第13話 Zoologian

 タイリクオオカミの切れ長の目が俺を睨み付けている。いい表情だ。背中の辺りがぞわぞわする。

「私を辱めるつもりか、智也!見損なったぞ。」

「ふふん。なんとでも言えよ。ヒトはこうやってお前達ケモノを支配してきたんだ。ヒトの力の前にひれ伏せ、タイリクオオカミ!」

「くっ…!」

 観念したようにオオカミは目を閉じる。俺は彼女の唇に肉塊を突きつける。

「はい、あーん。」

「…あ、あーん。」

 赤面しながら口を開くオオカミ。フォークに突き刺した鹿肉の唐揚げを差し入れる。もぐもぐと肉を頬張るオオカミが満足気な表情を浮かべる。

「美味しい!」

 良い笑顔だ。ふふ、見てるこっちまで嬉しくなる。

「肉が柔らかくて美味しいな。」

「タレに漬け込む時にヨーグルトを混ぜてやると肉質が柔らかくなるんだ。」

 感心したようにオオカミが頷く。

「…で、お前は何をしてるんだ?アミメ。」

 アミメキリンが上を向いて口を大きく開けている。まるで餌を待つ雛鳥みたいだな。

「私にもくださいよ。…なんですか?そのイヤそうな顔。」

「うふふ、仕方ありませんよ。愛しいオオカミさんの為に作ったんですから。」

「や、やめてくれないかな。アリツさん。」

 顔がにやけてるぞ、オオカミ。

「むー。差別は良くないと思います!」

 差別じゃねえよ。愛だよ。全く。

「しょうがない奴だな。ほら。」

「あーん。…おいひいー!」

 お前、先祖は草食だろうが。

「熟れたバナナみたいな柄しやがって。」

「んー、んぁにか、いぃまひたぁ?」

「口に物を入れて喋るんじゃねえ!」

 行儀が悪い。そんなだから男に振られるんだよ。このアミメキリンが。

「トモヤ、トモヤ!」

 …来たよ。アミメ2号。

 振り返ると満面の笑みが目に入る。こいつも黙ってればいい女なんだが。…なぜ、頭に桃を?嫌な予感がする。

「ふふっ、これがホントの白桃ハクトウワシよ!」

「ハクトウワシ…。お前、とうとう頭が…」

「It’s a joke!ジョーダンですヨ。」

 酒臭い。お前、もう出来上がってるな。

 ハクトウワシは俺の横に座ると顔を近付けてくる。

「つれないわね、darling?名前で呼んで。」

「それはどういう事だい?智也。」

 オオカミが真顔で詰め寄る。ハクトウワシは俺の肩に寄り掛かってきた。

「キスした仲でしょウ?」

「…詳しく聞かせて貰おうか。」

 聞きたいのは俺の方だ。何故こんな事に。空気が剣呑だ。

「ハハハ、両手に花じゃないか!未来君。」

 また来た。次から次へと厄介な奴ばかり…

「バビルサか。」

「教授と呼びたまえ。」

 一升瓶を片手に赤ら顔のバビルサがやって来る。珍しく一人だな。

「丁度良い、ちょっとパートナー化してみせてくれないか?ハクトウワシ君も加えて三人でもいい。」

「合体ロボットじゃねえんだぞ。」

「では代わりに超野生解放薬ver.3の実験台になってくれ。君なら良いデータが取れそうだ。それと望月君!未来君との子供が出来たら私に診せてくれ。私の長年の夢、超進化フレンズの研究に使えそうだからな。ククク、君達は私にとって最高のモルモ…、実験動物だ!」

 俺はオオカミと目を合わせる。バビルサを羽交い締めにする。

「やれ!オオカミ!」

「何を…、ったー!何をするんだ!?」

「心配するな。キンシコウに教えてもらった、これは肩こりに効くツボだ。」

「痛たたたたた!」

「大分こっているな。そしてこれは疲れ目に効くツボ!」

「痛ーい!」

「二日酔いに効くツボも押してやれ。」

「さすが智也。気が利くな。」

「利かなくていーい!」

 見上げれば晴天の空。どこまでも青い天は、地上の喧騒を吸い込んで、ただただ広大無辺な静謐さを遥かな高みへと連ねている。

「…まあ一杯、りたまえ。」

 不貞腐れた様子でバビルサが紙コップに一升瓶の中身を注ぐ。

 ハクトウワシの奴はまたいつの間にか居なくなっている。

「やろうよ、オカピちゃん!」

「ふたりな〜ら〜、や〜れるよ〜。大・丈・夫!」

 賑やかな声が聞こえる。他の花見客達も楽しんでいるようだ。

「君、見かけないフレンズだね。」

「迷える我を救いたまえ。」

「…ま、迷子かな?」

 鮮やかな赤、淡いピンク、清らかな白、色彩が目を楽しませる。

「ここで一句。あけぼのに心を通わす仲間かな」

 ウグイスのさえずりが耳に響く。

 そよ風が梅の香りを運んでくる。

「飲んでも大丈夫なんだろうな?」

「フフフ、私を信用したまえ。」

 にやりとするバビルサ、眼鏡の奥の眼が光る。一向に懲りない奴だな。

 アミメキリンは向こうでハイイログマ達と一緒に飲んでいる。

「私がモノマネをしまーす!」

 俺はおもむろに紙コップに口を付ける。

「月が太陽の光で輝くように、俺には君が必要なんだ。」

 思わず吹き出した。

「…何をするんだね、未来君。」

 バビルサの顔にかかった。悪い。だが、それどころじゃない。

「オオカミさんに告白する智也さんのマネでしたー!」

「ゲホッ!ゴホッ!ガホッ!」

「大丈夫か?智也。」

 タイリクオオカミが背中をさすってくれる。

「うわー、クサイですね。」

「カッコイイじゃないですか。私もそんな告白されたいですよ。」

「詩的で良いじゃないか。流石は作家だな。」

「ちょっと月並みな気もするけど。」

「月だけに、ですか?うふふ。」

 おのれ、アミメ!人をネタにしやがって!いや、それよりも…

 俺はゆっくりとオオカミの方を振り向いた。

「何故こっちを見ないんだ?タイリクオオカミ。」

 あの時のことを知っているのは他でもない、俺と彼女だけだ。

 何故アミメキリンがそれを知っていたのか?

