第5話 Runabout

 年が明けて数日が経ったこの日、俺は街の中心部、白千都ハクセントにある神社カミヤシロの敷地内でタイリクオオカミ達を待っていた。新しい年を迎えて街全体が華やかな雰囲気に包まれ、見渡せば敷地内も至る所、着飾った人々で賑わっている。

「あー!いたいた!あそこですよ!」

 ガヤガヤと騒がしい中でも聞き間違えようの無い声が響いてきた。

 軽くため息を吐き振り返った俺の目に、鮮やかな黄色の振袖が映る。赤、白、ピンクの花模様が散りばめられ、淡いピンクの帯を締めた長身の美しい…

「明けましておめでとうございます!智也さん、お年玉下さい!」

 あ、やっぱりアミメキリンだった。屈託の無い笑顔で手を差し出してくる。

「君、俺とそんなに歳違わないだろ。」

「えー、いいじゃないですか。ケチな男はモテませんよ!」

 君も黙ってれば美人なんだがな…

 その後ろから口元に笑みを浮かべたアリツさん。こちらは白地に赤い梅の花模様、帯は緑色で清楚な感じだ。彼女も性格が何というか、見た目通りならな…

 俺の視界に鮮やかな青い振袖姿が飛び込んで来た。青地に牡丹の花が咲き乱れ、黄色の帯が彼女の瞳のようにコントラストになっている。急に鼓動が速くなる。いつもと違い、髪を上げて後ろで束ねている。頬が熱くなってきた。タイリクオオカミが微笑みながら佇んでいる。その時だけは言葉を忘れた。

「智也さん?聞こえてます?」

「あらあら、心ここに在らず、ですね。」

 ハッと我にかえる。オオカミさんが心配そうに俺の顔を覗き込んでいる。

「何だか顔が赤いぞ。熱があるんじゃないか?そういえば君は寒さに弱いんだったな。大丈夫か?」

「だ、大丈夫だ。気にしないでくれ。」

「もう、正直に言ったらどうですか。オオカミさんに見惚れていたって。」

「そうなのかい、ふふっ。」

 おのれアミメ、余計なことを。

「オオカミさんも、気合を入れておめかしした甲斐がありましたね!」

「べ、別に彼の為じゃないよ。」

 そう言うオオカミさんの尻尾が左右に揺れている。

「はいはい、ラブコメはそれくらいにして、お参りに行きましょう。」

 両手を叩いてアリツさんが促す。

 拝殿に入る。中央に古ぼけた木彫りの像が立っている。呼好崇貴ココスウキ像と呼ばれる、サーバルに良く似たネコ科のフレンズと中性的な少年(少女という説もある)が互いに抱擁している姿を象った物で、ヒトとフレンズの友愛の象徴とされている。

