花国女王伝

花国国造り伝説

花国国造り伝説

《花国（かこく）国造（くにづく）り伝説（でんせつ）（序段（じょだん））》

　花国（かこく）には、誰もが知る伝話がある。

　むかしむかし、まだこの地で数多（あまた）の妖怪（ようかい）が跋扈（ばっこ）し、人びとの生活を脅（おびや）かしていたころ、

　この世（よ）の様（さま）を憂（うれ）えた一人の少女（しょうじょ）が旅に出る。

　異能（いのう）を持（も）つ優（すぐ）れた巫女（みこ）であったその少女は、行く先々（さきざき）で悪（あ）しきものを祓（はら）い、民（たみ）の安寧（あんねい）を心に秘（ひ）め、旅を続（つづ）けた。

　彼女（かのじょ）の名は、黄（こう）明花（めいか）。のちに、黎明（れいめい）の姫（ひめ）と崇（あが）められる、伝説上最も名高い女性である。

　あるとき、明花は蓬莱山（ほうらいざん）へとたどり着（つ）く。

　その山は古（いにしえ）より神仙（しんせん）のすまう聖（せい）なる山と、人びとに信仰（しんこう）されていた。

　蓬莱山の頂（いただき）に登（のぼ）った明花は、かの地に宿（やど）りし大（おお）いなる神々（かみがみ）に祈（いの）った。

　それから七日間（なのかかん）、明花は食も絶ち、五感を研ぎ澄まし、ただひたすら願った。

　そして七日間目の日の出のころ。

　この真摯な願いに応えた四霊（しれい）――――龍（りゅう）、鳳凰（ほうおう）、麒麟（きりん）、亀（き）と、四神（しじん）――――朱雀（すざく）、青竜（せいりゅう）、白虎（びゃっこ）、玄武（げんぶ）が明花（めいか）の前に現れる。

　四霊（しれい）と四神（しじん）の助力（じょりょく）を得（え）た明花は、跳梁（ちょうりょう）する妖（あやかし）を地の底へ封じ込めた。

　しばらくして、このことは世間の人びとの間で評判になる。

　いつしか、多くの人びとが、彼女を慕うようになっていった。

　人々は、混沌とした世に疲れていたのだ。だから、明花こそこの世を救う者だという考えが広まった。

　こうして、人びとの支持を得た明花は、国内を統一し、蓬莱山の麓に宮を建て、自らを女王、国号を花と称する。

　ここに、花国初代女王・黄明花が誕生した。

　それからも民衆の絶大な支持を得続けた明花は、先頭に立って国造りに取り組んだと伝わる。

　明花の死後、黄王家（こうおうけ）の守護神（しゅごしん）となった四霊は、蓬莱山の頂に鎮守する。

　そして、花国の守護神となった四神は、宿る地をそれぞれ決め、人びとの前から姿を消した。

　しかし今でも、明花が四霊と四神のために建てた神仙の花園（はなぞの）――――八葉（はちよう）の神苑（しんえん）は、王宮の奥深い所にあると言う。