 友達とはいえ、タイリクオオカミがアミメキリンに秘密を話すとは考えられない。

 彼女から秘密を聴き出せる者。彼女が最も信頼を寄せる人物。それは…

「…貴女が犯人だったんですね。アリツさん。」

 離れた所に座るアリツカゲラ。その顔から笑みが消えていく。

「アリツさん、どうして…」

「どうして、こんな事をしたんです?」

 アリツカゲラは人差し指で眼鏡を押し上げる。さっきまでと打って変わり、その瞳が冷たく光る。

「…そうね。少し、歩きましょうか。」

 空気が張り詰める。アリツカゲラが立ち上がる。俺は唾を飲み込む。オオカミが身体をこわばらせるのが分かる。

「…この近くには崖は無いぞ。未来君。」

 緊張感の無いバビルサの声。

「あー!何してるんですか?探偵ごっこなら私も混ぜて下さい!…犯人は、この中の誰かです!」

 むしろお前が実行犯なんだよ。ため息が出た。本題に戻ろう。

「そもそも、おまえが口を滑らせたりするからだろ!」

 俺はオオカミに向き直る。

「だって、二人がどうしても聞きたいって言うものだから…」

「なんでそういう時に限って正直に答えるんだ。」

「あなたとのことで嘘はつけないわ。」

 彼女の双眸が俺を真っ直ぐに見つめてくる。くっ、そう言われると…

「分かった、悪かったよ。つまらない事で騒いだりして。タイリクオオカミ。」

「いいのよ。私の方こそ。智也。」

 俺達は互いに見つめ合う。彼女の頬に触れる。掌に温もりが伝わってくる。

 …ん?なんだか、妙に周りが賑々しいような。

 気が付くと俺達は、アミメやハイイログマ達だけでなく、周囲の花見客達に囲まれていた。ハクトウワシも居る。皆一様に生温い目で俺達を見ている。

 俺とタイリクオオカミは再び見つめ合った。顔が火照ってきた。彼女も同様だ。

「行くぞ!」

「行こう!」

 人の輪を掻き分け俺達は走る。しっかりと手を握りながら。



 ヒトとフレンズが共に生きる街ジャパリポリス

 数え切れない絆の果てに俺達は出会った

 喜びと悲しみを分かち合って私達は歩む

 今日から始まる未来へと



 うららかな陽射しの午後。窓辺の席でティーカップを手に通りを眺めていた。

 フォークを置く微かな音。向かいの席に視線を移す。

「どうだい?ここのミルフィーユ、なかなかいけるだろう。」

「うん、美味しいね。…紅茶もいい味だ。」

 湯気の立つカップを手に智也は目をつぶり、鼻から深く息を吸い込む。

「…ところでオオカミ、知っているか?喫茶店に住むお化けの話。」

「残念、ここはカフェだよ。」

「大した違いは無いだろう。」

「違うさ。パブとバーくらい違う。」

「なら、スコッチとバーボンの違いを言ってみろよ。」

「君はアイスクリームとラクトアイスの違いが分かるのかい?」

「ビスケットとクッキーの違いよりは分かるね。」

 そんな他愛のない問答をしばらく続けていた。小気味の良い時間が緩やかに流れていく。

 用を足しに席を立った彼の背中を見送ると、カップに残っていた紅茶を一息に飲み干す。もう一杯頼もうかな。

 そう思いながら私はスケッチブックとペンを手に取る。喫茶店に住むお化け…、なんだか作品のヒントになりそうだ。このカフェも気に入ったしな、軽くスケッチしておこう。素早くペンを走らせる。

「あ、あの、漫画家のワオンソン先生ですよね?」

 顔を上げると三人のフレンズが立っていた。キリン、シマウマにガゼルか。学生かな?

「お仕事中にすみません。よければサインして下さい!」

 差し出されたノートが僅かに震えた。

「もちろん構わないよ。」

 順番にサインをすると、口々に感謝の言葉を掛けられる。悪い気はしないな。笑顔で手を振りながら去っていく彼女達に私も手を振ってみせる。

「私もお願いしていいですか?」

 横から白い色紙が差し出された。随分と用意がいいな。

「ありがとうございます!やったあ!」

 眼鏡をかけたフレンズが歓声を上げる。ピンと立った耳の先の飾り毛が目を引く。

 唐突に視界が白く明滅する。何だ!?

「はい、こちらに目線ください。」

 白い閃光とシャッター音。黒髪のフレンズがカメラを構えている。頭に羽根、全身黒ずくめだ。カラスか。

「ふふふ、巷で噂のこのカフェ。前から気になっていたんですよ。思わぬ収穫、来た甲斐がありました!」

「漫画家のワオンソンのプライベートが撮れるとはね。これはスクープだわ!」

「誰なんだ、君達は!?」

 二人組のフレンズは互いに頷き合う。

「ジャパリポリスに光をもたらす自由の戦士!ジャーナリストのリン!」

「ジャパリポリスの闇を払う真実の使者!カメラマンのレイ!」

「二人は…!」

「パートナー!!」

 口上と共にポーズを決める二人。周りの席からまばらに拍手が起こる。

 いつからここはヒーローショーの会場になったんだ?

 視界の端に大柄な影が映る。智也、戻って来たのか。…おい、目を逸らすな。他人のフリをするんじゃない!

 私の表情に気付いた二人は智也に矛先を向ける。

「ワオンソン先生の彼氏さんですか?いつからお付き合いされているんですか?」

「……おい、何勝手に撮ってんだ。肖像権の侵害だぞ。」

「そう言わずに、取材に協力して下さいよ。」

「嫌だね。まず出版社に取材依頼書を出せ。」

「原田先生の言う通り、私の方も編集者かマネージャーを通してもらわないと…」

 智也が大きく舌打ちすると私を睨み付けた。

「今、原田先生って言いました?」

「貴方、もしかして…、原田テツヲ?」

 周りから今度は小さなどよめきが起こる。

「人気漫画家ワオンソン、小説家の原田テツヲと熱愛発覚!これは大スクープよ!」

「白昼デートの様子を激写!明日の芸能面のトップは貰ったわ!」

 興奮した様子の二人を智也が冷めた眼で見据える。

「お前、ヨーロッパオオヤマネコだな。」

「シベリアオオヤマネコです!」

 …ちなみに英名はEurasian lynx(ユーラシアオオヤマネコ)なんだが。

「この前レイモンドのゴシップ記事を書いてた奴だろ。なにが自由の戦士だ。ここ最近、二流の芸能誌に他人の私生活プライベートを売りつけてる二人組ってのはお前らだな。」

 レイモンド、俳優のレイモンド・サトーの事か?アミメ君が騒いでいたな。

 意外だな。智也は芸能人のゴシップには興味がないようだったけど。…また一つ、彼の知らない一面を見られた。

「なに笑ってんだオオカミ。元はといえば、おまえが余計な事を言うからだぞ。」

 目を細めた智也の眉間にうっすらと縦皺が寄っている。ちょっとまずいな、本気で不機嫌になっている。

(原田テツヲのメディア嫌いは業界やファンの間では有名よ。)

(新人賞の受賞式をすっぽかして以来、公式の場には姿を見せないそうですよ。)

 そうだ、思い出した。サイン会も滅多に開かないから顔を知ってるファンも少ないんだっけ。

 私は空のカップに口を付ける。さて、どうしようかな?普段はマイペースだけど、感情にムラがあって怒る時はすぐに怒るからな、この男は。

「私達は読者に真実を伝える為に…!」

「そんな顔しないで、もっと笑顔で…!」

 リンとレイの二人は原田先生を取材しようと必死な様子だ。私の事はもういいのか。

 ………いや、嫉妬なんかしていないよ。私は。

 智也の目が一転して大きく見開かれた。しまった、キレる前兆だ。

 私は立ち上がり、間に割って入ろうとしたのだが…

「いいか!俺はお前達と違って、金やチヤホヤされたくて小説を書いているんじゃないんだよ!!」

 遅かった。なんとか落ち着かせないと…

「やたらとラジオだ雑誌だテレビだと、チヤホヤされてる漫画家と一緒にするんじゃない!」

 カチン!頭の奥で何かが弾けた。

「…智也。それは…、まさか…、この私の事を言っているのか!?」

 右足を踏み込むと同時に腰を中心に上体を回し振り抜いた左拳が智也の肝臓を正確に捉えた。彼の身体が揺らぎ頭が下がる。左足を半歩踏み込み脇を締めて右拳で顎を打ち抜く。彼の顔が九十度傾くのが手応えで分かる。

「みくびるな。私が漫画を描いているのは…」

 …何故だろう?うまく言葉で言い表せない。

 背後でけたたましい音がする。

「漫画は私の…、魂だ!」

 我ながら恥ずかしい台詞だな。店内の視線をよそに、私はそのまま足早に店を出た。



 気が付くと、天井を見上げていた。どうして、こんな所で寝ているんだ。いや、ここはどこなんだ?