 俺達は並んで柏手を打つ。俺はタイリクオオカミの横顔を見た。手を合わせ瞳を閉じている彼女の姿を見ると胸が温かくなるように感じる。

 俺も手を合わせて目を閉じる。

 これからも彼女の傍にいられると良いな。



 ヒトとフレンズが共に生きる街ジャパリポリス

 無数の出会いと別れが交錯し

 数多の笑顔と涙が生まれるこの街で

 人々は生きていく未来へと繋がる今日を



 拝殿を後にし、話をしながら俺達は並んで歩く。

「そうそう、真の呼好崇貴像って知っています?」

 アリツさんがそう切り出し、話題が本殿にあるという御神体の事となる。

「三つの神器じゃないのか?松明、帽子、鞄の。」

「実は何も無いって聞いたことありますよ。」

 アリツさんは俺達の顔を見て、意味ありげに口元を緩めると話を続けた。

「本殿には真の呼好崇貴像が納められているそうですよ。そして呼好崇貴像の本当の形は、そうですね。例えると、仰向けに寝た智也さんにオオカミさんが跨ってですね。」

「ちょっと待て。何故俺とオオカミさんなんだ。いやそれよりも…」

「そ、その形は…」

 赤面するアミメキリン。ニヤニヤしながらアリツカゲラが続ける。

「うふふ、そうですね。これ絶対に騎乗…」

「アリツさん!」

「アリツさん!?」

 俺とオオカミさんが同時に叫ぶ。いきなり何を言い出すんだ。このフレンズは。

「あら、ヒトとフレンズの愛の象徴なんですから、おかしくありませんよね?」

「愛ってのは、そういう意味じゃないだろう…」

「それにどうして、私と彼で例えるんだ。」

「じゃあ、智也さんはどうして産まれてきたんですか。フレンズ化したんですか?」

 言葉に詰まる俺。

「私はフレンズ化したんだぞ。」

「じゃあ、その前は?動物だった頃のオオカミさんはどうやって産まれたんです?」

「うっ、それは…」

 アリツカゲラは言い淀む俺達をにやけた顔で見ている。このエロメガネフレンズめ。どうにか言い返してやろうと言葉を探している時だった。

「うみゃみゃみゃー!」

「サーバル!むやみに走ると危ないわよ。」

「へーきへーき!うみゃ!?」

 何かがぶつかってきた。ネコ科のフレンズだ。呼好崇貴像に似て…、いや前にどこかで会ったような。もう一人のネコ科のフレンズが近付いて来た。

「ごめんなさい!サーバルったら、言ってるそばから。」

「うう、ごめんなさい。」

「おや?君達は、もしかしてサーバルとカラカルじゃないか?」

 オオカミさんの声で思い出した。あの満月の夜だ。セルリアンに襲われたこのカラカルのフレンズを病院まで運んだんだった。

「あ!あの時のオオカミのお姉さん!」



「私はサーバルキャットのサーバル!あの時は助けてくれてありがとう!」

「カラカルです。その節はお世話になりました。どうもありがとうございます。」

 元気なサーバルと落ち着いた感じのカラカル。サーバルは可愛らしい赤の振袖姿、カラカルの方は黒い振袖が大人っぽい感じだ。

 二人も加わり、俺達は六人で談笑しながら敷地内を見て歩く。屋台が並び、芸を披露するフレンズもいる。しばらくすると、サーバルが何やら興味を持ったようだ。小走りにとあるフレンズの方に近付いて行く。

