第12話 観光案内


今私は

馬車に揺られている

山道を最中に

ガタンガタンと

同乗にはウイジールとアルメンドロス


アルメンドロスは車窓をぼんやりと眺めている

ウイジールはなにやら書物を読んでいる

その隣にいる私はただ目線を適当においていた

どこともない場所を見るでもなく


向かいに座るアルメンドロスが口を開く


なぁ

馬車に揺られながら

本を読むと気分悪くならないか?


ウイジールが目線を書物からアルメンドロスの顔に合わせた

言うまでもなく質問はウイジールに向けてだろう


もう慣れましたよ


アルメンドロスの問いに応えるとまた視線を書物に戻した

ふーんと相槌をする

どうもアルメンドロスは暇そうだ

恐らく次は私に絡んでくるかな


そして察しの通り絡んできた


馬上槍試合での事やその後の腕相撲大会

アルメンドロスはいつもの調子で話している

自分が出たらそのまま優勝しガンダールも倒してた等と宣っている

もちろんその発言は冗談を含んでいるので我々を笑わせようとしての

意図だろう

それからもアルメンドロスは矢継ぎ早に軽口を交えながら話した

時折出る単語にユーモアが詰まっていたので

私も口角を緩めながら話を聞き

ウイジールも書物で口を隠しながら笑っている


アルメンドロスのおかげで時間はあっという間に過ぎ

馬車は目的地に到着した

場所はカルーラ王国だ


そこには大きな門

大鷲の紋章

壮観に整列するカルーラ国の兵士達

門の後方には豪華な宮殿

その手前に見える城下町も祭事のように盛り上がっている

大陸一番に栄える大都会その名に偽りは無し

アルメンドロスは絢爛なカルーラ王国に心奪われているようだ

彼はこの国に来るのが初めてらしい

私は以前この国の闘技場で戦ったことがあるので少し慣れていた

その時と違って今は気品ある衣を纏っているがまぁ大きな違いはない


我々は馬車から降りると

整列する兵士の一人がこちらに歩み寄り

深々と礼をしに来た

カルーラ王国の軍団長らしく

今回我々の護衛と案内を任されているようだ


名をサリバンと言った

金の鎧に大鷲の紋章と位の高い騎士であることを示す赤のマントが大変似合う男だった

歳は五十くらいだろうか

そういえばガンダール軍団長はいくつなのだろう

兜で顔を常に隠しているので年齢はわからないままだ

まぁそんな事はどうでもいいんだが


そんな思案に耽っているとサリバン軍団長が先導し始めた

慌てて後に続こうとしたがウイジールが私を引き留める

どうやら城下町でいくつか買い物をしてほしいらしい

金貨の詰まった小袋を渡し買うべき品物を伝えてきた

カルーラの地酒や特産品等

単純なお土産だろうか?

買い物が済み余った金は好きに使っていいとの事


話を聞いていたアルメンドロスはいいなぁと口を挟む

同じく話を聞いていたサリバン軍団長が好意で私個人に護衛と案内役をつけましょうか?と

提案してきたがウイジールはその好意に感謝を述べた後丁重に断りを入れた

どうやら私は単独行動かなと思っていたら

もう一人この話を聞いていた者がいた



ガランサスの護衛は俺がやりますよ!


背後から一人の騎士が駆け寄る

道中我々の馬車を護衛していたアリュメトの騎士の一人である

彼の名はカーター

先日の馬上槍試合本来のアリュメト代表騎手となるはずの男だった



サー・カーター

お前なら実力に申し分はないな

カルーラ王国には詳しいか?


はい!何度か訪れてます

それにガランサスには借りもありますので


ふふ

そうだな



ウイジールは一笑すると

カーターに私の護衛を命じた

名前はよく聞いていたが会うのは初めてだ

端正な顔立ちでまだ若く二十前半だろう

アリュメト国の女子のみならず近隣諸国の女子にも人気があるそうだ


それでは


ウイジールとアルメンドロスはサリバン軍団長先導の元宮殿へ向かい

私はカーターと共に賑わう城下町の方へと向かった

ウイジールの注文が酒や食べ物であったので

市場へ向かうと

気品漂う都会の雰囲気から少し変わり

若干の喧騒漂う下町の雰囲気

大きな声で客の呼び込みを行う店主や

広場を無邪気に駆け回る子供達

金槌の叩く音を響かす鍛冶屋等

ちらほらと物乞いの姿も見受けられる

そんな中を

二人で歩いていると

カーターが話しかけてくる


ガランサスすまなかったな

俺のせいであんな役回り

怪我大丈夫か?


そうですね

今も痛みます


カーターは必死に謝ってきた

端正な顔立ちの騎士様が何度も謝る姿は滑稽であった

寛大な私は冗談ですよ気にしていませんと言ってあげたらホッとした顔になる

大事な試合の前日に飲み過ぎて落馬する騎士に思う所はなにもないが

傷がいまだに痛むのは本当の事だ

とにかく今は案内してもらおう

最寄りにいい酒店や有名な特産品はないか訊ねるとそんなにわからないと返してきた

町の人間に聞いてみたらどうかと言うので名案ですねと皮肉を言ってやったが

だろ?と言うので取り合わない事にする



私が案内しましょうか



年老いた男が話しかけてきた

我々のやり取りを聞いていたのだろう

腰を曲げた立ち姿に

ボロを纏っていたのでどうやら物乞いだろうと一見で判断する


下がれ

必要ない


カーターが男を一喝する


騎士様

そうはおっしゃらずに

私はこの町に70年以上暮らしています

酒場の主人や店主の子供等果ては飼っている動物全員の名前だって分かります

このカルーラにおいて私よりカルーラに詳しい者などおりません

どうかお役目を


カーターは腰に携えた剣の柄に指をかけながら問答を続ける


誰よりも詳しいと言ったな

それはこの国の賢者ジズ・ラウムよりも詳しいというつもりか?