 起き上がると、喫茶店、カフェか。いやどっちでもいいんだよ。そうじゃなくて。

 顎をさする。向かいの席に眼鏡をかけたフレンズと黒い羽根のフレンズがいる。席を間違えたかな?タイリクオオカミは…

 脇腹が痛い。なんだっけ?…オオカミが何か叫んで、それから、…思い出せない。

「目が覚めました?」

「大声で叫んだと思ったら、突然倒れるんだもの。びっくりしたわ。」

 オオヤマネコとカラスは空の食器を前にくつろいだ様子で座っている。…いや、そこにはオオカミが座っていた筈だ。

 俺は人差し指を顳顬こめかみに当てる。砕けた記憶の破片ピースがピシッと嵌まる。ああ、そうだ。

「やはりそういう事か。」

 くそう…!あの女、なにかとあるとすぐに暴力に訴えやがって。ケモノのくせに。いや、だからこそケモノなんだよ。

「つまりどういう事なの?」

 ん…?顔を上げると、カフェの店員か、ネコ科のフレンズがテーブル脇に立っている。赤みがかった褐色の髪。何故か顔に見覚えがあるような。

「あまり大声で騒がないでくれる。他のお客さんの迷惑でしょう。もういい大人なんだから。」

「はい、…すいません。」

 くっ、どうしてこんな事に。こうなったのも、大元は…

 向かいの席に視線を戻す。アリツカゲラにバビルサ、そして…。どういう訳か眼鏡のフレンズにはろくな奴がいたためしが無い。

「はい、伝票よ。現金でのお支払いはあちら。」

 要するにもう出て行けって事か。仕方ない。

 立ち上がり、受け取った伝票を見る。…注文が多いような。バナナサンデーにガトーミルフィーユとセイロンティーのセット?

 眼を上げるとオオヤマネコがにっこりと笑う。ネコ科でなければ叩いているところだ。それに…

「何だ?この迷惑料って。」

 ネコ科の店員はクスクス笑っている。この笑い方。髪を伸ばして灰色にすると…。また、頭の中でピースが嵌まった。

「ボブキャットじゃないか。何してるんだ。あまり人をからかうなよ、全く。」

「お久しぶりね。それと、ここで働いているのは嘘じゃないわよ。」

「世を忍ぶ仮の姿ってところか。」

 普段はカフェで店員として働く特殊部隊の隊員か、B級アクション映画の主人公みたいだな。

「言っておくけどこっちの方が本業よ。それに、あなた達も似たようなものでしょ?」

 いや、俺達は好き好んで戦っているわけじゃないんだが。

「あんなケモ耳女と一緒にしないでくれ。」

「そう?…単細胞で脳筋の獣臭い暴力女ですものね。」

「なんだと?お前に何が…」

「はいはい!今すぐ追い掛ければ間に合うかもしれないわね。」

 ボブキャットが目を細めてニヤリと笑う。くそ、なんだか上手くのせられたような。これだから…。

 俺は携帯端末を取り出し素早く画面に指を滑らせると、ボブキャットの持つ店舗用の端末に軽く押し当てる。

「ありがとうございました!またのお越しを。」

 満面に営業スマイルを浮かべるボブキャット。悔しいが、やっぱりネコは賢くて可愛いな。…イヌよりも。

 車を取りに駐車場へ向かう。何故か二人組もついて来た。ドアを開ける。

「ちょっと待って。構図が決まらないわね。」

 ファインダーを覗き込みながらカラスが立ち位置を変える。構わずに乗り込もうとするとオオヤマネコに腕を掴まれる。意外に力強い。こいつらネコというより、小型のトラだからな。そのままポーズを取らされる。

「そうそう、もう少し前かがみで。…いいわよ!目線は前を向いて。…良し!」

 カラスがシャッターを切る。

「これは良く撮れたわ。原田テツヲと愛車ジムニー、カーグラフィティに投稿しようかしら。」

 俺はマフラーを伸ばしカメラを奪い取る。

「ちょっと何するの!?」

「ヒトやケモノに向かってむやみにフラッシュをたくんじゃない。」

 カメラを手に取る。何だ?ずいぶんと年季が入っているな。でも、どこか見憶えがあるような…。あれ、この傷。これは…

 不意に古い情景が浮かび上がる。サバンナ。雨上がりの湿った風。夕暮れの空。虹の橋。

(すごい!おおきなにじだよ。はじめてみた!)

 ヨイジマのおじさんはカメラをむけた。でもしゃしんをとらなかった。

(とらないの?)

 ふしぎにおもってきくと、わらっていった。

(本当に美しいものは、心に留めておくものだ。)

 …その時の俺には言葉の意味がよく分からなかった。

「返してよ!」

 カラスが手を伸ばしてくる。

「このカメラ、どうしてお前が持っている。これはゴシップ誌のカメラマンが持つ物じゃない。」

「…それは、形見、の様な物よ。…父の。だから返して。」

 俺は両手でカメラを包むように持つと彼女に差し出す。彼女はそれを受け取ると愛おしげに指先で傷をなぞった。

「お前、宵島さんの…」

「父を知っているの?」

「俺の父親の知り合いだ。保護区にいた頃に俺も会った事がある。もう、ずっと昔だけどな。」

 まだ幼かった俺に色々な話を聞かせてくれた。父さんのことも。でも、あの日、出かけて行った宵島さんは帰って来なかった。

 同行した未踏査地域の調査隊と共に消息を絶った。それを俺が知ったのは大分後になってからだった。子供がいるというのは聞いていたけれど。

「その娘が芸能カメラマンとはね。…そのカメラで他人の秘密を盗んでいるわけか。」

 カラスと眼が合う。

「私は父とは違う。…父は写真家としては偉大だった。それは認めるわ。でも、私達家族の写真を撮ってはくれなかった。このカメラはいつも外の世界しか写していなかったのよ。」

 瞳の奥、彼女の心が揺らいでいるのが分かる。俺にも憶えがある。父親への相反する感情。俺自身、割り切れているかは疑問だしな。

「本当に大切なものは、心に留めておくものだ。昔、宵島さんが言っていた言葉だ。それともう一つ。」

 思わず言葉が出た。俺はカラスの目を見る。彼女は真っ直ぐに俺を見つめ返してくる。深く立ち入るべきかは分からない。でも、伝えなければ。彼を知る者として。同じ想いを抱く者として。

「…虹の根元には宝物が埋まっている。それは家族という名の宝物だ。」

 カラスが顔を背ける。潤んだ瞳を隠すように。

「そんなこと。今になって…」

 成り行きを見守っていたオオヤマネコがそっとカラスの肩を抱いた。

 やれやれ、こういうのはタイリクオオカミの仕事じゃないかな。…嘘つきはオオカミの得意技だろ。



 歩調を緩めると、深く長く呼吸を整える。前方から水音が聞こえる。

 私はアーケード街の通りを歩いていた。広場の中央に噴水がある。立ち止まり水面に視線を落とす。

 絶え間なく揺らめく波紋を眺めているうちに、昂ぶっていた心が凪いでいく。勢いで出てきてしまったが、どうしたものかな。

 ひとつため息を吐く。さっきはついカッとなってやってしまった。すぐに感情的になるのが私の欠点だ。智也のことをとやかく言えないな。

 店に戻ろうか?だが、ばつが悪い。そもそも智也も智也だ。もう少し言い方ってものがあるだろうに。全くあの男は、考えが妙に古いし、言葉に棘があるし、そのくせお調子者で、実はむっつりスケベの、太腿好きの尻尾フェチめ、…あとイヌを馬鹿にしている!

