火曜日25 クリスマスと男子高校生

 クリスマスマスというイベントに対して何の感慨もない。喜びはもちろん、憎しみも。緊張、懸念、不和も来ず、まどろみの中で布団にこもり、朝っぱらからスマホをいじってボーッとしている。


 今日はずっとTikTokというアプリをイジイジしていた。10代の若者に人気の動画アプリで、キッズどもが学校の教室でクラスメイトと仲良く珍妙なダンスを踊ったり、カップルでいちゃついたり、手のひらに他人の顔を乗せて『手乗りフレンズ』だかなんだか知らんけれどそんなくだらんことをしている動画を、『#人気者になりたい』とかいうコメントを添えてウェブ上にアップしているのだ。

 楽しそうでムカつく。というわけではないのだけれど、自分が高校生の頃は何をしていたっけ。と、反芻すると、イヤな思い出しかない。


 高校一年。冬の修学旅行の時に、部屋でクラスメイトとUNOかなんかのカードゲームをしていたときのことだった。わたしが手品でインチキして勝ちまくったあと「超弱っ、きみ雑魚だね」とかニヤニヤしながら冗談のつもりで言ったら、いきなり首を絞められてそのまま気絶しかけて病院送りになって大騒ぎになって、まあ、レントゲンとかとって結局なんともなかったので、すぐにホテルに帰還したのだけれど、担任の家庭科の先生には「こんなこと40年教師やっててはじめてだよ面倒かけないで!」と、こっぴどく怒られたし、相手の方は泣きながらみんなの前で謝罪の言葉を言わされたりして、なんかもうめちゃくちゃだった。

 それ以来、もう学校なんてどうでもいいやと思って、それまでは一応はまじめに勉強していたけれど、2年からはほぼ勉強を放棄して、進路も楽な文系の中で最も楽だと評判だった日本史を選択して、赤点取らなきゃいいやみたいな感じでのらりくらりとやり過ごした。もう、わたしは学校で誰とも接したくなかった。けれど、『友達がいない自分』という状態もイヤだったので、自分と似たようなオタクっぽいクラスメイトに近づいて、トモダチになったフリをしてテキトーに流行りのライトノベルやオタク向けのアニメの話に付き合って(べつにそんなに好きでもなかったけれど)、自分には友達がいるからヘーキヘーキと言い聞かせていた。

 そんな薄っぺらな付き合いしかなかったので、現在で高校のクラスメイトで連絡を取り合っている人は誰一人としていない。小学生、中学生の時も、色々と最悪だったけれど、高校時代は誰かにいじめられていたわけでもなく、不登校になったわけでもなかったので、平和といえば平和だった。しかし、自分の人生の中で、この時期に、最も大きな過ちを犯した気がする。高校2年の時に、わたしはその大きな過ちを犯した。その内容を、ここには書きたくない。わたしはそれを反省できない。どうやったら反省できるのか分からない。だって、わたしは平和で平穏なクリスマスの夜に、男子高校生がスマホの中で奇怪なダンスをするのを観ながら、うふふ。キャキャキャ。超可愛いい。イチャイチャしたい。などと、ホモホモしているのだ。何が反省だ。何が後悔だ。反省なんかできるものか。もう忘れたい。何もかも。


 わたしはTikTokの中で踊っている男子高校生のスラッとした脚にホルホルしながら聖なる夜を終えるのだ。

 くそったれ。

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