Once the girls were here ⑤

 カップの片付けが終わったので、私は階下へと降りる。クロウタドリたちを呼びに行くためだ。随分と帰りが遅かったために彼女たちの捜索自体にかなりの時間がかかるかと思い憂鬱な気分だったが、それは杞憂に終わった。と、いうのも、ミキサー室へと繋がるドアを引き開けた途端ハネジロがこちらに雪崩れ込んできたからである。どうやら扉を開けるタイミングが偶然被ったらしい。私は咄嗟に胸で彼女を受け止めて、なんとか彼女を転倒から防ぐことが出来た。

「び、びっくりしましたぁ~……」

 ハネジロは胸を押さえながら震える声でそう言う。

「なんだそっちにいたのか、あおちゃん」

「あなた達、一体何処まで行っていたのよ」

「何処も何も、音楽堂の近くをうろうろしてただけだけど」

「それにしては遅すぎるでしょ」

「あ、あの、わたしが悪いんですっ」

 私たちの押し問答にハネジロが口を挟んだ。

「わたし、東屋でちょっと休憩しているときに、どうやら眠ってしまったらしくて……それでクロウタドリさんが、わたしが起きるまでセルリアンが来ないかわざわざ見張ってくれていたんです。だから、クロウタドリさんは悪くありませんっ」

「ハネジロちゃん、君も悪くないよ。眠いのは仕方が無いんだから」

「でもっ、わたしが言い出しっぺなのにこんなこと……」

「分かった、分かったわ。とにかく何事も無くて良かった」

 話が拗れてきそうな予感がした私は、そこでハネジロの言葉を打ち切った。

「あなたは大丈夫なの。昨晩寝れなかったんでしょ」

「僕のことは大丈夫。徹夜は結構慣れてるからさ」

 それに動物の頃から早起きは得意だし、とクロウタドリはドアの前に立ちはだかるパイプ椅子の山を乗り越えながら言った。

「お、その子たちかい」

 背後から聞こえた声に、私は振り向く。見ると、上階の手摺に身を凭せ掛けながらこちらを見下ろすジャイアントの姿があった。

「ええ、そうよ。改めて紹介するわ――こちらがハネジロペンギンで、こちらがクロウタドリ」私は隣にいるハネジロと背後のクロウタドリを手で指し示しながら言った。上階に突如現れた見知らぬアニマルガールにきょとんとしていたハネジロだったが、紹介を受けて、よろしくお願いしますっ、とジャイアントに向かって深く頭を下げた。クロウタドリも彼女に続いて軽く会釈をすると、前にいる私へと軽く身を乗り出し、「彼女は」と訊ねてくる。

「ジャイアントペンギン、だそうよ。PPPについてとても詳しいらしくて」

「……なるほどね」

 彼女はそう言って、再び上階に立つジャイアントの方を見遣った。その視線を受けてか、それとも単にタイミングが合っただけなのか、ジャイアントはすぐに私たちから目を逸らすと、部屋に案内するよ、と言って身を翻した。


 上階で待ち受けていたジャイアントに案内されて再び部屋の中へ入ると、PPP関連のグッズで満たされた部屋の内装を見るや否や、ハネジロとクロウタドリは驚きの声を上げた。

「すっ、凄い――これ全部、PPPのグッズなんですか?」

「大体はそうだね~、ま、所々違うのも混じってるけど」

 ジャイアントはそう言うと、ラックに乗っていたケースの中を少し漁り、オレンジをバックに花丸のロゴが載ったバッジと、ブラックをバックにバツ模様が載ったバッジの二つを取り出して見せた。彼女はそれぞれが何と言うアイドルグループのグッズであるかを滔々と語ったのだが、サブカルチャーに全く興味の無かった私はどちらにも全く耳馴染みが無かった。

「凄い知識だねぇ。ジャイアントちゃんって、何時ごろからPPPのファンをやってるのさ?」クロウタドリがフックに掛かっていた未開封のままのアクリルキーホルダーたちを指先で冷やかしながら聞く。――そういうグッズ類をむやみに触られるのは蒐集家にとっての逆鱗なんじゃないのか、と冷や冷やしてしまう。

