第29話 猛虎は駒で戦う

動物園から、その後の由布家はというと

家族全員で食事をする日々がけっこう

続いた。忙殺のスケジュールの

母さんが突然、一緒に

食事できたのはゴールデン・ウィークだから

で、唯悧は嬉しいと居間で口ぐせのように

言っていた。なので、俺もすこぶる嬉しい。

まぁ、ゴールデン・ウィークは色々と

あった・・・特にずっと唯悧と居る時間が

長く母さんは実家など行っていたからで

あのときの唯悧はなんていうか大胆だった。

兄とはいえ、ここまでしてどうしたのか

疑問と歓喜の日々。

そしてゴールデン・ウィークが終わり

学校に2年の教室に入り定められた

自分の机に座ると、馴染みのある声が

俺の名前を呼ぶ。


「由布おはよう!」

「高野おはよう!」


季節は5月の令和初の学校は、特別な変化は

なかった。いて言うとしたら

長かった休日に自分の役割、空気、喧騒を

など思い出そうとしているのような

漂っている教室があるのみ。なので

高野とは久し振りに顔を見れてラインや

通話はしていたけど、やっぱり直で姿を笑み

見ると元気になってくる。


「妹さんとは、仲良く・・・やっているに

決まっているよね。それじゃあ

ハイタッチ!」

「当然だな。はい、ハイタッチ」


てのひらと掌を打ち合わせた音が

想像通りに鳴る。こうして友情が高めて

いくのだろうか。ボッチ歴が長くイコール恋人いない歴さらにイコールの年齢だから。


「フフ、わたしがいなくて

寂しかったかな?」

「い、イヤ・・・まぁ、そうだなはっきり

言えば寂しかった。」

「は!えっ?あっうん・・・それはどうも」


それからお互い言葉が出てこず頬を赤らめ

恥ずかしい言葉を交えたことに・・・

どうすればいいかわからずにいた。

最近の高野とは言葉がうまく伝わらないし、

共感など減ってきているような気がする。

支えられて、相談を受けていて

そして素直に友情を育もうとしても・・・

前に出られない。


「やあ、二人とも今日もいい天気だね」

「・・・十時ととき。いい天気って

言葉は、最初に挨拶するのは初対面だけと

相場か決まっている気がするけど」


俺がそうツッコみ普通の髪型に気概を

感じないつまり強い意思を感じさせない

友人の十時連貞とときつれさだ

あれ、普通に悪口になっている!?


「あれ?十時、今日は彼女と

一緒じゃないの?」

「はっ!?ま、待って高野それは・・・」


白き幼女姿した高校生は気になる疑問をすぐ

問いに十時は、ニヒルに笑う。

ほら、始まったよ十時のスキルが!


「ああ、その話をする前に改め言わせて

ほしい」

「いや、高野も俺も大丈夫だ。だから

傷を抉るようなことはするな十時!」

「わかった。そこまでの覚悟をしたなら

もう止めない。・・・人間っていうのは

どうしてこう、知識欲に忠実なんだろうね」


ゆっくりとポケットに手を入れ仰ぐ。

もちろん上は天井でとくになにもないのに

何故か仰いだのだ。おそらく意味はない。


「始まった・・・十時劇場が・・・・・」


自らの顔を覆うように手を乗せて嘆く俺。


「ゴールデンウィークそれは、変わらぬ

朝の訪れ。そしてベッドから出ようと

すると隣には裸の女の子がいた。

見た目からして、中学生くらいの――」

「もしもし、警察ですか?わ、わたし

学校に年下の女の子に手を出した

ヤバイ奴がいるんです!」


高野が十時の所業におののく。

通報をしようとスマホで110を報せる。


「わ、わあー違うから高野が想像しているようなことは一切、起きてないから!」

「キャーー!ゆ、由布・・・た、たすけて

わたしのスマホを・・・大事な物を

壊そうとしてくる」

「高野!・・・トトキィィィ!!

お前は越えてはいけない一線を越えたぁ!」

「ま、待ってくれ由布。それに高野も

冗談やめてくれ。本当に周りが勘違い

しているじゃないか!?」


由布が手を広げ教室中に注目の的となっている。そして、高野と同じくイヤ、本気で

110など通報をする者も出ている。


「すみません!突然ですけど悪ふざけで

・・・いえいえ、イジメのような

言い分とかじゃなくて!」


ラノベイベントを度々、引き起こす十時が

誤解を解こうと奔走する。

それを見た高野は白い頭を掻きながら

ある生徒の元に歩き進む。


「ねぇ、君。心配ありがとうね。

でも本当にふざけていただけだから

通報は大丈夫だよ・・・うん色々と

迷惑なんか掛けて本当にごめんねぇ。

心配してくれて嬉しいよ、それじゃねぇ」


優しそうな体育会系の男に高野は

愛嬌を振り撒きに男は、ロリコンだったのか

ニヤけ嬉しそうにしていた。

高野の上目遣いでオーバーに反応し

通報を中断し高野がお礼し他の人に

誤解を解きに次に向かう。


(仕方ない、俺も協力するか。そもそも

原因は俺もあるわけだし)


