「現代東京のパラレルワールド」の中心地を選ぶセンス

この作品の舞台は現代東京のパラレルワールドです。

ただ、一口に「東京」といってもそれ相応に広いわけですから、主人公ないしそれに準ずるキャラクターの「本拠地」を東京のどこにするか……という問題が生じます。

特に取り柄のない書き手であれば、新宿や渋谷、池袋を選ぶものです。

ところが、この作品に出てくる土地は豊洲だったり昌平坂だったりで、なかなか味のある地域を舞台にしています。しかも、ちゃんと地理の位置関係を描写してるんですよね。これは評価すべき点です。

で、ちゃんと昌平坂の歴史を把握し、実際に書き表しているというのもなかなかのものです。

高評価に値する点はもうひとつ。設定や背景、専門用語の説明が必要なSFは、それに尺を取られるせいで冒頭が長ったらしくなることがよくあります。いつまでも物語が進まない、という現象ですね。けれど、この作品の作者さんはその対策をちゃんと考えています。だからこそ、物語が始まると同時に死人が出るほどの山場を作ったわけですね?

序盤の話のテンポは申し分ないです。それに加え、そもそもの文章が非常に読みやすい。これも好印象です。

ただ、そうであるならパラレル東京の地理に関する描写、実際の東京とリンクする部分の「何か」がもう少しあってもいいかな……とも思いました。ここにこんな坂がある、こんな橋がある、ニコライ堂ほどの大きなモニュメントではないけれどこんな建物がある……という具合に。というわけで、今回は星2つ。