第二回四天王他裏会議

幕間3『これ見せたらいけない顔なのでは』

 晩餐前。四天王が昼食をとった後の、フェンリ二世との謁見である。とはいえ、すでに昼下がりであった。

 制服姿から、いつもの個々の軍服に着替えた後、彼らは女王陛下の私室へと赴いた。執務をあらかた終えた女王が茶を用意し招き入れると、開口一番、ブラベアが「すごいものを見ました」と大きく息をつく。


「こちらをご覧ください」

「――これは」

「術士どのをかき抱いたときの表情です。頭の匂いを嗅いで完全に目が逝ってる写真でございます」

「ひどい。これ見せたらいけない顔なのでは?」

如何様いかさま


 完全に夢の世界に旅立ってる顔だった。キャロライン銀狼姫将軍の鼻の孔はふんすとばかりに広がってるありさまだ。

 写真はまだある。フェイニが差し出す一葉に女王陛下は声を詰まらせて爆笑した。


「手の甲にキスをされたときの姫将軍の尻尾です」

「ぼ……ボフってなってるッ……ボフってッ」

「こちらも極上の一枚です」


 ティエンがトイレでおしめを替える際の一枚を差し出すと、女王陛下は一瞬「?」となったが、すぐに感極まった狼少女の感情表現うれしょんの後始末だと気が付き、「これアカンやつやで」と、つい北方獣人弁が漏れるが息が詰まるほど笑いをこらえている。同じ狼族だけに気持ちは分かるが、分かるだけにキツい。


「とどめはこちらに」

「……洗濯物? これは、これは、なんというか……」

「いましがたメイド長が撮影してきたものです。この一枚とあわせてどうぞお納めください」

「うわー、こんなはしたない恰好でおなかをなでられてるの!? あの子が……こんな格好で……」

「足がぶれているのはワシワシ動いてるせいです」

「ジレイン、大儀であった」


 写真をまとめて封筒に収めると、ジレインはそれを差し出し一歩下がる。控える四天王が直立する中、女王陛下は封筒に差し挟まれた最後の写真に目を落とす。


「これが噂の錬金術師か。確かに若く見えるが、錬金術師は年を取らぬという噂が信憑性を増したな。……で、経歴は目を通したか?」

「は」


 四人が頷く。


「土壌の改良作業のエキスパートということは、ブラベア、お前の故郷に派遣するのが宜しかろう。東国軍部からも、効果のほどをよしなにと言われている。農作業支援は五百人ばかり追加で地方に補充される。わんさと物資を携えてな」

「私の故郷ですか」

「魔神の門が開いた土地だ。超一級を送り込むにはもってこいだ。護衛はブラベア、そして身の回りの世話としてキャロラインを同伴させる」


 女王陛下は立ち上がる。


「晩餐には私も顔を出す手はずだったな。伯母として顔を合わせ、まずは人となりを見るとしよう。我が妹を看取った男、果たしてどれほどのものか――」


 写真に目を落とす。

 先代銀狼姫将軍の、最後の戦友。結界施行の直前で協力し合った仲間。行きずりの共同体。歴史の裏で活躍した勇者。

 写真をまた取り出す。


「でもこれはないわな」


 現姫将軍のあられもない姿を見返し、声を上げて笑う。

 思い出話はもう少し後かな、と、かすかに思うのであった。




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