それから、全ての誤解を解くことは

できなかった。まぁ、人畜無害を服を

着たような十時なら、クラスも本気にしないだろう。だって、ラノベ主人公を体現させた

存在だから。なので、通報しても警察に

捕まっても次の日には何もなかったように

通常の完全的な平穏な明日になる力があると

信じて俺は先に本屋に寄ってから

帰ることにします。

何事もなく新刊のラノベをいくつか買い

後は帰るのみ。

空はようやく茜色に染まり、つまりこの時間になると人の往来も徐々に増えていく。

人が多いのは苦手な俺は、早く帰って

妹の唯悧の笑顔を早く見たい!

小さなビルや店など、林立とはいえなくとも

そこそこあって、ひっそりとした雰囲気の

道路を歩いていると信号が青から

黄色に赤へと変わる。

急いでも間に合わない距離で目の前で

変わると少し不運だと軽く落ち込みが来る。

しばらくスマホで、唯悧にもう少しで

帰れるとラインで送信と・・・

してから懸念がよぎった。


(あれ?俺って思ったよりもシスコン

の速度が上がっていないだろうか?

そ、そうだとしても悪魔でも妹として

可愛いつまりゆるキャラとか猫などの

感情に近いんだ!けっして女の子として

好きとかではない!)

「おい!貴様は唯悧の兄だったよなぁ」

「え?・・・」


相手は車が走る道に歩いていた・・・

いや、信号が赤で歩行者側の信号が青に変化してターンになったようだ。

声を掛けてきた人は俺よりも少し年下。

髪はやや逆立っていて、鋭い眼光。

不良の印象よりも軍人のイメージが強い。

なぜなら不良のような醜さよりも

厳格な落ち着きがあったから。

そして、俺はどこか見たことがあるような

気がするのだ。


「そ、そうだけど・・・俺になにか?」

「由布惟信。貴様には・・・いや、

お前にはわずかだが感謝の念はある」

「・・・そ、そうですか。あの唯悧とは」

「そうか、名乗っていないなぁ。

俺は加藤虎之助かとうとらのすけ

唯悧とは、友達だ。お前にどうしても

尋ねたいことがある」


加藤虎之助。カッコいい名前でイメージ

通りだ。虎のように一人で行動して孤高のような言動がある。驚いたのはあの

唯悧が男友達がいたことにだ。

なんだか・・・不安に、あっ!

この人はショッピングモールの唯悧の

友達の中にいたあの人だ。

あのときは、唯悧が俺が彼女できたと

間違われ彼が激しく怒ったのだ。


「少しなら構わないけど」


唯悧に今すぐに会いたい想いが強いが

彼のことを少し知りたい。唯悧に

僅かながらの恋心があってその気持ちを

悪い方向へと暴走する可能性があるやも

しれない。正直、嫉妬心は少しあるが

それは唯悧を縛りつける感情などでこれは

本当に捨てないと。


「それなら場所を変えよう。そういうわけだから、俺は電車で帰宅するから先に

帰って他の仕事に移ってくれ」


車道の高級車に彼は高い声でそう指示する。

運転席の窓から執事のような人が

ビシッと応える。・・・え、もしかして

ブルジョアさん!?ぼっちゃんなのか


「ついてこい!お前とはゆっくり

語り合える場所を近くで知っている」

「あっ、はい!」


妹の友達に年上のように振るまいに俺は

敬語で答える・・・なんだか悲しい。

年上としては(たぶん俺が上)模範的な行動しないといけない使命感はあるが

なにをすればいいだろうか。

唯悧なら、すぐに分かるが年下と話す経験がないので後ろについて歩くしかなかった。

三分か五分ほど歩き前を歩く彼は止まり

仰ぐので、俺も視線を上を向く。


「将棋クラブ?」

「ああ、町中にある小さな場所だ。

ここは、人がまだらで閑古鳥かんこどりが鳴いているから語るにはちょうどいいだろうからな。将棋はできるか?」

「い、いや将棋はやったことないなぁ」

「そうか・・・」


将棋やっていないと答えたのに何故か入り口にドアノブを引く。上体を捻って後ろへと

向き、ついてこい!と伝わりついていく。

不思議だね雰囲気だけで伝わったよ。

彼は窓際の席に座り将棋の台と駒を入れた

箱が二つ置かれている。シンプルだけど

相手がいればゲームが出来るようだ。

当たり前なことだけど、入るのが初めてなのでそれが第一印象だった。

あれ?受付で払わなくていいのかな?

