第11話

 薄々思わないでも無かったが、トーマスの奴、変態ロリコン野郎だった。


アレの毒牙をめぐっちに向けるわけにはいかねー。


考古学者の骨塚サンが、運転手に四角いモニターを見せる。




「おっさん、これ、分かるか。 未来の携帯、スマホや。 この画面の黒い点、あるやろ? これを追いかけて欲しいんよ。 スピードはなんぼでも出してかまへんから」




 いやいや、スピード違反で掴まったらマズいだろ……


安全運転で頼むわ。




「随分小さいね。 ちょっとメガネかけるから」




「急いでや、めぐちゃんの命、かかってんねん」




 運転手のおっさんはメガネを取りだし、アクセルを踏み込んだ。


それにしても、トーマスの奴、一体どこに向かうつもりだ?


ホテルに連れ込んで乱暴するつもりなら、もっと栄えてる場所に向かうはずだ。


モニターに映し出されている黒い点は、何も無い河原の方に向かっている。




「もう、殺されてるとか、ねーよな……」




 思わず、そんなセリフが口から漏れた。




「な、何言ってんだ! 縁起でもねぇべさ」




 隣のたぬ子がすごい剣幕で詰め寄る。




「みなさん、落ち着いて下さい。 トーマスさんも、何か理由があって森林さんを連れ出したはずです」




「分からんで。 殺すのが目的かもしれんやろ」




 もしそうだとしたら……


とにかく、そうじゃないことを祈るしかない。














 黒い点を追いかけ、到着したのは河原だった。


木々が鬱蒼と茂り、近くには車が乗り捨てられていた。




「トーマスの車や。 急ぐで!」




 山猫さんがタクシー代を支払い、俺ら4人は森の中へと足を踏み入れた。


黒い点がここに到着してから、まだ時間は経っていない。


めくっちが殺されてなければ、まだ間に合うはずだ。


辺りは薄暗く、骨塚サンの四角いモニターの明かりを頼りに、前へと進む。




「木の枝とか、気を付けーや」




 転んでケガをしたら最悪だが、もたついてる暇も無い。




「俺は若いんで、大丈夫っす。 山猫さん、気を付けて下さいよ」




 後方にいる山猫さんが、片手を上げて答える。


その時だった。


目線の先に、何かがいる。




「……あれは」




 人が倒れている。


だが、めくっちじゃない。


男だ。


短髪にTシャツの、男。




「おい、トーマス!」




「……う、ぐ」




 骨塚サンが、うつ伏せで倒れているトーマスを抱え、起こす。


トーマスの肩から、血が滲んでいる。




「おい、何があったんや!」




「猟銃ヲ持ッタ、男ガ…… メグサンヲ……」




 めくっちを殺す予定の男は、トーマスじゃなかったのか?


骨塚サンが事情を聞くと、トーマスは声を絞り出して、説明を始めた。




 事の顛末は、こうだ。


最近、ことごとくドラマのオーディションに落ち続けていたトーマスは、自信喪失していた。


そこで、いつも相談に乗ってくれてるめくっちに、コーヒーを奢るから話を聞いて欲しいと誘い出した。


何が悪いのか、実際に演技を見てあげると、この河原までやって来たが、突然、猟銃を持った男が現れ、発砲してきたとのことだ。




「急ガナイト、メグサンガ……」




「森林さんは、どちらへ?」




「多分、こっちだわ!」




 たぬ子が地面を指先し、叫んだ。






 


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