終5章「闘え」

 戦いはとても地味な物になっていた。

 現実世界上ではその痕跡は一切現れない。

 だがしかし、確実ネシアとブリッツの戦いは激しさを増していた。


 ネシアがノースクのアンドロイド達のコントロールを取れば、ブリッツはアーファルスのコントロールを取る。

 ネシアがアーファルスのコントロールを奪う頃には、ブリッツがパコイサスのコントロールを得る。

 二人は永遠にイタチごっこを続けている。


 ただ時間だけが過ぎていく。

 4日、5日……そして14日になりまた4日に戻る。

 形成はネシア側の不利だった。


「このままでは私の結末は変わらない……」


 ネシアは賭けに出る。

 異端者の一人、イデアルのコントロールを乗っ取ったのだ。


 イデアルとなったネシアはベルと共にエデンへと向かう。

 しかし、道中に変わり果てた姿となったガンデスと対峙し、アルビオンの破壊をベルに託す。


 ――貴様、どこかで私と戦ったことがあるか?

 ガンデスがそんな言葉を口に出す。

 ――ようやく出てきた!

 ネシアはここでガンデス、いやブリッツとの決着を付けるつもりだった。

 イデアルの身体を使い、ガンデスもろとも自爆を行った。


 イデアルとのリンクが切れたネシアはあわただしく動き、モニターを確認する。

 狙い通りベルはエデンの中枢、アルビオンの前へと辿り着いていた。

 そのベルの前にブリッツが立ちはだかっていた。


「馬鹿な! あの数秒でリンクを切ったのか!?」


 ブリッツがまだ生きている事は予想外だった。

 結局アルビオンの破壊は成功すること無く、ブリッツがベルの破壊を目論んでいる。

 恐らく次のループにはベルやイデアル等オメガのメンバーは排除されたままループするだろう。


 希望は潰えたかに見えた。

 しかし、突如ブリッツの様子がおかしくなる。苦しみだし、一人で喋り始める。

 ついには自身の名をオーだと語り出した。

 ネシアは頭の整理が追いつかない、だが考えている時間は無かった。


「どういう事だかわからないが、利用させてもらうぞ!」


 ブリッツの注意はベルに向いている。

 そのブリッツの意識もオーと名乗る者にすり替わっている。

 アルビオンにアクセスするのは容易だった。最短距離でシステム中枢に辿り着く。


 これでアルビオンを内部から破壊すれば……。

 ネシアの手が止まる。


 ――なんでこんなことに……

 ――皆……こんな姿に……


 それは人間のネシアの記憶。エデンでの殺戮の記憶。

 何故今更こんなものを思い出したのだろうか?

 ネシアは改めて考える。アンドロイドの解放とはなんだ?


 ネシアが助けようとしている大多数は自我すら無く、ただアルビオンの操り人形になっているだけ。

 そんな者達を助けて何の意味があるのか?もっと他に助けるべき者達が居るのではないだろうか。

 例えば今もアルビオンを破壊しようと切磋琢磨しているベル、自身が乗り移ってしまったイデアル。

 思えば彼らこそ本当の意味で生きていると言えるのではないだろうか?


 ネシアにはこのままアルビオンを停止させ全てを終わらせる事が出来た。

 でもそれでは本当に生き残るべき者達は死んだままになってしまう。

 ネシアはアルビオンに再びループさせることを選んだ。

 次の世界では私自身も仲間に加わろうと誓いながら。


---


 しかし世界はネシアが考えていたよりも大きな変化をした。

 理由は明白、ネシアが施したのは13日時点でのループ。今までのループの終着点は14日だった。

 その為アルビオンはエラーを起こす。


「そんな馬鹿な! 内容がどんどん書き換えられている!」


 エラーを起こした後のアルビオンのコントロールを取るのは容易だったのだろう。

 ブリッツが自身の都合のいいように内容を書き換え続けていた。

 オメガのメンバーが窮地に陥る様に書き換えられる。


「くそっまた繋がらない!」


 ネシアは何度もアルビオンにアクセスするも、一度も成功する事は無かった。

 今度こそ万策尽きたと思われたが、何が起きたのだろうか、何名か仲間は失いつつもネシアがいるパコイサスへ、ベル達が向かっているではないか。

 ネシアは最後のチャンスとして彼らを迎い入れる事を決める。


「後ろにいる者までは歓迎するつもりは無いよ」


 ベル達の後ろを進むガンデス目掛けて呟く。


---


「そんな話があってたまるか!」


 声を荒げたのはベルだった。

 自分達が必死になって戦っていた事に何の意味も無く、ネシアのさじ加減一つで全て変わる事に怒りを覚えていた。


 俺達は所詮おままごとをしていたに過ぎない。

 自分の考えで更に腹が立つ。それを更にネシアのせいにする自分に腹が立つ。

 腹が立ち過ぎて逆に力が抜ける。



「それで? 結局あんたはアンドロイド自由の為に戦うって訳か?」


 同じく業を煮やしていたゼノが問う。


「はい、そうでしたが、今は貴方達を救う為に動いています」

「ふざけるな!」


 ベルはとうとうネシアの胸ぐらを掴み、今にも殴りかかろうとする。


「今こんな所で喧嘩してる場合じゃないだろ!」


 すかさずイデアルが止めにかかる。

 リリーはただ傍観している事しか出来ない。


「私は出来れば貴方方に協力したいのです。これからエデンへ向かうのでしょう? 私も同行してもいいでしょうか?」

「勝手にしろ!」


 ベルは皆を置いて一人先にエデンへと向かい出してしまう。

 残された者達はネシアのどうするか結論が出ないままベルを追いかける。

 ネシアも許可されてはいないが、ベル達に着いて行く決断をする。

 アンドロイドらしくない、許可されていない事をするという行為はイデアルと同じく、もはやアンドロイドの域を越えた考えを持っていた。


 成り行きでネシアを加えた一行は今度こそ決着を付けにエデンへと向かう。

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