新しい仲間

 あなぐらのアジトは縦にまっすぐ伸びた中央の廊下部分から、植物が枝を伸ばすように広がっていた。義賊団の構成員はこの枝の先の部屋に数人単位で暮らしている。キッチンやダイニングは共用の広い部屋が当てられていた。


「ここはまだ空いてたな。ユーマ。お前の寝床はここだ」


「思ったよりは広そうだな」


「せっかくの三人部屋だったのによー。よろしくな、新入り」


 石ころをはじいて遊んでいたらしい三人組の一人が顔を上げる。沼地に長く住んでいるからか焼けていない白い肌が少し頼りなさを感じさせた。


「あぁ、よろしく頼む」


「んじゃ、歓迎に一発勝負しねえか」


「今日の夕飯のおかずがかかってるぜ」


 同じように白い肌をした顔がこっちに向く。三人はそれぞれチタン、マンガン、テルルと名乗った。みなしご、野盗、行き倒れ。どいつも経緯は違えどモンドに助けられてこのアジトにやってきたらしい。


「新入りの歓迎にしては手荒いな」


 まぁ、賊を名乗っているやつらなんだ、しかたがない。最初くらいはイカサマだろうがなんだろうが付き合ってやろう。俺はここでもただの下っ端だ。


 石はじきは簡素なルールで、丸い石をはじいてより五〇センチほど離れたゴールの線に近付けた方が勝ちというシンプルなものだ。もちろんオーバーすればアウト。ルールは簡単だが、それゆえにいくらでもごまかしが利く。


「そんじゃ先にやっていいぞ」


 言われた通り皿の上に入った丸い石を一つ選んでスタート地点に置く。やたら重くも軽くもない普通の石。形も特にいびつじゃない。


「こんなもんか」


 指ではじいてやると、俺の飛ばした石はゴールの線に吸い付くようにピタリと止まった。


 三人の顔が固まって、俺の顔を呆けたように見ている。こんなゲームでも身体感覚がものをいうことに変わりはない。頭の先から足の先まで自分の思い通りに動かせなければ、自分より速く動くモンスターの相手なんかできるわけもない。


「なんだよ、お前! イカサマじゃねえのか!」


 やっと我に返ったチタンが拳を手のひらに叩きつけた。運がよかった、でごまかしは利かないだろうな。


「まだ勝負が決まったわけじゃないだろ」


「あんなもん勝てるかよ! やり直せよ!」


「わかった、もう一回だな」


 今度はマンガンに石を選ばせ、スタート地点に置かせる。石を取り換えるようなイカサマもできない。そして同じようにはじかれた石はさっきと寸分も違わないところに止まった。


 何度やっても結果は同じだ。距離をあと千倍も伸ばせば結果は変わるかもな。


「この野郎! どうやったんよ。手の中見せろ!」


 チタンが俺に飛びかかる。野盗出身というだけあって手が早い。それに続いてマンガンとテルルも俺に襲いかかってきた。


「さすがの義賊団ってとこか」


 だが、そういう力任せな考えは嫌いじゃない。理屈を並べ立てて閉口させるようなやつより楽しいもんだ。


 一番に殴りかかってきたチタンの大振りの突きをかわす。遅い。モンド以外はこんなもんか。かかってくる三人の額を順番に指ではじいてやる。


「痛って! なんだお前!」


「兄貴のやつ、どこでこんなバケモン拾ってきたんだよ」


「俺を捨て犬かなんかみてえに言うな」


 事実、パーティから捨てられたところを拾われただけに、結構心に刺さる。あのままついていったところで何かできることはなかっただろう。それでもあの場所で死んだ方がマシだったと今は思えてしまう。


 何のためにここまで体を鍛えて苦難を乗り越えてきたのか。こんなあなぐらで仲間のデコに指を弾くためじゃない。


「おう。仲良くやってんな。ユーマは勇者候補生だったらしいからな。手出しても返り討りだからやめとけよ」


「言うのが遅えよ!」


「おう。もうやり合ったのか。面白かったろ?」


 俺は少しも面白くなかったぞ。俺だって勇者候補生の端くれだったんだ。こんなやつらの相手なんて片手もいらない。


「勇者候補生かよ! 早く言えよ。俺たちが勝てるわけねえじゃねえか!」


「負けて悔しくないのか?」


「悔しいに決まってんだろ。でも仲間だ。頼りになるやつが増えたんだからいいじゃねえか」


「そうだな。俺たちは同室のチームだからな。頼りにしてるぜ、ユーマ」


 仲間を頼りに、か。反りは合わなかったが、戦闘ではあれほど頼りになる仲間はいなかった。俺もここなら本当に頼られるような存在になれるだろうか。


 そんなことを考えていてもしかたない。その結果はすぐにでも出るだろう。そのときは全力で拳を振るう。それだけの話だ。

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