「でも、好きなのよね。」

 うん。大好き。悔しいけど。誰よりも…

 咄嗟に振り返る。誰だ!?背後には誰もいない。今、確かに。

 通りを歩く家族連れ、ショーウィンドウを眺めるフレンズ達、ベンチに座って話し込む男女。

 水音と人々のざわめき。何だ?耳元で囁いたあの声。穏やかな喧騒の中、言い知れぬ不安が胸をよぎる。

 ふと視線の先に見慣れた後ろ姿を捉える。私と同じ、オオカミのフレンズ。引き寄せられる様に足を踏み出す。五歩と歩かぬうちに目眩に似た感覚を覚える。何か、聞こえる。歌?立ち止まり目をしばたたかせる。目眩は治まったものの、誰かとぶつかってしまう。

「あ、済まない。」

 褐色の肌に筋肉質の身体、頭に角がある。ウシのフレンズか?目つきが虚ろだ。頭を押さえ低く唸り始めた。

「大丈夫か?どこか具合でも…」

 言葉とは裏腹に跳び退いて間合いをとる。考えるより先に身体が動いていた。私の中の獣が唸り声を上げている。

 ウシのフレンズがこちらを見る。その眼が紅く染まった。

「貴様、セルリアンか!」

 叫びが波紋の如く周囲に響き、平穏な空気が一変する。驚きと恐怖が伝播し瞬く間に空間が混乱で満たされていく。

 フレンズ型セルリアンが唸りながら右の拳を突き出す。身体を低め躱しざまに右拳を腹に叩き込む。頬骨に左ジャブ。踏み込んで顎に右フック。背中側に回り込んで膝裏を蹴る。相手が仰け反る。肘と膝で頭を挟み潰す。

 セルリアンが相手なら情けは無用。右手に意識を集中させる。これでとどめだ!仰向けに倒れた奴にけものプラズムの刃を突き立てる。

 …寸前で黒い影が躍り掛かってきた。反射的に右手を払う。影が砕け散り空気に溶ける。新手か!?さらに複数の影。獣の形。こいつら、オオカミか!

 オオカミ型セルリアンは私を取り囲む。…三つ、四つ、五つ。輪になって回り始める。円の動きで獲物を追い詰める。オオカミの基本戦術だ。

 足元を狙ってきた一頭を蹴り飛ばし、腕を目掛けて低く跳んでくる一頭を斬り払う。身を屈めて肩越しに、けものプラズムの刃で背後から飛び掛かってきた一頭を串刺しにする。二つ片付いた。

 残った三頭に加えて、ウシの奴も立ち上がり身構える。私は左手にも意識を集中させる。…来る!

 正面からウシが突進し、左右と後方からはオオカミが飛び掛かる。逃げ道は…、必要ない!

地狼噴撃ウルフゲイザー月蝕エクリプス!」

 両手を地面に叩きつける。周囲の地面から噴き上がるサンドスターがセルリアン達を飲み込んだ。

 よろめきながら近寄るウシの胸に左の手刀を突き刺す。断末魔の叫びの後にその身体が崩れ落ちる。

 何かを叩く音。拍手?誰が?背の高い影が歩み寄ってくる。特徴的な髪形、ライオンか。見慣れない種類だ。

「良い手並だ。セルリアン退治はお手の物ってか。さすがはオオカミだな。」

「…それはどうも。ところで君は誰なんだ?」

「オレはパレメラ。ケープライオン。」

 ライオンの亜種。確か、絶滅種だったっけ?

「…のフレンズ型セルリアンだ。」

 パレメラと名乗ったフレンズの両眼が緑の光を帯びて妖しく煌めいた。



 俺はハンドルを切るとアクセルを踏み込む。素早くクラッチを踏みギアを上げていく。景色の流れが加速する。

「…ワオンソン先生を追わなくていいんですか?」

 ちゃっかり付いてきたオオヤマネコが助手席で怪訝な表情を見せる。

「いいんだよ。」

 どうせ行き着く先は分かってるからな。お互いに。

 サイレンの音が近付いてくる。反対車線をパトカーが通り過ぎていく。

「……行ったか。いいのか?追わなくて。」

「いいんです、今は原田先生の密着取材中ですから。」

「取材を許可したつもりは無いぞ。」

 頬を膨らませるオオヤマネコ。可愛い仕草をしても無駄だからな。

「スピードを落としてよ。シャッターチャンスを逃したわ。」

 窓の外、上からカラスが顔を出す。

「合わせろよ、プロだろ。」

 言うまでもないとは思うが、フレンズを屋根に乗せて走るのは違法行為だ。

 高台の上で車を降りる。石段を登ると公園があり、ベンチが置かれている。街並みが見渡せる、ちょっとした展望台だ。椿が満開の花を咲かせている。

「うわあ、綺麗ですね!」

 感嘆したオオヤマネコが顔をにやけさせる。

「ワオンソン先生と二人きりで来たかったんでしょう?」

「ノーコメントだ。」

 俺は公園の一隅の茂みを掻き分ける。小さな祠が見えた。キツネを象った像が鎮座している。

「何ですかそれ?」

 携帯端末を取り出す。

「以前からポリスのあちこちでこいつを見つけてね。」

 画面にジャパリポリスの地図が映る。二十個ほどの光点が点滅している。地図の一点、この場所を指で軽く叩く。光点が一つ増える。

 オオヤマネコは眼鏡を掛け直しつつ脇から覗き込んでくる。

「こういう事なんじゃないかと思うんだ。」

 ゆっくりと画面上の光点を指でなぞっていく。それを目で追っていたオオヤマネコが得心した様子で呟く。

「星の形?」

「恐らくな。」

 予想が当たっていたとして、誰が何の為にこんな事をしたのか、肝心な所は分からないんだが。

「単純にこういった謎が好きなんだ。オオカミもきっと。作品の題材として使えるかもしれないしな。」

「やっぱり二人で来るつもりだったんじゃないですか。」

 そっちかよ。せっかく作家らしいことを言ったのに。

「ナンダオマエラァァァァァ!!」

 振り向くと、カラスの奴だ。見かけないフレンズと一緒にいる。

「騒がしいぞ。カラス、勝手に他人の写真を撮るんじゃない。」

「花の写真を撮ろうとしたのよ。まさかこんな所にいるなんて思わないわ。」

「…そう、スケッチが、終わったから、近付いたら、いた。…びっくりした。」

 カラスの隣のフレンズがベンチを指差す。灰色の髪にベレー帽。上着とタイツも灰色、青いスカートか鮮やかだ。この尻尾、…ウマ?手に持ったスケッチブックには咲き誇る椿の花が描かれている。

