愚かさのサンジョウ
安芸空希
第1話 異世界転生? 否、それは悪質な人攫いである
銭湯の前にある小さな公園。
そんな場所にどう見ても不審者が3人いた。
この公園にある唯一の遊具――3台のブランコにそれぞれ座っている。
中心には自称国籍不明のニート、獅子王・大和。
右隣には、自称指名手配中のフランス人、アルセーヌ・トンヌラ。
左端に、自称密入国中の日系ロシア人、ユーリー・ハヤシバラ。
揃って職業不定の24歳。
現在、公園の時計は2時を指しており、太陽は絶賛輝いている。
すなわち深夜ではなく、麗らかな午後。
それなのに、不審者3人は平然とした顔でブランコに揺られていた。
「ふたりは今、におんであやっている、異世界転生、知ってますか?」
拙い日本語でチビのアルセーヌが言う。
フランス語はHを発音しないので、彼はは行がうまく言えなかった。(ふが言えるのはFの音だから)
「……まぁ」
日本人の大和が頷く。
ただ、学生時代のあだ名がナンブラーだけあって、彼は日本人と思われていなかった。
無国籍を名乗っているのはふたりの自己紹介をジョークと勘違いした結果――つまり、その場のノリである。
「なんだい、それは?」
大和がジョークと決めつけたのは、このハゲのロシア人――ユーリーが泳いで北海道に密入国したと言ったからだった。
「主人公が死ぬ目に遭って、妄想世界で活躍するおあなしです。それもにおんの文化を使って儲けます」
色々と間違っているが大和は黙っておくことにした。
ここでは無国籍の反社会行動者(ただのニート)を名乗っているのだから、真面目な答えなどいらない。
ちなみに、その誇張が原因で大和は仲間意識を持たれ、ふたりからヤバいカミングアウトをされ、ヤバい話もされるようになった次第であった。
「そこでワタシ、いらめきました」
もっとも、大和は裏社会に変な憧れがあったので不謹慎にもふたりとの会話を楽しんでいた。
「トラックでいいてから攫えば、素直なにおん人の奴隷、手にあいる。異世界転生、奴隷からあじまるの多い。だからきっと、勘違いしてあたらいてくれます」
アルセーヌが日本語を読めると思えないから、情報源はアニメだろう。
が、やけに偏っていた。
「それは素晴らしい案だ、アルセーヌ。けど、日本の警察優秀。事故の時点できみが捕まる」
ユーリーが常識的なツッコミ入れ、
「オー・ピュテン」
してやられたといった具合にアルセーヌは自分の額を打った。
「それに、殺さないよう轢くのも中々難しい」
本人曰く、日本人の血が入っているのでユーリーの言葉は巧みである。
もっとも、その割に体系はガチムキ。
「だから、後ろから殴るといい。ようは死ぬ目に遭わせればいいんだろ?」
加え、日本における常識や倫理観も伴っていなかった。
「ユーリー、セビエン。それいいです。まず、後ろから頭殴る。そして攫う。あとはあこぶだけ。完璧です」
「けど、当てはあるのかい?」
「知ってる船、あります。奴隷は扱ってないけど、なんとかなるはずです。におん人、真面目であたらきもの。みんな知ってる、みんなおしがる」
「あっ……」
不意に大和は気づいてしまった。
その案に致命的な穴があることを――
「……アルセーヌ、それは異世界転生じゃなくて転移だと思うよ」
そう、本人の顔が変わらない限り、誰も転生だと思わない。
「転生と思わせたいなら、意識のない内に整形しないと」
ドヤ顔で言うも、中学時代から引きこもりをやっていただけあって大和は可哀そうなくらい馬鹿だった。
だから穴だらけで修復不可能とも気づかずに、小さな穴を塞ぐことにこだわる。
「おー、ヤマト。整形、お金かかる」
アルセーヌがそんなお金ないと嘆くと、
「……あんなの、ようは切ればいいんだ」
大和は自らの非を認めず暴論で返した。
「いや、叩いて伸ばして詰めるのも必要だ」
だというのに、まさかの追い風。本気か冗談かわからないユーリーまで、素人でもいけると口にした。
「なるおど。わかりました。ワタシやってみます。これで億万長者、夢じゃない」
そう叫んで、アルセーヌは走り去っていった。
「……」
薄情にも、今度彼の顔を見るのはネット上かもしれないと大和は思った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます