第8話 リボルト#02 新たな出会いは、そこに絆がある Part3 超能力大好きモデル

 さて、それじゃお言葉に甘えて、他のみんなと挨拶をしてこようじゃないか。

 椅子に座っていた俺は、両手で机を押さえ、身を支えながら立ち上がった。さて、どうしたものか……

「やっほ~、秀和くん。キミの噂は、菜摘から聞いてるよ」

 誰かに挨拶をすればいいかと悩んでいたら、急に菜摘の左隣に座っている子が、手を高く振りながら俺に声をかけてきた。

 どうやら、彼女は菜摘とは知り合いのようだ。まあ、あれだけ菜摘と同じくモデルみたいな格好からすれば、ある程度想像はつくな。

 その菜摘に劣らないレベルの元気さの満ちた声に釣られて、俺は思わず彼女に近付けた。


「これはこれは、はじめましてだな。菜摘の知り合いか?」

「そう! アタシは美穂、春谷はるたに 美穂みほ。菜摘とはこの学校で知り合ったの。よろしくね」

「ああ、よろしくな」

 美穂と名乗った女子は、派手なピンク色のツインテールの髪をしている。その瞳が放つ明るい光から、宝石のような異彩を感じる。そしてその菜摘に劣らないほどのプロポーションは、太陽に照らされる青春の証と言っても過言ではない。


「美穂も、モデル志望かな?」

「おお、凄いね! もしかしてキミはエスパーなの!?」

 俺の何気ない一言に、何故か美穂は急に身体が跳ね上がり、尊敬の眼差しを投げてくる。

「いや、別にそういうわけじゃねえけど……ただ美穂は菜摘と同じく派手な格好をしてるし、しかもここで知り合ったわけだから、もしかしてそうじゃないかってさ」

「そっか~まあ、見れば分かるわね、普通。さすがにエスパーがこう簡単に現れるわけはないか~」

 ハイテンションな美穂は、椅子に吸い込まれるかのように、深く腰を下ろして凄い勢いで座り込んだ。ひそんでいる眉間から、少し落ち込んでいることが窺える。


「もう美穂ちゃんったら、本当に超能力好きなんだね~」

 美穂とは知り合いの菜摘さえも、変わった目つきで彼女を凝視している。やはりそういう非現実の分野に興味を示している人は、理解されるのは容易くないか。

「だってほら、超能力って凄いって思わない? 手を使わずにものを動かしたり、翼を使わなくても飛んだり、何かカッコいいわよね~アタシ、こういうの凄く憧れてるんだわ~ほら、見てよこれ! アタシのお守り!」

 そう言って、彼女はポケットから45度のお辞儀をしている鉄製のスプーンを取り出した。超能力の定番アイテムだな。どういった経緯でスプーンがあそこまで曲がるのか、ここは聞かないでおこう。

 まあ、カッコいいのは否めない。だが、実際に目撃したことがあるわけでもないし、たとえ超能力が出来るとしても、身体の潜力ポテンシャルを約半分以上引き出さなければならないだろう。


 とはいえ、たとえこんな技術があるとしても、世界はまた混乱に陥っちまうに違いねえ。そしてら大人たちまた面倒くさい法律でも考えて、色々制限するんだろうな。

「でもさ、一目でここまで分かるなんて、やっぱ何か凄い力とか持ってるでしょう? もしかしてこれってイケメンパワー?」

「えっ?」

 顔を机の上に伏せていた美穂は何かを思い出したかのように、いきなり身体を俺のほうへ乗り出して、興味津々な目で俺を見つめる。

「あーあ、また始まっちゃった……」

 菜摘は片手を額に当て、脱力感が漂うような表情を浮かべている。一体どうしたんだろう?


「どういう意味だ、菜摘?  『また始まった』って」

「美穂ちゃんはね、すっごい面食いなの。一度イケメンと認識した男子は、もの凄い攻勢でアプローチするんだよ」

 なるほど、そういうことか。だからさっきはあんなに積極的に俺に声をかけたんだな。

「こりゃまた、大変なことになりそうだね……」

 菜摘は両手のひらを開き、上に向けて、やれやれと言いたげに首を横に振った後、表情を一変させ、真剣な声で美穂を注意する。


「あんまり秀和くんに迷惑をかけちゃダメだよ、美穂ちゃん?」

「分かってるわよー! もう、そうムキになんなくたっていいじゃない」

 まさか友達にこんな風に注意されるとは思わなかっただろうか、美穂は不機嫌に顔を膨らませた。しかし、その不機嫌な顔も彼女の悪知恵によってかき消され、早速不気味なニヤリとした笑顔へと変化する。

「あっ、もしかして菜摘はヤキモチかしら? だーいじょうぶだって、いくらアタシが面食いだからって、菜摘のものは奪ったりしないって!」

「なっ、なな……! 急に何言ってるのよ、美穂ちゃん! ヤキモチなんて、全然これっぼっちもしてないんだから!」

 美穂に言い返された菜摘は、瞬く間にほっぺたがリンゴのように赤くなり、動きもぎこちなく見える。大きい声で反論としても、内心が慌てているのがバレバレだ。

 こうなった原因は、一つしかないだろう。


「どうした、菜摘。もしかして図星か?」

「ちょ、ちょっと秀和くんまで!? そこは見て見ぬ振りをしてよ~」

 こりゃ間違いない、当たりだ。まあ、菜摘は親友である同時に一人の女の子だ。俺に気があるのは無理もないだろう。

「おやー、鋭いわね秀和くん。やっぱエスパーなんじゃないの?」

「エスパーじゃねえよ。ただ『鈍感』って言われるのがイヤなだけだぜ」

 俺は色んなアニメやゲームで経験してきた、女子たちが主人公への扱い。ひどいっていったらありゃしねえ。中で一番ひどいのは、主人公が「鈍感」って言われることだ。男子だって、鋭いやつがいるんだぜ? だがそれを証明するために、まず俺が鋭くならなければならねえ。そう、おとことしての尊厳プライドを守るためにな。


「相変わらず負けん気だな、君は。けどさ、たまには鈍くなる必要な時もあると思うぞ? ほら、菜摘が困っているじゃないか」

 なかなか話に割り込めなかった哲也は、やっと一言しゃべれた。よく見ると、俯く菜摘の顔はすでにチリソースより強い赤みに満ちていて、両手で腰に巻いているカーディガンの裾をそわそわと揉みほぐしている。

「うう……どうして分かっちゃうの……恥ずかしい……穴があったら入りたい気分だよぉ……」

「受け入れたらどうなんだ? それが現実なんだ」

「そういう問題じゃないの!」

「なんだよ、人が慰めてやろうと思ったのに」

「慰めになってないよ、それ!」

 ダメだ、調子が狂ってきた。千恵子に続いて菜摘までこんな失態をするなんて、一体どうしてこうなったんだろう……


「まあまあ、エスパーくんは他の子たちに挨拶してきなよ! ここはアタシと哲也くんに任せなさい!」

「そうだな、ここは一旦頭を冷やしたほうがいいと思うぞ、秀和」

「分かった。じゃあ、菜摘は頼んだぞ」

 まだ茫然としてる菜摘を見守りながら、俺は足を動かして、他のクラスメイトに声をかけることにする。

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【雑談タイム】


菜摘「もーう、なんてこと言うの、美穂ちゃん! もうお嫁にいけないよぉ……」

美穂「あはは、大げさだって。でも反応しちゃったってことは、やっぱり……」

菜摘「わわわ、これ以上はダメだよー!」

美穂「いいじゃない、恋する乙女一番美しい! 全力で応援するよ、アタシ☆」

菜摘「う、うん……ありがとう、美穂ちゃん。でも、秀和くんの気持ちもちゃんと聞かなきゃね」

美穂「それはそうだけど、自分の気持ちもどんとぶつけなきゃ!」

菜摘「うん、そうだね!」

ゲーム少年「イイハナシダナー」

美穂「なによアンタ! そんなにゲームばかりしてたら、目がデータで爆発するわよ!」

ゲーム少年「別にいいんじゃねえ? どうせこの世界も偽りの存在だし」

美穂「ちょっ!アンタね……」

千恵子(ああ……真面まともな人はいないのですか……泣きたい気持ちで一杯です……)

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