「もう覚えてないなぁ。まあ、異変前からということは確かだけど」

 彼女は頭を掻きながら、はにかみ笑いを浮かべつつそう答える。少なくとも20年来の根強いファンということなら最早アイドル側に覚えられていてもおかしくはなさそうだが、彼女が愛する少女たちはもう居ないのだ。そのためか、彼女の表情には常に僅かな寂寥の色が浮かんでいるように感じられた。

「ずっとPPP一筋なんだ?」

「まあね。さっき話したような他のグループもちょっと推してたけど、基本的にはPPPオンリーかな」

「異変後は? は見つけないのかい?」

 私は彼女の言葉にぎょっとする。いや、いくら何でもその質問は無神経にも程があるだろう。案の定、ジャイアントは表情を強張らせている。当然だ、20年以上追ってきたものからあっさりと鞍替えできるわけがないことくらい、その分野に明るくない私でも分かることだった。

「え、ええっと――そうだ、ハネジロ、あなたは何か聞きたいことはないの?」

 クロウタドリを無理矢理後ろに押しやる形で割り込んだ私は、壁に並んだグッズに夢中になっていたハネジロに声を掛けた。

「あっ、はいっ、いっぱいありますっ!」

 彼女は振り向きざまに元気よくそう言うと、ポケットから先の缶バッジを取り出し、ジャイアントに見せた。

「これって、見覚えありますか?」

「ああ、これ、PPP結成後に初めて配ったノベルティだよ。色違いのやつが幾つか取ってあるけど、見る?」

「本当ですか、ぜひっ!」

 ハネジロはジャイアントに促される形で奥のラックの方へと歩いてゆく。ジャイアントの表情が僅かに明るくなったところをみると、ハネジロに一旦話を振ったのは正解だったらしい。


「一体どういうつもりなのよ」私は小声で横に居るクロウタドリを振り返り詰る。

「別に、聞いておきたかったことを聞いただけだけど」

 何でもないことのように言ってのける彼女に私は嘆息する。そんなに軽く済ませていいものじゃないだろう。

「PPPは彼女にとってかけがえのない存在なのよ。新しい推しを見つけるだなんて、よくそんな無神経なことが聞けたわね」

「僕が知り得る限りで、今のパークにはアイドルと呼べる存在はいない」

 脈絡のない返答が帰ってきたので、私は眉を顰める。

「……どういうこと?」

「大きな損失ロスがあるということだよ。アイドルは、不特定多数の人々に楽しみを与え、反対にそれを推す人々もアイドルに喜びを与える。そんな大きな輝きを生み出し得る存在が欠けていることは由々しき事態だ」

「だったら尚更、ジャイアントにああ聞いた理由が分からないわ。そもそもアイドルが居ないなら新たに推しを作ることなんて端から無理な話でしょ」

 私の疑問に、クロウタドリは僅かな間黙って私を見据えたのち、じきに分かるよ、と曖昧な答えを返した。何故か質問の意図を話そうとしない彼女の態度に、少しの苛立ちが募る。

「大体、どうしようもないでしょ。新しく結成できる人間も、事務所も、もう何も無いんだから。それに、歌や音楽といった概念が消えたわけじゃないんだから、それで代替できるわけだし」

 以前に、アニマルガール達の歌声を森の何処かで聞いたことがあった。歌って誰かに聞かせるだけなら、アイドルという形態を取らなくてもいいはずだ。

「確かにね。でも、『アイドル』に憧れる新世代の子もいるんだよ。少なくとも、僕はその一人に以前出会ったことがある」クロウタドリは改めてグッズに満たされた部屋を見渡す。その目は、何処か遠いところを見ているようだった。「単に歌を歌う、聞く。それだけじゃ生み出し得ないものが確かにあるんだ。アイドル――偶像、心の拠り所となる大きな対象があることで、ヒトもフレンズも一つになって好きなものを追うことが出来る。それが更に広く伝播して、より大きな輝きを生み出すんだ。そしてその『アイドル』という形は、語り継がなければ容易に消えてしまう。だから僕は、それをしっかりと残していきたいんだよ」

