2019年 1月

火曜日1 お正月と優しい世界

 2019年 1月1日


 あけおめ。ことよろ。と、両親に呟きながら、雑煮。数の子。かまぼこにイクラが挟んであるやつを食べる。日本酒もある。しかし、薬を飲んでいる時にアルコールを摂取してはいけないのだ。と、思いつつわたしはお猪口に日本酒を注いで飲んだ。美味しい。


 例年、正月の朝は練馬にいる祖父がやってきて、毎年一緒におせち料理を食べてエジプトに旅行に行ってどうのこうのという話を聞きながらテキトーに相槌を打っていたのだけれど死んでしまったので、それをしなくていいのは楽なんだけど、少し正月みが薄い感じがした。かといって、べつに感傷的になっているわけでもない。祖父のことが嫌いなわけではなかったけれど、うちで飼っている三匹の猫に比べると、そこまで愛していたわけではなかった気がする。


 おせちを食い終わって、余ったビールと日本酒の瓶を持って部屋に引きこもる。

 いつものようにやりたいことがないので、ツイッターを開く。すると、「お正月なのに風邪引いてお酒が飲めなくて悲しい」と、呟いている大して親密でもない知人の女の子がツイートしていたので、何の気なしに「ざまぁw」とリプライを送った。すると「かなしいです」と、返事が来た。それに対してわたしはテキトーな感じで「カワイソス」とリプライした。


 しかし、なんかちょっと罪悪感が湧いてしまったので、気晴らしに自分も被害者アピールをするツイートをする。


「わたしもお正月なのにお酒を飲めません。精神安定剤とお酒を一緒に飲まないでくださいって薬剤師さんにきつく言われました。こんなに悲しいことはありません。慰めてください」


 これに対して、風邪で酒が飲めない気の毒な女子から「それは飲まないでください。用法用量を守って偉いです」と返事が来た。


 ツイッターの外側にいるわたしは今こうして精神安定剤と一緒に黒ビールと日本酒を飲みながらいい感じに酔っ払っていた。

 わたしは、あは。と、笑いながら「ああ◯◯さん、優しい。綺麗な人に嫉妬しちゃうんです。自分の心の醜さが恥ずかしいです。だから、お大事にしてください」と、リプライした。


 そんなクソくだらないツイート遊びをしながらツイッターのタイムラインを読み流していると、安倍晋三首相夫妻の新年を祝した動画付きツイートが流れて来た。酔っ払っているのか、顔をほんのり赤くしながら「これから日本国をより良い国にする」みたいな眠たいことをほざいていたので「うるせーバカ」とリプライした。


 そのあと、自分のクソツイートに来た返事を読む。すると、さっき呟いた、精神安定剤を飲んでで酒が飲めませんという嘘だツイートに対して、薬剤師で手品師をやっている人が「薬で何か困ってることがあれば相談に乗りますよ」と、返事をくれた。優しい。嬉しい。


 わたしは早速、現状に至る病歴と、現在飲んでいる薬剤を記載した長文メッセージを送った。そして、彼は夕方頃に的確な返事を送ってくれた。

 プロの薬剤師に正月早々、タダで仕事をさせてしまって申し訳ない気持ちになる。


 そういうわけで、アドバイス通り、今日はマイスリー(睡眠導入剤)を半錠に減らして飲むことにしよう。と、思いながら瓶に残っている日本酒を飲み干した。


 夜がくる。いつもと同じ夜だ。


 この優しい仮想の世界がいずれ終わってしまう虚しさをオブラートで包んで、それを水と一緒に飲み込んだあと、布団に潜り込んでボーイズラブな漫画を見たり、カラマーゾフの兄弟を読んだり、コインやトランプをいじくりまわしながら眠った。

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