるので仕方ない。


「とりあえず、装備の回収をしなければならない。人の選抜はどれくらいかかりそうだ?」


「最低でも1週間はかかります」


「1週間か...ならばここの2人を借りてもいいか?」


 ローゼ王女は少し悩んだが快諾した。1人は反発しているが。


「ローゼ様!いきなりこんな奴の言う事は聞けません!断固反対です!」


「リリ、あなたの気持ちも分かるわ。でも、お願い」


 ローゼ王女が頼むと、リリは黙ってしまう。どうやら、ローゼ王女の言う事には逆らえないようだ。


「わかりました...でも、アンタを認めた訳じゃ無いからね!」


「構わないさ。貴官の階級は?」


「親衛隊少尉だけど、それがどうしたのよ」


「俺が人間だろうが、エルフだろうが、上官には従えと教えられなかったか?」


「ぐっ...!ま、まだ決まった訳じゃないし」


「将来の上官への接し方は考えろよ。若造」


「ッ!そこまで言うなら、そのご自慢の実力を見せなさい!所詮、人間如きにエルフは負けないわ!」


 おお、丁度いい。魔法による攻撃や、エルフの強さを見たかったところだ。


「ローゼ王女。こう言っているので、模擬戦を行ってもいいか?無論、安全には配慮する」


「はぁ...2人とも、あまり事を荒立てないでくださいね...」



場所:ローゼ所有の森林

時間:夜

天候:曇り


「えー...ルールは、スケアーさんの発見および捕獲。銃の使用は無し。魔法の使用は有り。ただし殺傷性の高い魔法は禁止。以上ですね」


 つらつらと読み上げるローゼ。巻き込まれたアグライアはジッとリリを見つめる。


「な、何よ...」


「あなたのせいで面倒なことになったわ...」


「アンタはあんな人間に好き勝手指図されてもいいの!?エルフの誇りは無いの!?」


「そういう問題じゃないわよ」


 どういう事よ!と噛み付くリリを無視して、アグライアはローゼに問い掛ける。


「いくらなんでも無謀です。魔法の使えない人間が、森林での戦闘に長けたエルフを2人も相手にするなんて」


「それは彼も承知だと思います。ですが、この場を指定したのは彼です。余程、自信があるのでしょう」


 気味が悪い。自分から不利な状況を作るなんて...


 だが、この考えは大きく裏切られる。森林、そして『夜』というステージは、この男の独壇場なのだ。


 大きく口を開ける森林。闇で暗く彩られ、不気味に感じる。まるでモンスターの様に、いつもは自分達の味方の木々が、こちらに牙を向けているようだ。


 教育は既に始まっている。エルフが人間よりも優位などという幻想を、捨てさせるのだ。

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