 件のベンチには誰も座っていない。ベンチの上には。

「………何してるんだ?」

「…どうしてそんな所に、怪し過ぎます。」

「落ち着くんだよ!!」

 フードを被った不審なフレンズはぶつぶつと文句を言いながら這い出てきた。俺達から少し離れて立つ。

「それで、そちらの貴女は?」

「そうだ、私はレイよ。ハシブトガラスなの。こっちは相棒のリン。」

「俺は未来智也。君は?」

「私、フェルフェル。」

「フェルフェル?聞かないフレンズね。」

「ううん、ターパン。」

「ターバン?」

「タイパンでしょ。」

「違うだろ。」

 そりゃヘビのフレンズだ。ターパン、絶滅したウマの先祖だった筈。絶滅種や幻獣系のフレンズはポリスでも滅多に見ないからな。

「あなた達も、スケッチさせて。でも、その前に…」

 微笑みながらターパンは椿に近付く。手に持った絵筆を振る。椿の花が、消えた?まるで、スケッチを絵の具で塗り潰す様に…

「ナニシテンダオマエェェェェェ!!」

 呆気にとられる俺達に向かってフェルフェルと名乗ったフレンズは淡々と告げる。顔に微笑を張り付かせたまま。

「これで、この花は、永遠になった。さあ、あなた達も、私が永遠に、留めてあげる。このスケッチブックに。」

 その瞳の奥に緑色の炎が灯り燃えあがった。



 目の前が真っ暗だ。何も見えない。何も聞こえない。起き上がろうともがく。くっ、腕が。折れたのか?頭を振る。布切れが落ちる。かぶっていたのか。明るくなった…

「ひっ!」

 ヒトの頭。…なんだ、マネキンか。驚かさないでくれ。耳鳴りがする。なんとか立ち上がる。腕は…、折れてはいないが、痺れて動かない。

 ここは?周囲に、衣服が散らばっている。倒れたマネキン。ガラスの破片。ショーウィンドウが割れて大穴が…。そこに背の高い影。

 パレメラ!一瞬で意識が引き戻される。そうだ、私は奴に。

 すぐさま、背を向けて逃げ道を探す。

「どこへ行くつもりだ?」

「なっ!?」

 目の前に!なぜ…!いつの間に!?首を掴まれた。地面の感触が消える。まだ腕は動かない。蹴りを放つが、奴は意に介さない。首が絞めつけられる。息が苦しい。

「離せ…!セル、リアン…、め…!」

「離して欲しいのか?」

 視界が揺れ、奴の姿が、風景が一瞬で流れ去る…

 衝撃。音響。目の前がぐるぐると回る。重力を感じない。上下の、方向感覚が麻痺する。音が、聴こえているんだか。耳鳴りか、これは。身体のあちこちに、痛みが…!

(痛いのは良い事だぞ、生きている証だからな。)

 くそう、なんて強さだ。あのクオンと同等、それ以上か。……勝てない。頭が、手足が重い。いっそこのまま…

(さあ立て!生きている限り戦いは続く。死ななければ…)

「ぐっ…!死ななければ…、負けじゃない!」

 歯を食いしばって立ち上がる。肩で扉を押し開け外へ出る。

「おーい、どうした?逃げるのか?尻尾は股に挟んでおけよ。」

 振り返らずに小道を走る。勝てなければ逃げる。野生の鉄則だ。

 別の通りに出た。マンホールが目に入る。腕は、動く!蓋を上げて身体を滑り込ませる。

 暗いトンネルの中をケータイのライトを頼りに走る。思っていたより広い。中央部分はそれなりに水深がある。下水の縁、比較的浅い部分を通り緩やかな坂を下っていく。

 智也へのメッセージは…、画面を操作する。……送信準備、完了。これで良し。後は外へ出るだけだ。上手くいってくれ、急ぎの時に限って繋がらないからな。…すぐに気付いてくれよ、智也。

 他に足音は聴こえてこない。逃げ切ったか?速度を緩めずに進む。こういう時に襲われるのが、ホラー映画のお約束だ。特にヒロインは…

 梯子が見えた!外に出て場所を確認しないと。早く、あの場所へ…。何だ?振動…、地震…?

 轟音と共に、突如トンネルの壁が吹き飛んだ。くっ!パレメラか!?

「あれあれ〜、どこ、ここ〜?」

 背の高い影。パレメラじゃない。だが、この状況。都合良く味方のフレンズが来る筈が無い。

「ひっぐま〜ん。ピスカトルだよ!あなた誰〜?ボクりんはどこ〜?」

 クマのフレンズ、見た目は。

「お前もセルリアンか?パレメラの仲間だな!?」

「違うよ〜。ボクりんは〜、ええと、何だっけ?」

 小首を傾げる。仕草は可愛らしいが、このパワー。只者じゃない。どうする?るか、逃げるか。

 相手にしている余裕はない。先を急ぐ。

「思い出した!あなたタイリクオオカミ。それじゃあ…。粉砕!!」

 再び轟音が響き、濁った下水が身体に叩き付けられる。ひどい臭いだ。オオカミにはきつい。それでも走る。こんな所で死ぬのはまっぴらだ!

「逃さないよ〜。…砕いてあげる。」

 背筋がゾクッとする。頭を下げて前方に転がり込む。同時に飛び散った破片が弾丸の様に水面に突き刺さる。構わずに下水から這い上がり、駆け続ける。額を拭う。下水だけじゃない、冷や汗が全身を濡らす。

「もう、待ってよ〜。」

 ぴったりと私の後をついて来る。ほぼ全速だぞ!信じられない!夢なら覚めてくれ。

「アーバーチャー!」

 背中に悪寒。奇声を上げて奴が跳び掛かってきた。横に跳んで躱す。

 足下が揺れる。今度は何だ。下水が泡立つ。みるみる目の前に壁がそびえ立つ。奴の仕業か!?通路が塞がれた。まずい!

「クーリーチーフー…」

 また奴が何か唱え始めた。左手に光が集まり、赤い渦を巻く。一瞬身体がこわばる。

「スカー!!」

 赤い光球が放たれる。くそっ!下水にダイブする。水中でも伝わる程の音と熱。下水から飛び出すと、目が眩む様な赤い光。巨大な火柱が天井を貫いていた。まるで、火山だ。

 火柱が消えると頭上から日の光が差し込む。地面を貫通したのか。地下にいたのは短い時間だが、懐かしい明かりだ。あそこへ帰る、その為には…

 眼前の敵を睨む。だが、身体が、膝が震える。くっ!まだ完全には克服出来ていないのか…!

(そういう時は、好きなオスの名を叫べ!)

(…師匠こそ相手がいるの?)