そことこを訊いてることにした。


「えーと、加藤さん?そのお金とか払っていないと思うけど大丈夫なの」

「あ?・・・ああ、そういうことか。

心配は無用だ!この店は父上の配下が

経営しているから、俺の顔を見れば

好きに指せるようになっている」

「・・・えっ!?配下?どこから

訊けばいいんだ」

「愚問だな。語るのは将棋でだろう」


彼は小さな木箱を開き駒を置き始めた。

いえいえ、それが当然のように言われても

語るのはデュエルだ!とそれに似たような

理屈あるか!?

相手は真剣で冗談の類いの表情には色をしていなく、仕方なく俺も彼の真似をして駒を

置いていく。


「待って!飛車ひしゃと角が逆だ」

「えっ!あ、ありがとう?」


なるほど、こう並べるのか。確かに角の

前に相手の陣地には飛車で、自陣の飛車の

前では敵陣の角があると、覚えておこう。

もう、このまま対局をするだろうから

楽しむことにしよう。うん。彼はきっと

将棋で語れる領域の人だろうから

指していたら俺のことわかるかもしれない。


「終わったようだな。初心者なら俺は

駒落こまおちで相手をする」

「駒落ち?・・・」

「ハンデのことだ。棋力きりょく

上の者が駒を減らして戦うことだ」

「なるほど・・・それでどれぐらい駒を

減らすの?」

「全部だ!」

「・・・・・・え?ぜ、全部って、

それじゃあ戦わずに終わるけど?

もしかして終わらない!?」


王を取られたら終わりだと考えていたが

違うのか。将棋・・・奥深いと新たなる

発見に驚いていると、彼は並べていた

駒を箱に入れていく。


「違う、少し極端だった。王将のみで

戦う裸玉はだかぎょくでやるんだ」


王将以外の駒が消えて王だけが残り

非常に心許ない形となった。

いくらなんでも、スゴい戦力さだと

初心者でも分かる。いくらなんでも勝ち目が

あるとは到底に思えないほどだ。


「こ、これいくらなんでも・・・」

「やり過ぎか?だが、これでも

俺の方が有利だと言っておこう」

「そ、そうですか・・・」


だけど、見た感じで言えばもう勝っている

ように見える。王の周囲には兵が

一人もいなく完全なる裸の王様。

大軍に前にして剣を構えているようで

無謀で自殺行為としか思えない。

だが、そんな絶望な状況を作った彼は

勝ってると絶対的な自信が溢れていた。


「駒の動かしかたは・・・少し待って!」


そう言って、席を立ち受付に向かいなにか

受けとる。受付の人はなんども頭を下げ

ながら笑顔を向けていた。お客や知己など

言うより大物に対する類いに近い。

そして紙を持って戻ってきてそれを

差し出す。ありがとうとお礼して受けとった

紙を見ると将棋の駒の動かしかたと

書かれている。まさか、そこまでされると

年上としてここまでされていいのかなと

考えるが、こればかりは仕方ないと諦める。

彼は向かいに座りそして―――


「よろしくお願いします!」

「え、ああ。よろしくお願いします!」


頭を下げ挨拶されたので、俺も同じく

挨拶して頭を下げる。あっ、これは

対局の火蓋を切るセリフだと遅まきながら

気づいた。


「先手はお前に譲る」

「ど、どうも。それじゃあ・・・飛車の

前の歩を進めると」


相手は迷いもなく王将を前進させる。

僕はさらに歩を進める。そして、相手は角のいる場所へと進み僕は飛車を前に進ませ

横で王将を狙える位地に置くが次に相手は

前へ進み歩を取る。たかだか歩だと

思い次に角を跳ね逃がす。


「一、二、三と上から数えて相手の領土に

入ったら成ることができる。

成れば駒を裏にしてパワーアップできる

わけだが、果たしてどうする?」

「えっ、それじゃあ・・・なります」


角を裏にし龍馬と書かれた駒へと変える。

スゴく強そうな駒になり高揚感が高まる。

相手は、さき取った駒を登場させた。

ルールの短縮した紙を向けると

持ち駒と呼ばれるものを好きな場所に

登場させることができる。

それから、攻めようと試みるが相手は

持ち駒で壁を作り歩からと金へと

パワーアップさせる。


「ぎゃ、逆転されていっている!?」

「フッ、この四面楚歌しめんそかからの優勢となるのが面白い・・・」


さき言ったどおり圧倒されて不利に

なっていき、王将は端へと進むが逃げる

場所が失ってしまった。たしか敗北のときは

負けましたと頭を下げれば終わりになる

らしい。


「参りました・・・それにしても

本当に強かったよ」

「ありがとうございました。

まぁ、そういうことだな」


勝利した彼は楽しそうな笑みで答える。

負けてしまったが、将棋は面白かったし

なんていうか見た目とは違い優しく配慮が

ある人だと分かってきた。

もしや、これが彼のいう語るというやつなのか。さすが唯悧の友だち。優しい人だった。





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