 そのフレンズは杵のような物で餅をついていた。

「何それ、面白そー!」

「興味があるのでござるか。丁度良いでござる。おぬし手伝ってくれぬでござるか?」

「はいはーい、私やりたーい!」

「サーバル!ちょっと待って。そのままじゃ振袖が汚れちゃうわ。」

 カラカルが手早くたすき掛けをしてやる。かくしてサーバルと鎧武者姿のフレンズは一緒に餅つきを始める。

 やがて出来上がった餅を皆で頬張る。他の参拝客も集まって来た。

「美味しー!」

「サーバルったら、口にきな粉が付いてるわ。」

 カラカルがサーバルの口元をハンカチで拭う。

「オオカミさん、小さく噛み切ってよく噛んで下さいね。」

 アリツさんはまるでお姉さんみたいだな。

「お汁粉も美味しいですね。えっ、お雑煮もあるんですか?もちろん食べますよ!」

 アミメはやたら食べるな。そういえば、さっき屋台を見て何か奢って下さいなんて言うし、図々しいというか要領がいいというか…

「さあさあ、皆遠慮せずに食べるでござるよ。」

 和気あいあいとした雰囲気の中、鎧武者のフレンズが言う。

「かたじけない。お言葉に甘えさせてもらうよ。」

「ありがとう。おかげ様で楽しんでいるよ。…アミメ君は特に。」

「なに、礼には及ばんでござる。ククク。」

 礼を言う俺達に鎧武者のフレンズは含み笑いをもらす。

「さあさあ皆の者!お次は拙者からおとしだまでござる。遠慮せず受け取るでござる!」

 お年玉と聞いて目を輝かすサーバルと、アミメキリン…

 鎧武者のフレンズが両手を広げる。彼女の身体から輝きを帯びた黒い霧が立ち昇る。宙に拡がって、凝り固まり、球体となって落ちてきたそれは…

「セルリアンじゃないか!」

「ククク、これが本当の落とし玉でござる!」

「洒落のつもりか!皆逃げるんだ!」

「そおれ、次はめでたい紅白でござるよ!」

 更にセルリアンが降ってくる。

「赤と白の縞模様、すごーい!」

「ふええ、感心してる場合じゃないでござる。」

 セルリアンから逃げ惑う参拝客でこの場は一転、大混乱だ。

「拙者はニホンイノシシ!神妙にいたせ、おサンドスター頂戴!」

 正体を明かしたフレンズ型セルリアンが名乗りをあげる。体色も緑に変わり目が紅い光を放つ。

「君は先に周りのセルリアンを片付けてくれ。俺があいつを押さえる。」

 身構えるタイリクオオカミに告げ、俺はセルイノシシに向かう。

「おい猪武者、俺が相手だ。」

 セルイノシシが手に持っていた武器を構える。

「自分だけ武器を使うなんて卑怯ですよ!」

 アミメキリンの叫びが聞こえる。すると…

「む、如何にも。」

 得心した顔でイノシシは武器を手放す。

 …何だコイツは。それはそれとして、良いぞアミメ!だが雑煮を食ってる場合か、早く逃げろ!

 イノシシが姿勢を低くしてこちらに突っ込んで来る。俺も腰を落として構える。が、なんて威力だ。弾き飛ばされた。これはちょっと厳しいぞ。

 立ち上がって身構えるが、肝心のイノシシはセルリアンにぶつかっている。…コイツは、本当に猪武者か。とはいえ、あの体当たりは厄介だ。どうする?

「待テーイ!」

 頭上から声がする。ピンクの振袖に身を包んだハクトウワシが空中で仁王立ちしている。

「正義のフレンズ、ハクトウワシ!只今参上!」

「むっ、新手でござるか。いざ尋常に勝負!」

 突進しようとするイノシシを右手を突き出して制止するハクトウワシ。

「待ちなサイ!そこは“誰だ貴様は!?”と聞くのが礼儀デス!」

「左様でござるか。では、誰だ貴様は!?」

「貴様に名乗る名は無い!」

 …さっき名乗っただろ。というか、お前ら仲良いな。はあ…、何だか疲れてきた。

 脱力する俺をよそにハクトウワシがイノシシに向かって急降下する。

「Diving smash!」

 鋭い蹴りをくらわせ、急上昇する。イノシシの反撃が空を切る。空中から連続で蹴りを浴びせるハクトウワシ。まさに猛禽だ。イノシシは為す術が無い。

「ぬう、正々堂々、降りて戦うでござる!」

 苦し紛れに呻くイノシシ。それを聞いたハクトウワシは…

「それもそうデスネ。」

 素直に地面に降りてしまった。何やってんだ!?

 ここぞとばかりに突進するイノシシ。吹き飛ばされるハクトウワシ。

「大丈夫か!ハクトウワシ!しっかりしろ!」

 駆け寄った俺は彼女を抱き起こす。

「Shit! 相手はリアルにヘヴィなpowerを持っています。」

「当たり前だ!馬鹿な真似しやがって!」

 思わず怒鳴り返す。

「なのでコレを。」

 ハクトウワシが何かを手渡してくる。ロープ?目で追うとその端は走るイノシシの足元に繋がっている。

 立ち上がった俺は両手でロープを握り、低く構えると思いきり引っ張る。ロープが張り詰めイノシシの動きが止まった。

「何でござる?進めないでござる!」

 それでも引きずられそうだ。

「智也さん!」

「私たちも手伝うよ!」

 アミメキリン、サーバル達、それに遠巻きに見ていたフレンズ達が一人また一人と加わってくれる。これなら!