「……それがあの子の願いを引き受けた理由なの?」

「そう。そして、そうすることがでもある」

 私は改めて嘆息した。旅の動機となっているクロツグミに関わっているのなら、彼女が容易に折れることはないだろう。ただそれでも、やはり消えつつあるアイドルを再び作り出すというのは、現実的な話ではない。

「でもやっぱり、あなたの言う解決策はとても実現可能なものだとは思わないわ」

「ま、あおちゃんならそう言うだろうと思ってたよ」クロウタドリは苦笑交じりにそう言う。「なら、代案をくれよ。そうしたら別なアプローチも検討しよう」

 彼女の尊大な言いようが鼻に付いたが、実際一度引き受けてしまった以上は解決せざるを得ないのだし、仕方がない。私は先程ジャイアントに交渉した件を対案として彼女に話すことにした。 

「なるほど」

「どうかしら」

「――まあ、いいんじゃないかな。きっとハネジロちゃんもコガタちゃんが好きだったアイドルのことを深く知りたいだろうしね」クロウタドリはジャイアントに質問攻めしているハネジロのことを見遣ってそう言った。

「なら良かった」予想より提案をあっさり吞んでくれたことにほっとする。「それじゃ、後はお願いするわ」

「え、何が?」

 彼女はとぼけたようにそう返す。

「何がって、ハネジロのことよ。彼女にPPPがもう居ないということと、その代わりに映像なら見せられるということを伝えてちょうだい」

「君が伝えたらいいじゃないか」

「なんで私なのよ。あなたが引き受けたんだし、あなたが伝えるのが道理でしょ。それに、あんなにされたら対処できないことくらい、あなたが一番良く分かっているくせに」私は質問攻めに遭っているジャイアントの方向を見やりながら言った。あの調子で話しかけられるのは勘弁してほしいところだ。

 クロウタドリは軽く溜息を吐くと、あおちゃん、と私に諭すような口調で語りかけてくる。

「どんなに新世代のフレンズが苦手だったとしても、この異変後のパークで旅をする以上は彼女達との交流は避けられないんだよ。あのアーケードから外に出たなら、それは尚のことだ」

「外に出たって、あなたに連れ出されたんでしょうが」

「僕の手を握ったのは、君の意思だろう?」

 確かにそうだ、その点について反駁することは出来ない。

「でも……私、本当に苦手なのよ、他人との交流が。特に新世代の子たちとなると尚更駄目」

「君、僕と出会う前に新世代のフレンズ二人と話しながら帰っていたじゃないか。あの感じでやればいいのさ」

 私は彼女の言葉にぎょっとする。なんでその事を知っているんだ。

「あなた、一体何処から付け回していたの」

「付け回すだなんて人聞きが悪いな。大体君が森の中にいたあたりからだよ。僕が見かけた時には既に二人と話していたから、邪魔するのは悪いと思って声は掛けなかったけどね」

 それなら私が眠る前に訪ねて来てほしかった、と心の内でそう思う。

「――とにかく、やってみれば何とかなるもんだよ。大丈夫、君の周りには僕とジャイアントちゃんがいるんだから。何かあったら、僕たちがフォローを入れるし、これも経験よ」

 クロウタドリはこちらに親指を立てると、苦い顔を浮かべている私の背をどんと押してハネジロのいる方へと向かせた。そしてこちらをちらと見たジャイアントと目が合ってしまう。彼女は、目配せでこちらに準備が出来たかどうかを問う。

 ……雰囲気的に、これ以上ハネジロの説得役を固辞するというわけにもいかないだろう。私は一つ深呼吸をして心の準備を整えると、息巻いているハネジロの背後から声を掛けた。