左様です


老人は言い放って見せた

とても大言を言う老人だ

私は最初こそ気に留めていなかったが

すこし関心が向いてきた

カーターもどうやら同じ気持ちのようで

次に老人にテストを仕掛けてみせた



随分なホラ吹き爺だな

では先ほどお前が言った店主の名や子供等の名前を答えてみせろ

一つ足りと間違えばお前を斬る

嫌なら即刻立ち去――魚屋ミギーハウ店主の名はドナシアン・スタン妻の名はアナイス・スタン妻の旧姓はオリアン子供は三人長男イェルド次女トリス三男ビョルン飼っている犬の名はボーその向かいにある肉屋エディング店主の名はエディ・ベックマン妻の名はエマ・ベックマン旧姓はセーデルブロム子供は一人長女カリン。靴屋アイスコ店主の名はアリス・フィェルストレーム独身飼っている猫が三匹ソーニャ。エミリア。アルフォンス。酒場オルヘイサン店主の名はミーケル・バーリフォーシュ妻の名はマルタ・バーリフォーシュ旧姓ヴァレニウス子供は五人長女アイナ次女エミリ三女カリナ四女エリカ末男シモン飼っている犬と猫の名はジャギィとヤン今そこを走っていった子供等三人の名がクリスティーナ・ヘダー。エーリク・オルソン。カッレ・レンノ船着き場で釣りをしている彼の名はレオナルド・イスフェルト婚約者の名はマーヤ・ニリアン最近マーヤと喧嘩が続いているので釣りをして心を落ち着かせているちなみにレオナルドの父アルベルトはこの国で一番大きな服屋フェルトリンクを営んでいる母の名はマルティナ・アレニウス九年前にアルベルトと離婚現在は故郷に帰り学校の教師をしている彼女のクラスの生徒等の名はローランド・リンドクヴィスト。エスビョルン・インゲマション。マウリッツ・バーリリーン。フィリップ・ブラード。アイナ・モーデュソン。リスベツ・アールベック。コンラード・アクセーン…………







私達は絶句していた

特にカーターは口が開いたままだ

というか気味が悪いのだろう

老人は未だ止まらず次から次へと人名とその人物にまつわるエピソードを語り続けている


待て!

もういい気持ちの悪い爺め

金ならやるからよそへ行け


カーターは自分の懐から金を出し老人を追い払おうとしたが

私はカーターを止めた


サー・カーターお待ちを

私はこの方に案内を依頼しようと思います


カーターはバツの悪い顔をこちらに向けてきたが

私はいいからいいからとなだめる


それで

ご老人おいくらで承ってくれますか?



50万ルーラです



なっ!?

カーターが声を荒げる

それも当然だ

私がウイジールから頂いた金はおよそ100万ルーラ

買い物にあてようと考えていた額は50万ほど

この老人に渡してしまえばカルーラ観光費用はすっからかんだ

だが私は…



話にならん

もう行こう


いや

50万ルーラ払いましょう

是非ともあなたに案内をお願いしたい



ふふ

承りました


カーターが馬鹿野郎と怒鳴り私の胸倉を掴んできたが

咄嗟に胸を押さえてうずくまると悪さを咎められた犬のようにシュンとなり謝ってきた

思っていた以上にカーターは私に罪悪感を感じているらしい

しばらくこの手は使えそうだ


結局私はこの老人に50万ルーラ相当の金貨を渡し依頼した

相も変わらずカーターは不満そうだ

まぁ当然だろう


それから老人を先頭にカルーラ様々な名所や特産品にまつわる場所等

意外な穴場を教えてくれたりした

以前まではカルーラの地酒といったらフォンルーラ酒店が有名だったらしいが

そこは既に代替わりし先代の一番弟子だった者が立ち上げたナータン酒店の酒こそが今一番旨い等

耳寄りな情報を沢山教えてくれた

おかげで実りある買い物ができた

それにしたって案内料50万ルーラは高すぎるが


ちなみに数多の買い物袋を持ってくれているのはカーターだ

結構な量を買ったので重そうだ

もう日も落ちてきた


なぁ

そろそろ休憩しないか?

一息つこう


そうですね

お爺さんどこかいい宿を知ってますか?


老人はもちろんもちろんと言い

新たに進路を変更

老人の先導の元私達もついていく

道すがら人混みから少し外れた宿に案内してくれた

見た目こそ派手ではなかったが静かで落ち着けそうな場所だった

カーターを先に宿に向かわせ荷物等預けさせる

その際後で一杯やろうと持ち掛けられた

いいですよと私は返事をしておき

カーターを見送る



お爺さん

観光案内ありがとうございました

おかげでカルーラを深く知れました

私達はこれから酒場を探そうと思うんですが

また酒場の案内ついでにお爺さんも私達とご一緒しませんか?



ははは

よろしいんで?



えぇもちろん




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