第2話


 遊戯と時空を司る神パルタナは俺をワールドマジックRPG、つまりは自分の司る異世界に招待したいという。


 俺としてはもう死んでしまっている以上、記憶をなくして生まれ変わってしまうくらいなら記憶もって転生した方がメリットがあるし、このままこの神様の話を受けても良いのだが、どうにも胡散臭いんだよな彼は。


 なにがどう胡散臭いとは言い表せないのだが、とにかく俺に都合が良すぎる気がするのだこの話は。


 確かに異世界の神パルタナが言う通り地球神との交渉は本物なのかもしれないし、俺の事を気に入ったというのも本当の話なのかもしれない。

だが、うまい話には必ず裏があるものなのだ。

俺はずっとその事が気がかりだった。


「とはいえ、俺には選択肢がないな」


 罠があったとしても、どうせこの話を受けなければ通常の輪廻に戻されてしまうのがオチだろう。

仮にだが、たとえば転生後すぐに死んでしまうような種族や環境に生み落とされたとして、そこで死んだとしても結局は輪廻に輪に戻されるだけの話なのだ。


 であるならば、彼の言う誘いにのってものらなくても、俺にとって最悪のケースは変わらない。

どちらにせよ待っているのは死だ。


 だからここで誘いに乗ること自体は、よくよく考えてみれば俺にとってデメリットには成り得ない。

たとえ彼の思惑がなんであったとしてもだ。


「決まったかい?」

「ああ、決まった。その話是非受けさせてくれ。どのみち既に死んでいるんだ、答えなんて考えるまでも無かったな」

「ふふふ。そう言ってくれると僕も嬉しいよ」


 そしてなにより、俺自身ワールドマジックRPGの世界に期待している所は大きい。

先ほどまで語った最悪のケースというのは、あくまでも本当に最悪のケースの話であり、彼自身が俺を嵌めるつもりがないなら存分に楽しめるような世界だと思っている。


 剣と魔法のファンタジー世界、そんな世界で記憶を持った俺として謳歌できるのであれば文句など最初からないのだ。


 ただ、それはそれとして確認しておく事はいくつかある。


「それで、転生先の世界というのはゲームとどこまで酷似した世界なんだ?」


 登場人物やシステム面がまるまる同じなのか、それとも齟齬があるのか、そういった背景を軽くでも知っておきたい。


 彼がこの質問に答えてくれるかどうかは謎だが、まあ質問するのはタダだ。

聞いておいて損はないだろう。


「う~ん、そうだね~。元々僕の世界を元に作ったのだし、種族間のパワーバランスやアイテム、また魔法やスキルなどの設定はゲームと同じだよ。ただ向こうは仮にも異世界であって現実だからね、ポイントを振ればスキルを覚えるとか、スキルの限界値設定とか、そういうのは特にないかな。技術は練習すれば練習するだけ身に付くよ。ステータスという概念はあるけどね」

「そこはやっぱり齟齬が生じるところか……」


 ゲームならレベルアップで貰えるスキルポイントを消費して様々なスキルを身に付ける事ができたが、向こうでそんなチートは使えないらしい。

実力を身に付けたければ練習するしかないのだろう。


「それと登場人物だけど、これは実在する人物もいれば僕が創作した人物まで多岐に渡るからアテにしない方が良いかな。ただ国家や大きい組織なんかは同じだね」

「……世界観程度には参考になるって感じかな」

「そういうこと。さて、質問はもういいかな? 僕は遊戯を司るだけあって、あまりプレイ前のネタバレとかは好きじゃないんだ。知識はあくまでも知識、あとは自分で世界を体験してきてくれよ」


 そう言って彼は話を打ち切った。

しかし必要最低限の齟齬はこれで取り除けただろう。


 それに異世界神パルタナの表情を見る限り、これ以上の質問にはもう答えないって書いてあるので、何を聞いても無駄だ。

ならあとはもう適当に転生するだけである。


「分かった。こっちも覚悟は出来たよ」

「それは良かった、ならさっそくだけど君を転生させる事にするよ。もし何か困った事があれば僕を司る神殿まで来ると良い、君にとって何か良い事があるかもしれないからね」

「それはありがたい」


 確かゲームでもパルタナを祀る神殿はいくつかあったのを記憶している。

ようはそこへ行けばいいという事だろう。


「それじゃ世界を存分に満喫してきてくれ。……プレイヤーではなく、遊戯と時空を司る邪神、パルタナの眷属ダンジョンマスターとしてね」

「ん? 邪神? え、何を言って────」


 そこで俺の意識はプツリと途絶えたのであった。





 目が覚めた。

目覚めると俺は全裸で地面に転がっており、周りには岩肌が見えていた。


 ここは洞窟だろうか?