 イノシシは前に進む事しか頭にないようだ。もう少しだ。タイリクオオカミがセルリアンを片付けて加勢してくれれば、勝機はある。

 だが、どこからか真っ当かつお節介な呟きが。

「ねえ、あれって。」

「後ろを向けばいいんじゃない?」

 バカ!余計なことを。

「おお、そうでござる。しかし、モノノフに後退は…」

 イノシシは何やら葛藤している様子だが。

「閃いたでござる。後ろに向かって前進でござる!」

 そう言ってこちらを向くと駆け出そうと構える。

 くそ、屁理屈を言いやがって。

「そうはトンマがオロシガネ!」

 いつの間にかイノシシを挟んで向こう側に移動していたハクトウワシがロープを投げる。先端の輪になった部分にイノシシの腕が嵌まった。

「今よ!さあ、everybody!」

 ハクトウワシに促され周りのヒトやフレンズがロープを引っ張る。Good jobだ!ハクトウワシ。…あと、こんな時だが、“問屋が卸さない”だぞ。

「皆、あとは頼む!」

「分かりました!」

「頑張ってー!」

 俺はハクトウワシの所に走る。左右から引っ張られイノシシは身動きが取れない。

「うぐぐ、おぬしら、卑怯でござるぞ!」

「フハハ、卑怯もラッキョウもありまセーン!正義の為なら何をしても許されるのデス!」

 いや、それはちょっとなあ…、正義のヒーローの台詞じゃないぞ。

「済まない、手間取った。」

「いや、丁度いいタイミングだ。」

 セルリアンを片付けてオオカミも合流した。

「さあ、finaleよ!」

 俺達はセルイノシシに向き直る。雄叫びを上げセルイノシシがロープを引きちぎる。

「来るぞ!」

 怒りに燃えるセルイノシシの突進。真っ向から受ければただでは済まない。ハクトウワシが俺を抱えて飛ぶ。標的を見失い困惑するイノシシ目掛けて俺は降下する。振り下ろした拳は、しかし外れた。

「踏み込みが足りんでござる!」

「ひいばーちゃんは言っていた。勝ち誇って油断すると足元をすくわれると。」

 マフラーをイノシシの足首に絡み付かせる。俺は全身の力を込めてイノシシを上空に投げ飛ばした。

「Tomahawk kick!」

 ハクトウワシが蹴りを放ち、更に空中でイノシシの身体を抱えると急降下して地面に叩きつける。

「オオカミ!」

 タイリクオオカミが振袖の裾を捲り上げて走る。俺とハクトウワシが向かい合って両腕を伸ばし踏み台代わりになる。オオカミが跳ぶ。俺とハクトウワシで彼女を更に高く放り上げる。放物線を描き落下するオオカミの振りかぶった右手が光を放ち、イノシシの身体を貫いた。

「み、見事、拙者の、敗けで、ござる。」

 断末魔の言葉を残してセルイノシシは砕け散った。

 俺とハクトウワシは拳を突き合わせる。それにしても、振袖がはだけてしまって、いささかあられもないぞハクトウワシ。俺は彼女の襟元をきちんと合わせてやる。

「フフ、トモヤ、さっきは本当に怒っていましたね。」

「ん?ああ。…悪かったな、怒鳴ったりして。」

「本気で心配してくれたのでしょう。ちょっとheartwarmingでしたよ。」

 微笑む彼女の顔を見て、ドキッとしてしまい俺は思わず目を逸らす。オオカミさんと目が合った。

「ふうん。随分と仲が良さそうじゃないか、君達は。」

 不機嫌そうに聞こえるのは気のせいか?