「あの、ハネジロ。ちょっといいかしら」

「えっ――あっ、はいっ、何でしょうか?」

 紅潮した彼女の顔がこちらを向き、途端に私は後ろめたさのようなものを覚える。今から彼女の願いを、希望を、私自身がへし折るのか。そう考えると、腰が引ける思いがした。しかし、もう引き下がれない。

「あなたに、伝えなければならないことがあるの」

 彼女は軽く首を傾げる。それを見た私は口腔に溜まった唾液をごくりと飲み下すと、彼女へと事実を伝えるべく、口を開いた。



***



 彼女に、ハネジロに、事実を伝えてから約1時間後。

 室内には、デスクトップPCの前に陣取ってPPPのライブ映像を視聴しながら興奮気味にサイリウムを振るハネジロと、その隣で彼女に合わせてうちわを振っているジャイアント、そしてその様子を背後から見る私とクロウタドリの姿があった。但し、壁に背を凭せ掛けながら悠々としているクロウタドリと異なり、私は茫然とした顔つきで目の前の光景を見ている。

「な? なんとかなっただろ」

 クロウタドリが横から声を掛けてくる。

「なんとかはなったけど……これはこれで違うでしょ」

 私は両手で顔を覆いつつそう言った。

 

 PPPがもうこのパークに居ないということを私から聞いた彼女は、最初こそ衝撃を受け、悄然とした表情を浮かべたのだが、コガタのことを話した時のように泣きだしてしまうということは無く、俯きがちに「やっぱり、そうですよね」と言っただけだった。

「え?」

「あ、いえ……何となく、そうなんじゃないかなとは思っていたんです」

 ハネジロは沈んだ声で、しかし既に何処か諦めのついているような面持ちで私にそう言った。

「今朝この音楽堂に戻ってきたとき、わたし、ステージの表も裏もボロボロになっていることに気が付いたんです。コガタちゃんは前に、PPPの皆さんはきらきらした豪華で素敵なステージの上で歌って踊るんだって、わたしに教えてくれたことがあります。でも、ここの音楽堂はそんな景色とはかけ離れていて、とても使われているようには見えませんでした。そこでわたし――もしかしたら、もうPPPの皆さんはどこにもいないのかなって、思ってしまって」

 本当はそんな予感、当たって欲しくなかったのですが、と彼女は力無く笑う。

 対する私は、彼女が予想とは異なって事実を冷静に受け止めたことに、少し動揺していた。もともとは、ハネジロに泣きつかれた際に直ぐクロウタドリたちに助けを求め、そして残りの対話を彼女たちに任せるという予定だったのだが──こうも静かにことが進んでしまうと、私がこの役目を中途半端に離脱するという事も出来ないだろう。私は続く気まずい沈黙の中でハネジロにかける言葉を必死で探していた。何か、何か気の利くことを言えないだろうか。

「……えっと、そ、そんなに気落ちしなくてもいいわ。多分──これは私の考えではあるんだけれど──コガタは、あなたが自分の為にPPPを探し回ってくれたということを、何よりも嬉しく思っていると思うの。だから、PPPを見つけられなかったとしても、あなたがここまで来たことは決して無駄なんかじゃない、って言えると思うんだけれど──」

 尻すぼみになった私の言葉に目の前の彼女は私を見上げる。彼女の視線を受けてまた言葉に詰まったが、なんとか喉の奥から言葉を絞り出す。

「だから、最後くらいはしめやかじゃなく……こう、明るく笑って、コガタのことを送り出しましょうよ。DVD──そう、ジャイアントが集めていたDVDやCDなんかを観ながら、とか。ね、それが良いと思わない?」私は言いつつ背後に助けを求める。振り向く方向を誤ってクロウタドリと目が合ってしまったが、彼女は右をちらりと見て視線のリレーをしてくれた。右隣にいたジャイアントは何か別のことに思いを巡らせていたのか、俯きつつ数秒の間沈黙していたが、はっと気付いたように顔を上げると、胸の前でぱちんと軽く手を鳴らし静寂を破った。

