第22話 強がってるわけではない。

何分、何十分くらい休憩してたんだっけ。……知らない。

破片さえ足に刺さってなければ、とっくに家に帰れたはずなんだけど……これのせいで痛みが収まる気がしない。

強引に抜いてみようとも思ったけど、触れるだけで痛い。魔力さえ戻っていればこんな痛みは無いはずなんだけど……人間の身体はやっぱり脆い。


「……魔術で呼ぼうにも、まともに動かない、か……」


さっきの糞野郎が言っていた通り、私の魔力はたぶん今暴走してる。

一応、無理して使えるとは思うけど……負担を考えると、それは避けたい。変に動いてしまって、後々身体がやられるよりかはずっと、何倍もマシ。

……結局、解決には至らないんだけどね。


翼の方は……一応、展開は出来る。けど、本当にギリギリ、何とか出来る程度。それにたとえ展開できたとしても、翼もやられてるから、飛ぶ事も出来ない。……本当に、最悪。


「あー……本当に最悪っ!」

惨めに見えるから、正直避けたい方法。けど、今の状況だと……それ以外の道は、無い。


左足だけに破片が刺さっててよかった、足を引きずりながらなら何とか歩ける。

……ここから家までだと、どれくらいの時間だっけ。好き勝手に、ずっと飛び回っていたから……もしかしなくても、迷子になっているかも知れない。

……あれ、もしかすると……かなりやばい状況、なのかも知れない。



試しに立ち上がってみれば……うん、それなりに時間を取ったおかげで、痛みもそれなりに収まった。ただ、破片の刺さってる方の足は動かすことが出来ない。

せめて路地裏から出て、ここが何所なのかを確認しておかないと。



……足を引きずりながら歩くのは、本当に最悪。



「こんな姿、もしあいつに見られたら……最悪、捨てられるのかな」


最強の使い魔、だからあいつは、私と契約をしているかも知れない。

だからこそ、こうやって負けた姿を見せたら……。


考えるのやめよっと。別に負けたんじゃなくて、ただへまをしただけ、それだけ。


「……ほ、本当にどこ、ここ……」

見たことのない路地に、色んな建物。見るだけで分かるし、雰囲気も大きく違う。あー……本当に最悪、今日は。

しかも足を引きずりながら歩いているから、周りの視線を集めてしまう。せめて誰かが助けてくれれば……なんて思っても、血を出しながら、怪我だらけの異種族、なんて普通の人は近づきたくもないはず。


……帰るのが怖いと思ってしまう。



「あれ、アザル……ちゃん?」

聞きなれた、苦手な声がしてくる。もしかすると私は死ぬのか?……それだったら、苦手な声がしてくるのも、気のせいでは……。


「……うん、見間違えだと思ったけど……綺麗な黒い髪の毛に、橙色の目をしてるから……まぁ、アザルちゃんだよね?」

……どうやら気のせいではない。こいつは、あのメカニックって奴。


「歩ける?」

「……」

こいつに頼ってしまうと、どこか負けた気分になってしまう。


「警戒しなくてもいいのに。僕は何が起きたのか、一切聞かないよ?」

「……じゃあ、見なかったことにして」

「それは無理。だってアザルちゃん、幾ら何でも普通じゃないんだもん」


そんなの当たり前、今の私は怪我だらけで、血も出してる。これが普通な筈が無い。


「んー……抱っこしてあげよっか?」

「気色悪いっ」

「む、僕はマジなんだけど? 今の君は歩けなさそうに見えるから、僕がおぶってあげるだけ」


いつもの変態みたいな発言が無ければ、信じれる。……けど、今は信じるしかないかも、しれない。


「ま、冗談だよ?……ほら、つかまって?」

背中を見せられたら、どうも断りづらい雰囲気。

……少しくらい、信頼してあげる、かな。





「痛むところ、ある?」

「足と、お腹」


「血は??」

「……止まる感じがしない」


「どのくらいの時間、待ってた?」

「……たくさん」


「そ。頑張ったね?」

「……」


調子が狂う。いつもみたいな変態な感じが全然しなくて、こっちがおかしくなりそう。

もしかしなくても、心配してくれてるけど……。


「僕だってすごく驚いたよ? 今日は依頼人の所に行って、話を聞く予定だったのに……あはは、今頃すごく怒ってるんだろうなぁ」

「……だったら私を放置して、依頼人の所に行けばよかったのに」


どことなく嫌味っぽく聞こえてしまう。たぶん本当に嫌味だと思うけど……。

そう思ってたら、突然小さく笑い始めた。驚くからやめてほしい。


「あはは……やっぱりアザルちゃんって、素直になれない?」

……こいつは何を言ってるんだろうか。

私はずっと素直だ、ずっと素直に生きて、なんなら自分の欲望にも……素直。


「……そもそも、お前とこうやって話すのも……これが初めてだし」

「それでもアザルちゃんの事、レウィスからよーく聞いてるよ?……まぁ、聞いた感じでは、だけどね」

「ああ、そう」


レウィスが、こいつに何を言ってるのかは気になる。……でも、悪い事じゃなさそうなのが、よかった。

……本当に、よかった。

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