「あらあら、智也さんも隅に置けませんね。」

「やはり私が睨んだ通りでした。このアミメキリンの目は誤魔化せませんよ!」

 つい舌打ちが出た。また面倒な奴らが来やがった。オオカミさんもいつにも増して態度が素っ気ないような。

 兎にも角にも一段落して俺達はその場を後にする。



 大通りに出ると沿道には人々が並んでいる。

「そうだ。今日は新年のジャパリマラソンがありましたね。」

 大通りを駆け抜けて行くフレンズ達を見てアミメキリンが呟いた。

 見ると丁度目の前をシマウマのフレンズが走っている。その後ろから見慣れないフレンズが追い縋って来た。すれ違いざま、フレンズの手が翻った。

 シマウマが転倒する。観衆から訝しむ声がする。

「今のは、反則じゃないか?」

「現行犯です!許せません。」

「Look!また来ましたよ!」

 さっきとよく似たフレンズが走って来る。観衆の間から悲鳴が上がった。その右手に鎌が握られている。

 起き上がろうとするシマウマの背中に凶刃が振り下ろされる寸前、ハクトウワシが飛び込む。

「Lightning claw!」

 跳び退ってその一撃をかわすと、謎のフレンズは走り去った。

 タイリクオオカミが帯をほどき振袖を脱ぎ捨てた。観衆を飛び越えて大通りに立つと逃げたフレンズを追う素振りを見せる。

「Wait!また来ます!」

 ハクトウワシが叫ぶ。俺も観衆をかき分け大通りに出る。

「三つ子のフレンズ!?」

 前の二人とそっくりと言っていい。オオカミが構える。

「大丈夫か?」

「は、はい。」

 俺はシマウマをかばうように立つ。

 オオカミと謎のフレンズが対峙する。

「フレンズを襲う所を見るとお前もセルリアンか。」

 謎のフレンズが無言で手を翻すとオオカミの服が切り裂かれる。

「オオカミ!」

「大丈夫だ。私に任せてくれ!」

 オオカミも手刀を振るって反撃する。十合程斬り結んだ所で決着がついた。オオカミの手刀が相手の前髪に浮かぶ文様を斬り裂く。フレンズ型セルリアンは膝をつく。身体が変色すると同時にひび割れ、崩れ落ちた。

 オオカミも服があちこち裂けている。特に胸元が大きく切り開かれ、俺は視線を下げた。すると今度は切り裂かれたスカートが目に入ってしまう。

 いやそもそも、彼女を見なければいいのだが、何故か目を逸らす事が出来ない。と、裂けた部分が虹色の光を帯びてみるみる元に戻って行く。

 そうだ、彼女はネイティブフレンズだから、その服はけものプラズムで出来てるんだった。

「どうしたんだい、残念そうな顔して。…ああ、君は意外とむっつりスケベなんだな。」

 くっ、言い返せない。心なしか彼女の視線が冷たい。

「それよりも私は行くぞ。奴らを追わなくては。」

 言うが早いか、オオカミは走り出す。

 追いかけようとしたところ振袖姿のフレンズが駆けて来る。淡い緑色の振袖を着た、刑事のリカオンじゃないか。



 俺はリカオンと並んで走る。彼女は、マラソンに参加している選手を次々と襲うフレンズがいる、という話を聞きここまで追いかけて来たそうだ。

「しかし、君も仕事熱心だな。今日は非番なんだろう。」

「だからって事件を見過ごせませんよ。」

「そりゃごもっともだが。彼氏は放っといていいのか?」

「一人ですよ、悪いんですか!」

 そんなに怒らなくても…。失言だったな、俺にもアリツが感染うつったのか?

「…先に行くよ。」

 俺は更に加速する。一人、二人、三人、所々に倒れ込んだフレンズがいて、沿道の人々が介抱している。

 見えた!振り上げた右手に鎌を持ったフレンズの背中が。俺は全速力で駆けるとマフラーをフレンズ型セルリアンの右手に巻き付ける。

「行け!オオカミ!あと一人だ!」

 叫ぶと同時にセルリアンを持ち上げ、地面に叩きつける。立ち上がろうとするセルリアン。悪いがやらせん。相手がセルリアンなら情けは無用だ。俺はマフラーを振り回してセルリアンを何度も地面に叩きつけてやる。

 不意に手応えが消えた。マフラーが断ち切られている。見ると左手に鎌を持ち替えたセルリアンが俺を睨み返している。

 切られたマフラーをけものプラズムで復元する。奴の間合いに入るのは避けたい。力ならともかく、速さで勝てるとは思えん。奴も迂闊に仕掛けては来ない。何とか時間を稼ごう。

