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 いつものゲームセンター————


「そう言えば、今日はあの商品が並ぶ日だったよなぁ」


「ああ、そうだな。試しに一度やってみるか」


 ————やれるものならやってみろ。


 そう店長は店内に入ってきた学生二人を見て、そう思った。


 そして、その新発売の商品があるユーフォ―キャッチャーに行くと、同じような考えのゲーマーたちが行列を作って並んでいた。


「うっ……これでは時間がかかるな……」


「諦めよう」


 二人は他の台へ向かった。


 ————ほら思った通り、これは誰にでも取れないような配置をしているから並んでも無駄なんだよ。


 と、店長はふっと笑った。


 すると、見覚えのある人影が列に並んでいるのが見えた。


 山田里菜である。


 それに気がついた店長はすぐに店員である甲斐を呼び出した。


「甲斐ぃいいいいいい……」


 それも人に聞こえるか聞こえないかの小さな声で。


 それに気づいた甲斐は店長の元へすぐに向かった。


「今日は不味い状況だ。今日はものすごい人でがっぽりと稼げそうな日なのに寄りにもよってあの少女がいる。どうにかして排除しなさい。いいね」


「分かりました。やってみます」


 甲斐はすぐに行動に移した。


 里菜の番がやってくると、すぐに横に入り、ガラスの窓を開けた。


「すみません。商品の配置を直しますね」


 そう、わざとらしく商品を元の位置に戻す。前の客が惜しい所まで行った位置を彼女に取らせるわけにはいかない。


 だが、里菜は嫌な顔を一つもせずにただ待っていた。


「はい、次の人どうぞ……」


 甲斐はすぐに鍵を閉めた里菜に譲った。


 里菜はすぐに財布から五百円玉一枚と、百円玉二枚を取り出して、投入口に入れた。


 ————ふん。七百円で取れるような簡単なゲームじゃないんだよ。


 一回目、里菜は商品を動かして取らなかった。


 ————ふははは。今日こそ買ったな。


 そう、甲斐は遠くから笑い、様子を窺っていた。だが、二回目が終わり三回目だった。里菜の目が真剣になり、ボタンを彼に数ミリ単位のずれもなく押し、一つ目を見事に落とした。


「な、何ぃいいい‼」


 そして、二個目もあっさりと取った後、使った金額は丁度七百円ピッタリだった。


「おい、嘘だろ……」


「なんで、こんなにあの子はうまいのよ……」


 二人はその場に倒れて、深々と溜息をついた。

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