(いない!だから笑う。つらい時ほど笑うんだ。すぐに勇気が湧いてくる。)

 …智也。胸の奥で呟く。身体の震えが止まった。

「あれあれ〜、余裕の笑み?」

「行くぞ!」

 トンネルを駆け上り壁を蹴る。奴の頭上を取った!右手にサンドスターを集中させる。

(いいか、けものプラズムを使う時は、“絶対に出来る!”…そう思え。)

 けものプラズムを極限まで硬質化。

魔狼フェンリル…!」

 ピスカトルが右手の得物を振りかぶる。物質化させたけものプラズムの刃を振り下ろす。

「粉砕!!」

噴撃ゲイザー!!」

 激突の瞬間。けものプラズムをサンドスターに還元。奴の得物が砕け、全身が虹色の奔流に飲まれる。

「ぐうっ…!」

 強烈な衝撃。反動で私の身体は吹き飛ばされる。地上へ。太陽に向かって。



 アスファルトがタイヤを切りつける音が響く。横殴りの重みが上体にのし掛かる。

「グエェェェェェ!」

 助手席で不審なフレンズが奇声を上げる。

「耳元で怒鳴らないで下さい!」

 オオヤマネコが叫ぶ。いや、お前が押し付けてるせいだろ。

「追いつかれるわ!」

 屋根からカラスの声。

 バックミラーに黒と赤、右サイドに白、左には青。ウマ型のセルリアンが追い駆けて来る。くそ!また、黙示録かよ!

「オオカミは!」

「駄目です、繋がりません!電波が届かないって…」

 くそう、肝心な時に…!地下にでも潜ってんのか。

「メッセージを送れ!アプリを起動!…仲直り用ってのがあるだろう!」

 オオヤマネコが携帯端末を操作する。

「もっとスピードを上げて!」

「追いつかれたぞ!」

 車体が揺れる。ウマリアンどもが体当たりしてきやがった。

「くそったれぇ!」

 アクセルを思い切り踏み込む。ウマどもが後ろに下がっていく。

「運転アプリを起動しろ!リン、お前が運転するんだよ!」

「えええー!?」

「エエエェェェェェ!」

 なんで二人揃って叫んでんだよ。

「ウダウダやってる暇はぇ!」

 俺は後部座席のアタッシュケースから拳銃を取り出す。

「レイ!後ろを開けろ!」

「どうするの!?」

「荷物を捨てろ!」

 カラスが後部ドアを開け積んであった生活用具を放り出す。

「下にギターケースがあるだろ!開けろ!」

「こんな時に何を演奏する…、なんで銃が入ってるの!?」

 カモフラージュに決まってるだろ。

「そいつを使え!」

「無茶言わないで!銃なんて撃ったこと無いわ!」

 窓から身を乗り出して白ウマを撃つ。弾倉が一回転する。身を捩らせて奴が倒れる。

「いいからやるんだよ!」

「そんな…。せめて、説明書は無いの?」

「照準を合わせて、引き金を絞れ!脇にある、レバーを押せば弾が装填される!撃ったら引いて、もう一度押せ!」

 弾倉に弾を込める。

「伏せろ!」

 左の窓をぶち抜いて青ウマに弾丸が突き刺さる。

「み、耳が。」

「ナニスンダオマエェェェェェ!」

 次の弾を…

「あっ!」

 衝撃で弾丸が足元に散らばる。

「何やってんだ、レイ!はやく撃てぇ!」

「やってるわよ!」

 座席の隙間から車の後部に身を滑り込ませる。赤と黒、二体のウマリアンが正面に見える。

「こいつら!」

 怒りを込めて獣の記憶を呼び起こす。けものプラズムがマフラーを形成する。奴らの身体に叩き付ける。頭、首、背中。赤ウマが下がる。黒ウマの首筋を叩くと身体を大きく捩らせた。何だ?

「レイ、うなじだ!石を狙え!」

 マフラーを黒ウマの首に巻き付けると叫ぶ。

 カラスが空中でライフルを構える。

「落ち着いて狙え、お前なら出来る!」

 銃声が響く。黒ウマが棹立ちになり、砕け散った。

「やった…」

 虚脱した様にカラスが高度を下げる。

「レイ!!」

 俺はマフラーを彼女の胴に巻き付け引っ張る。飛んできた身体を抱きとめる。危ないところだった…!

 赤ウマの身体から無数の触手が伸びていた。先端が剣の形をしている。

「正体を現したな!」

 左手で拳銃を構え引き金を絞る。触手が砕ける。が、すぐさま再生してしまう。

「市街地に入っちゃいますよ!」

「このまま珈琲通りに向かえ!」

 迫りくる触手を撃ち続ける。

「これじゃ埒があかないわ!……くっ、もう弾が無い!」

「貸せっ!」

 マフラーを使ってドアを閉める。これで少しは持つはず。ライフルに弾を装填する。

 後部ドアを貫いて剣が飛び出す。更に左右からも。こいつ、蝶番を。

 俺は両足でドアを蹴る。車体から外れたドアが赤ウマに当たる。その時、標識が目に入った。

「そっちじゃない!逆方向だ!」

「あああー!もう!」

 急ブレーキの音がして視界が揺れる。俺とカラスは後部座席で転がる。運転席の方を見ると、正面に赤ウマの姿が。

「つかまれ!」

 マフラーを運転席に巻き付け、カラスの腕を掴む。

「アアアァァァァァ!!」

 大きな衝撃と共に再び視界が揺れ、横殴りの重みで身体が左右に揺れる。

 撥ね飛ばされた赤ウマが道路に倒れている。

「はは、イカれてるぜ、お前。」

 思わずオオヤマネコに笑いかける。

「…まだ早いわ!見て!」

 赤い影が見る間に近付き大きくなる。しつこいな。

「あいつ、腹に石があるわ!さっき見えたの!」

「ここから狙えるか!?」

「……だ、駄目よ。正面からじゃ…」

 拳銃の弾倉を確かめる。なんてこった、残り一発じゃないか。

 赤ウマが触手を振りかざし突進してくる。

「レイ。触手を撃て!奴の注意を逸らせ!」

 こうなったらやるしかない!俺は車から飛び降り、地面に仰向けになる。赤い巨体が覆い被さってくる。両手で拳銃を構える。勝負は一瞬。見えた!引き金を引き絞る。

 起き上がって振り返ると、砕けたセルリアンの破片が空気に溶けて消えていく。

 突如クラクションの音。安心したのも束の間。俺が立っていたのは、交差点のど真ん中だった。目の前には迫り来るバスの姿が…

 飛び退くと同時に衝撃を受けて身体が重力から解放される。そういえば、母さんからアフリカゾウは空を飛べるって聞いたけど、本当かなあ。

 両手で地面を叩き受け身をとる。

「ダイジョブソウカー!?」

「…俺はな。」

 ゆっくりと立ち上がる。バスのバンパーが大きくひしゃげていた。他にもあちこちで渋滞が起こっているようだ。原因は…、俺達だよなあ。

 地響きが起こる。道路に亀裂が入り、陥没していく。今度は何だ?

「何かいるぞ!」

「どこに!?」

 何も見えないぞ。

「地面の下だ!俺にはピット器官で分かるんだ!…あっちに行ったぞ!」

 指差す方向、その先は…

「原田先生、あの…!」

「ねえ、大丈夫なの!?」

「君達か!暴走車を運転していたのは!?」

 投げ掛けられる声に構わず、俺は走る。予感。直感。第六感。何でもいい。得体の知れない何かが。俺達を無視して。恐らくあの場所へ向かっている。ならば…!