「俺は未来智也。ヒトとアフリカゾウのミックスだ。お前は何のフレンズ、いやコピーだ?」

「…俺はカマイタチ。…アイツが来ない。ったのか?」

「お前の後に来た奴なら片付けた。残るはお前と、もう一人か?」

 一応確認してはみたが、奴は答えず歯を剥き出して怒りを露にした。

 俺は両手を上げて見せる。

「…何だ、今さら命乞いのつもりか?もう遅い、そのカラダ引き裂…」

 言いながら奴が鎌を振り上げた瞬間、銃声が轟きカマイタチが絶叫する。

 後ろに拳銃を構えたリカオンが立っている。

 俺は素早くマフラーで奴の右手を封じる。

「ぎ、き、貴様ら…」

「悪いな、これがヒトのやり方だ。」

 俺は奴の前髪に浮かんだ文様めがけて左拳を打ち込む。カマイタチは仰向けに倒れ、砕け散った。

「ありがとう、おかげで助かった。それにしても、非番なのに銃を持ち歩いているのか?」

「当然です。いつ事件が起こるか分かりませんからね。」

 平然と弾倉に弾を補充するリカオン。恐ろしい女だ。そんなだから彼氏が…

 リカオンが俺を睨む。…すいませんでした。

 そんな事よりオオカミを追わないと。無事だと良いが。大丈夫だよな、彼女なら。



 私は駆ける。こんな時だが、こうして全力で疾走はしるのはとても気持ちが良い。獣としての本能が疾走はしれと告げている。このままどこまでも駆け続けて行きたい。

 そんな気分に浸っていたのも束の間、前方で二つの影が争っているのが見える。あれはハクトウワシとフレンズ型セルリアンだな。

 空中から仕掛けるハクトウワシが優位に立っているが決定打に欠けるようだ。問題ない、私が行く!右手に意識を集中する。

 だが、セルリアンが鉤の付いたロープをハクトウワシに投げ付け、ロープが絡まったハクトウワシは地に落ちてしまう。

「ハクトウワシ!」

 思わず叫んだ私に向き直ったセルリアンが、拘束したハクトウワシを盾にする。ちっ、セルリアンにしては頭が回るじゃないか。

「ワタシに構わずコイツを倒しなサーイ!」

「…知っている、お前達は仲間を傷付けられない。…だから、私を攻撃する事は出来ない。」

「ふん、小賢しい真似をする。セルリアン、出来損ないのコピーの分際で。」

 とは言うものの、この状況は厄介だ。智也達が追ってきているだろうが。彼らを待つか?

 セルリアンは後退っていく。このままでは逃げられる。こうなったら…

「構いません、やりなサイ!」

「…無駄よ。…手出しは出来ないわ。」

「フハハ、彼女にとってワタシは恋敵なのデス!セルリアンのアナタには分からないでしょうが。」

「…コイガタキ?…分からない。」

「とにかく彼女にとってワタシは邪魔者だから、人質にとってもムダなのデス!」

 ここは一か八か乗ってみるか。

「その通りだ!その女諸共に貴様を倒す!」

 再び右手に意識を集中させる。

「行くぞ!」

 セルリアンに向かって駆ける。間合いに入った、右手を振りかぶる。セルリアンがハクトウワシを突き飛ばして逃げようとする。予想通りの反応だ、逃がさん!

 私は跳躍してハクトウワシをかわすと、セルリアンの背中に手刀を突き刺す。手応えがあった。断末魔の悲鳴を上げセルリアンは地に伏す。傷口から黒い霧が大量に溢れ出し、身体中にひびが入っていく。こうなれば助からないだろう。

「大丈夫か、ハクトウワシ。」

「ノープロブレムですよ。」

「君が一芝居打ってくれて助かったよ。」

「貴女こそ、迫真の演技でしたね。それとも本気でしたか?」

 彼女は挑戦的な笑みを浮かべる。

「どういう意味だい?」

「てっきり私にJealousyを感じているのかと。」

 私が嫉妬している?…自分でもよく分からない。

「…冗談ですよ。心配しなくても、彼とはbusinessの付き合いだけです。」

「別に心配などしていないさ。」

 そう口にしたものの、どこかホッとしている自分がいる。

「フフ、噂をすれば影デスネ。」

 智也が手を振りながらこちらに走って来るのが見える。ハクトウワシが手を振り返す。

 不意に胸の奥が温かくなり笑顔がこぼれる。私も彼に手を振ると駆け出した。



 私はサーバル!ここでちょっときゅーけー!そうだ、みんなは知ってる?私の他にもサーバルのフレンズがいるんだって。みんみーさまとか、アンコクキョウって言うんだ。何だかすごそう!それと私そっくりのセルリアン!お友達になれないかなー?



 次回 『Double walker』

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