「そうそう、アオサギちゃんの言う通り、パーっとやろうよ、パーっとさ。色々見せたいやつがあるんだ──ほら、ハネジロちゃん、ちょっとこっち来てみてよ」

 ジャイアントは片手でハネジロを手招きすると、背後にあったラックの下段に収納されていたプラ製の箱を引っ張り出した。見ると、中にはぎっしりとDVDケースが詰まっている。隣にもいくつか同じような箱が並んでおり、彼女の蒐集したPPPのDVDが相当の数であることが見てとれた。ハネジロは肩を落としつつも、私の前からジャイアントの方へと歩いていく。半腰で箱の中を覗きつつそれぞれのDVDの説明を受けるハネジロを横目に見つつ、私はクロウタドリのもとへと戻ったのだった。


 ──そしてその結果が、この目の前で繰り広げられる熱狂応援だ。しめやかにではなく明るく笑って、とは言ったものの、ここまで大盛り上がりの様相を呈するとは。


 時間を持て余した私は、背後を振り返ってDVDが詰まった箱──よく見てみるとこれはパークのスタッフらが用いていた業務用の折り畳みコンテナを転用したものだった──の中を少し漁ってみた。雑然と押し込まれているように見えたが、片っ端から手に取って見てみると、実際は右奥から左手前にかけてしっかりと発刊順に並べられている事が分かった。先程見たフォトアルバムといい、整頓された様子からは彼女のまめな性格が感じられる。ケースの外装のデザインは一応統一されてはいるが、時期ごとにカラーリングやメンバーと思しき5人組の立ち位置などに変化が付けられていた。

 暫く見ていくうちに、ある刊を境にデザインが大きく変わったことに私は気付く。意匠だけではない――表に印刷されたグループのロゴも変化し、そしてメンバーの人数も5人から4人へと減っていた。いや、新しい順からチェックしていたということを考えれば、メンバーは減ったのではなく、ある時を機に1と言うべきか。私は少し気になって、外装が変わる直前と変わった直後の2刊を取り出し、背後に記載されていた概要を確認しようとした。


 しかし――矢庭に上から伸びてきた両手にケースを取り上げられ、それは叶わなかった。私は反射的に、手を追って背後を振り返る。そこには、取り上げたケースを持ってこちらを見下ろすジャイアントの姿があった。逆光でこちら側に影を落としているその様子に、私は一瞬背筋がぞくりとする。

「……ダメじゃないか~、そんなにケースをいっぺんに取り出しちゃ」

「あ、いや……ごめんなさい」

 彼女は朗らかに笑い、至って明るい声でそう言ったのだが、私は何か不気味なものを感じていた。ジャイアントは箱の前でしゃがみこむと、私が横に積んでいたケースを、先程取り上げたものと共に仕舞い込んでいく。

「わたし、こう見えて綺麗好きでね~。こういったグッズの並べ方とか結構こだわっちゃうんだよね」

 彼女は慣れた手つきで次々と収納していき、あっという間に元通りにしてみせた。

「これでよし、っと。あ、そうだアオサギちゃん、折角全員揃ったことだしもう一度コーヒーを淹れてこようと思うんだけど、ちょっと手伝ってくれないかな?」

 彼女は穏やかな笑みを湛えつつこちらを振り向いてそう言った。その言葉の中にも何か抗い難い圧力のようなものを感じて、それに気圧される形で私は頷いてしまう。


 部屋を出ていくジャイアントに私が続こうとしたところで、クロウタドリに不意に呼び止められた。彼女は、コーヒーを淹れ終わるのにどれくらいかかるか、とよく意図の分からない質問をしてくる。

「何でそんなことを聞くのよ」

「いいから、さ。教えてよ」

「そうね……彼女は一杯ずつ淹れるというやり方に拘っているみたいだから、4人分で大体10分ちょっとくらいかしら」

 彼女は、了解、と軽く片手を挙げてそう言うと、「僕にも見せてよ」とライブ映像に釘付けになっているハネジロのもとへと歩いて行った。私は彼女の行動を少し不審に思いながらも、ジャイアントを待たせてはいけないと思い、駆け足で隣室へと向かったのだった。

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