出口がないから閉じ込められているという事なのだろうけど、はて……。


 全裸のまま俺はむくり起き上がり、つい先ほどの事を思い出す。


 確か遊戯の神パルタナは最後に自分を邪神だと明かし、その眷属であるダンジョンマスターとして転生させると言っていたが……。


「ということは、ここはダンジョンの中という事なのか? ……やってくれたなあのクソ邪神、完全に詐欺じゃないか。というか、やっぱり邪神だったのかよ!」


 騙された事に苛立つも、不思議と頭はクリアで混乱はしていない。

おそらく俺が混乱するであろうことを見越したパルタナの手により、精神の安全装置のようなものが働いているのだろうけど、あまり気分の良い物ではないな。


 なにせ自分を騙した神の計らいだ、当然納得はいかない。


「とはいえ、このままパルタナに反抗して自殺するのもなんか癪だ。負けた感じがする」


 ならばどうするか。

……とりあえず生きるために現状確認をするしかないだろう。


 ゲームでの知識でしかないが、確かダンジョンマスターというのは人類共通の敵であり、その一人一人が魔物を生み出す王、魔王として君臨している邪神の眷属だったはずだ。


 その眷属たる俺はおそらくこれから人類に狙われ続ける事になるのだろうが、幸いにも俺の見た目は人間のまま。

鏡がないから正確なところは分からないが、少なくとも髪の毛は黒だしツノやキバが生えた感じもない。


 たぶん転生する前の俺の姿そのまんまだろう。


 だからたぶん一見してダンジョンマスターだとは気づかれにくい、そんな風貌をしているはずだ。


「となると、人間に遭遇しても初見で敵対することは避けられそうだな」


 あくまでも希望的観測に過ぎないが、そう言う事だろう。


 次にこの洞窟についてだが、灯りのない閉鎖空間にいるというのにまるで暗さを感じない。

まるで視覚以外の情報に頼って周りを見ているかのような感覚だが、これはダンジョンマスターの力か何かなのだろうか?


 そう思って周りを見渡すと、後ろの壁に水晶のような球体がハマっている事に気付いた。

これはまさか、アレだろうか……。


 そう思って恐る恐るその水晶に触れてみる。


「やっぱりか……。これはダンジョンコアだな」


 これがコアだと、触れただけで本能的に分かる。

プレイヤー視点から見たゲームの知識では、ダンジョンコアというのはダンジョンを形成する力の核であり、生きた迷宮の証だ。


 壊せばそのダンジョンは迷宮としての機能を失い死ぬことになるし、持ち帰れば巨大な魔石としての運用もできると登場人物である研究者キャラが語ってたっけな。


 しかし同時にコアはダンジョンマスターと密接につながっており、ダンジョンマスターを倒さない限りコアを取り出すことはできない。

その上ダンジョンマスターが死ねばコアも力の大半を失う事になるので、本来のレベルでの働きは期待できないのが常なんだとか。


 しかも力を持つダンジョンマスター、つまり魔王は複数のコアを所持している事があるので、コアを見つけてもそこに魔王がいるとは限らない。

だから壊して迷宮活動を停止させるのが基本なのだとかなんとか。


 難儀なものである。


「だがこれで確定したな。ここがどこだか知らないが、俺はこのダンジョンに生まれたダンジョンマスターであり、人類の宿敵、魔王だ」


 ん~、困ったな。

死ぬつもりはないが、かといって迷宮を作って人類に嫌がらせをするつもりもあまりない。

とはいっても回りは放っておかないだろうしなあ。


 ほんと、やってくれたよねあの邪神。

こうなったら絶対に生き延びてやる。


 あと、とりあえず服が着たい。



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