 行かなければ。あの場所へ。オオカミと出会った。きっとそこに。待ってろよ!



 コーヒーショップが立ち並ぶ通りを走り抜ける。あの夜。三度目の出会い。彼とコーヒーを一緒に飲んだっけ。いつもなら、思い出に浸りながらゆっくりと歩くところだが。

 今はそんなゆとりは無い。おまけにまだ下水の臭いが残っている。早く帰ってシャワーを浴びたい。

 交差点を曲がり、通りを幾つか過ぎて、ようやくたどり着いた。

 智也…!来ていないのか。淡い期待が失望へと変わり、澱の様に胸の内に沈む。

 ケータイを取り出す。画面に触れると…。何だ!?掌から飛び出し、見えない糸で引っ張られる様に空中を滑っていく。

 黒い影が私のケータイを手に降り立った。

「あらあら、いけませんね。気を付けないと。ケータイを落としただけなのに…、なんて後悔しますよ。」

 鳥のフレンズ。黒と茶の羽根。赤い前髪。ハクトウワシの様な制服を着ている。

「返してくれないか。」

 私の言葉を無視して画面に指を滑らせる。

「メッセージが届いていますよ。差出人は、“私の智也”?」

 顔がカッと熱くなる。

「返せ!」

 駆け出そうと右足を踏み出した瞬間、何かが背中に乗ってきた。ぐっ、重い…。両脚を踏ん張って耐える。何だこれは、身体が地面に、押し付けられる様な…

 黒い鳥のフレンズはケータイを私の胸ポケットにしまう。

「申し遅れましたね、私の名はリュトス。グアダルーペカラカラよ。」

「き、さま…!何をした…!」

「スカイダイビングはお好きかしら?怖がらなくて大丈夫。未知の景色、まだ見ぬ世界を知る。きっと素晴らしい体験になるわ。」

「そんなことを、聞いているんじゃ、ない…!」

「ですから、私と共に空へ行きましょう。」

 身体が軽くなる。宙に浮き上がった!?地面が離れていく。手足をばたつかせるが、ますます大地は遠ざかっていく。屋上が見える。私は空に吸い込まれ…、いや、落ちていく様だ。

 蒼い虚空に私は浮いている。どうなっているんだ?目の前では黒い鳥のフレンズ、リュトスが平然と空中に佇んでいた。

「貴様!私に何をした!」

 こいつもフレンズ型セルリアンか。睨み付けてもどこ吹く風だ。私の方は敵への怒りを燃やすことで、どうにか平静を保っている。くっ!一体、地上から何メートルあるんだ?…考えたくないが。

「落ち着いて。まずは深呼吸しましょう。身体の力を抜いて。リラックスして下さい。では、いきますよ。」

 おい、待て、何をするつもりだ。まさか…

「それでは素敵な一時ひとときを。」

「よせ、やめろ!」

 浮遊感。風を感じる。疾風。強風。暴風。目を開けていられない。風の音で叫び声も掻き消される。うっすらと見開いた先にポリスの全景が迫って来る。この高さではフレンズでも。

 私はギュッと目を閉じる。くそう、こんなところで。…智也。死ぬ前に、もう一度会いたかった。せめて、一目でいい。会って、声を聞きたかった。話したい事も、一緒に行きたい所も。もっとたくさんの思い出を、君と作りたかった。

 二人で食事をした、あの鹿肉のソテーは美味しかったなぁ。君が焼いてくれたジャパリ牛のステーキも。あの唐揚げ、作り立てを食べたかった。

 二人でデートして、映画を観て、お酒を飲んで、二人きりの夜。見つめ合う二人。一糸纏わぬ姿で。そして二人は…!

「抱きしめて、キスをして。それから、あなたと…!」

 ……………あれ?まだ生きてる?

 目を開けると壁、いや、これは道路か。手で触れる。感覚が戻った。私は両足をつく。おもむろに立ち上がる。

「いかがでした?刺激的な体験だったでしょう。」

 リュトスがにっこりと笑顔を浮かべる。

 徐々に顔が、全身が熱くなる。

「…今の、聞いてた?」

「ええ。」

「……殺す。」

 間合いを詰め左ジャブ。手応えが無い。右のフックが空を切る。くそっ!

 宙に浮き上がったリュトスが黒い羽根を飛ばしてくる。地を蹴って躱す。

 私を見下ろす眼が緑に光る。まただ、身体が重い。奴が地面に降り立つ。

「せっかちな人ね。地に足をつけて、ゆっくりと過ごす事も大切ですよ。」

 震動と同時に背後で轟音がする。後ろを向くと道路に大穴が。周囲に瓦礫が散らばる。

「あら、せわしない人がもう一人。貴女は、彼女とのダンスをご所望かしら?ねえ、ピスカトル。」

 穴から大きな影が勢いよく飛び出してくる。

「ひっぐま〜ん。み〜つけた。アハッ。」

 ここまで私を追って来たのか。これだからクマって奴は…!前門のピスカトル、後門のリュトス。どうする!?

 私は拳を構えるとピスカトルへと重い足を踏み出す。集中しろ。目で見ては駄目だ。研ぎ澄ませ。

 ピスカトルが右手を振り上げる。感じろ。耳で、肌で、全身で。予測しろ。奴の動きを。殺気、敵意、プレッシャー。気の流れを合わせろ!

 耳元を紙一重で、凄まじい暴威が空間を埋め尽くし通り過ぎて行く。膝を使い右拳を突き上げる。拳から突き出した中指が奴の顎の先端を貫いた。瞬間、高く、鋭く、破裂音が聴こえた。

「あれれ〜?」

「ピスカトル!?」

 膝をついたピスカトルを背に私はリュトスに向き直る。だが、身体の重みに耐えかね私も膝を折る。

「動くな!動くと撃つ!」

 右手を懐に入れて叫ぶ。

「フレンズの貴女が銃を?見え透いた嘘はおやめなさい。」

「試してみるか!」

 素早く右手を引き抜く。リュトスの視線が泳いだ。左手に握っていた瓦礫の破片を指で弾き飛ばす。

「…ッ!?」

 右手でも瓦礫を拾い、続けざまに奴の顔を狙い撃つ。

「煩わしい真似を!」

 顔を庇いながら宙に逃れる。私は立ち上がり、重い身体を引きずってビルの間の路地へと駆け込む。

「逃がしませんよ!」

 右脚に鋭い痛みが走る。前のめりに倒れてしまう。それでも…、私には聞こえているんだ。この先に希望が…、諦めるものか!

 近付いて来る足音。路地の向こう、大きく頼もしい影が現れた。

「タイリクオオカミ!」

「智也!!」

 いけない。目が潤んだ。まだ早い。喜ぶのは。

 突然、智也が倒れ伏す。…身体が軽くなった?両腕で地面を這いずる。

「智也ー!!」

「オオカミ!」

 無様でもいい、希望にしがみついてやる!

「ピスカトル!早く!トドメを刺しなさい!」

 智也がマフラーを伸ばす。差し伸ばした右手で、マフラーを掴む。彼と目を合わせ、共に叫ぶ。

「変身!!」



 俺達は地を蹴り、ビルの壁を蹴ってリュトスへと殴りかかる。

 重い、身体が地面に引き寄せられる。

 マフラーを伸ばしリュトスの脚に巻き付けた。着地すると即座に奴を地面に叩き付ける。

「リュトス!」

 奴に向かって駆ける。

 月光剣ムーンライトセイバーだ!

