蜜柑

「で、こたつでアイス食うな。」

 蜜柑みかんを食べながら、才造サイゾウが言えば、夜影ヨカゲは笑った。

「大丈夫、これ蜜柑味。」

 コクコク、と頷く虎太コタがこのアイスを買ってきた犯人ではあるが。

「才造はおこたといえば蜜柑ですか。」

「ワシは猫派だな。炬燵こたつは猫」

「つまり蜜柑を食べる猫が見たいわけですか。」

「そういうことだ。食え。」

 蜜柑を投げられ、キャッチする。

 ケラケラと笑う夜影はアイスを才造に、滑らせ渡すと、蜜柑の皮を丁寧に剥き始めた。

 代わりに、才造はアイスを食べる。

 二口食べればもういいと手を止めた。

「寒い時に食うもんじゃねぇな。」

「才造って何気なにげに季節感大事にしてるよね。」

「今時、夏に風鈴ふうりんも出さんからな。春の桜は好む癖に。」

「人間様の、滅びの美学も感じられない時代になってきてんね。」

「花見、来年も行くぞ。」

「あれ?才造って、桜好きだった?」

「いや、お前の舞が見たいが為。」

「桜の散り際が好きって言って欲しかったな。雰囲気的に。」

 また、ケラケラと笑うと口に蜜柑を1つ放り込んだ。

 アイスを食べ終えた虎太も、蜜柑を剥き始める。

 蜜柑を剥いた後の皮が三忍さんにんそれぞれ違った形を見せていた。

 才造は、まるで林檎りんごの皮をむく時と同じようにぐるぐると円をかいて一本に。

 夜影は1輪の花のように。

 虎太は雑に、散り散りに。

 それを見ていた夜影は、変わらぬ彼らにホッとした。

「来年も、再来年も、あんたら何も変わらないでね。うつろい、は好きだけど、あんたらのうつろいなんて、見たくない。」

「ワシが言いたい。それに、ワシは変わりようがないからな。」

 またコクコクと頷く虎太。

 夜影は心底嬉しそうにもう一度笑う。

「雪みたいに溶けないで。桜みたいに散らないで。枯葉みたいに枯れないで。海みたいに荒れないで、ね。」

「どうした?」

「来年も、また、一緒がいいの。」

 甘えた声は眠たそうだった。

 その頬を才造が撫でれば、気持ち良さげにトロンとした目になる。

「寝るなよ。年越しまで、後数時間だ。」

「うん…。」

 そう答えながらも、うとうとと睡魔に手を引かれて行く。

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