 その名前、気に入っているんじゃない。

 格好いいから良いんだよ。

 右手を振り下ろす…、横からぶつかってきた。ピスカトルか!

 凄い力だな。

 正面からじゃ無理よ。

 両腕でピスカトルの左腕を掴む。押してくる力を利用して、一本背負いだ!奴が仰向けに倒れる。

 両足が地面から離れる。身体が浮き上がった。

 リュトスの仕業よ!

 分かってる!

 伸ばしたマフラーで瓦礫を拾い、投げつける。

「ぐう!」

 当たった。もう一発!今度のはでかいぞ。

 リュトスが緑の眼を光らせる。瓦礫が空中で軌道を変え地面に落ちる。同時に俺達も地に降り立つ。

 両手とマフラーを使い、立て続けに瓦礫を投げる。身を低くして疾駆かける。右手に意識を集中する。

 リュトスの身体から黒い羽根が矢の様に飛んでくる。右手の刃で薙ぎ払う。突き上げた左拳で奴の腹を打つ。瞬く間に奴の姿が小さくなり虚空に消えていった。

 漫画みたいな消え方だったな。

 少し手応えが浅かった。多分、自分の身体を飛ばしたのよ。

 逃がしたか。厄介だな。

 それよりまだ、ピスカトルが…

 絹を裂く悲鳴が響き渡る。二つ。

 あいつら!

 リンとレイよ!

 振り返ると、仁王立ちのピスカトルが身体中から蒸気の様な煙を立ち上らせていた。

「カームー…」

 奴の周囲に陽炎が立つ。ここまで高熱が伝わってくるようだ。

「チャッカー!」

 奴の全身から真っ赤な炎が噴き出し、炎の壁が四方に向かって地を走る。その先には立ち竦む二人が。

 俺達が先か、炎が先か。聞くまでもないよな?

 リンとレイを両肩に抱えると炎を避けて跳ぶ。黒い壁が地面からり上がってくる。

 退路を絶たれた!

 どうするの!?

 ピスカトルの両手に赤い光が集まる。放たれた火球が巨大な火柱となって大気を焦がす。

「何処を見ている!」

 ピスカトルが空を仰ぎ見る。俺達は奴の頭上、中空に立っている。マフラーの両端を高速で回転させて。

 プロペラ機と同じ原理だ。

 ヘリコプターじゃないの?

 …この姿で押し問答をしている場合じゃないな。俺達は奴から距離をとって着陸する。リンとレイを下ろし奴と対峙する。

 再び奴が全身から炎を放つ。気合と共に左拳を突き出す。拳圧によって生じた旋風が炎を吹き払う。

「行くぞ!!」

 疾走はしる俺達にピスカトルが突進してくる。振り下ろされる右拳を躱し肝臓を打つ。奴の上体が傾ぐ。大振りの左を避け顳顬を一本拳で打つ。両足で大地を蹴り突き上げた左拳で奴の顎を打ち抜く。

 よろよろと後退りするピスカトルの身体をマフラーで拘束する。身を屈め高く天へ跳ぶ。突き出した右足に強く意識を集中させる。

「デュアル!シャイニング!キィィィィィック!!」

 輝く流星の如く俺達はピスカトルに激突しその身体を蹴り飛ばした。

 倒れ伏したピスカトルが手をつき起き上がる。

 しぶとい!

 クオン以上ね。

 身構える俺達。唐突に、視界が白く塗り潰される。肌を刺すような冷気。比喩ではなく、吹き荒ぶ風の中、氷の飛礫が肌を切り裂き壁や地面に突き刺さる。

「リン!レイ!伏せろ!」

 二人を庇うように俺達は前に出る。これもピスカトルの能力なのか?

 その疑念は奴自身によって否定される。吹き付ける白い嵐の中、浮かび上がったそのシルエットが糸の切れた人形の様に倒れた。

「敗者には死を。」

「それが世界の理。」

 激しい吹雪の中から冷たく静かに二つの声が届く。新たな影が二つ。

「何者だ!貴様達は!!」

「勝利者には知る資格がある。」

「私達はズーロギアン。」

 一際強く冷風かぜが吹き、堪らずに目を閉じる。一呼吸する間に嘘のように嵐が止む。ピスカトルも二つの影も、もういない。



 俺はタイリクオオカミと立ち尽くしていた。うららかな陽射しが通りに降り注ぐ。いつもと変わらない日常。しかし、焼け焦げた壁や地面に突き立った氷柱が、確かに戦いの傷痕を刻んでいた。

「終わったな、ひとまずは。」

「ええ。…始まりでもあるけど。」

 新たな戦いの。

「それよりも、ありがとう智也。信じていたわ。あなたが来てくれるって。」

「俺の方こそ。きっと会えると思っていたさ。此処で、何度だって。」

 どちらからともなく歩み寄る。手を伸ばして彼女を抱きしめようとしたのだが…

「…タイリクオオカミ、なんだか臭うぞ。」

 なんだろう、ドブみたいな臭い。

「…全く。だから、きちんと風呂に入れと…」

「誰のせいでこうなったと思っているんだ!元はといえば君が余計な事でカンシャクを起こすから!」

「癇癪を起こしたのはおまえだろ!」

 俺はタイリクオオカミの切れ長の目を睨み付ける。この女、本当に強情だ。

「ちょっと、すいませーん!」

「痴話喧嘩はあとにして貰えるかしら。」

 リンとレイだ。

「無事だったのか二人とも。」

「無事だったのかい君達。」

 俺はタイリクオオカミと目を合わせる。

「そんなことよりも、今ここに大きくて強くて恐そうだけどカッコいい赤くて白いヒトみたいな男のフレンズがいませんでした!?」

「私としたことが、決定的なシャッターチャンスを逃したわ。彼はどこ!?写真を撮らせて!」

「人知れずセルリアンと戦う謎のヒーロー!これは大大大スクープですよ!!」

「私のカメラマン生命に懸けても正体を暴いてみせるわ!きっと!必ず!この手で!!」

 興奮冷めやらずといった様子で捲し立てるリンとレイ。そんな二人を見て、俺の方は毒気を抜かれるようだ。

 もう一度タイリクオオカミと目を合わせる。彼女も同じようだ。俺とタイリクオオカミは互いに笑い合うと手を繋ぐ。

「さあ、帰ろう。オオカミ。」

「うん。早く帰ってシャワーを浴びないと。」

 俺達は並んで歩き出した。何が待ち受けていようと、二人なら乗り越えていけるさ。大丈夫、これからもずっと。



 シベリアオオヤマネコのリンです。ご存知ですか?絶対零度に耐えられる燃え滾るフレンズの噂!

 ハシブトガラスのレイよ。知っているかしら?世界の果てには想像を絶する姿をしたけものがいるそうよ。

 噂と言えば、ジャパリポリスにあのアイドルグループがやって来るそうです。是非とも取材しなくては!

 氷のように美しいあのフレンズ達ね。今度こそスクープを手にしてみせるわ!

 行きましょう、レイ!

 任せなさい、リン!

 二人は…!

 パートナー!!



 次回 『Vocalize inmost emotion』

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