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月の化身 ジュフア目線

　俺は女性が苦手………。

　いや、嫌（きら）いだ。

　女性という生き物は男がいないと生きていけない。

　男に働かせて、いかに楽（らく）して生きることができるか、としか考えていない強（ごう）欲（よく）な生き物だ。

　媚（こ）びて、しなだれかかる様（さま）は俺から見れば恐（きよう）怖（ふ）でしかない。

　当たり前だが妹達は俺を男として見ていない。

　血が繫（つな）がっているからだと解（わか）っている。

　妹達は明らかに典型的な女性だ。

　兄（きよう）妹（だい）でなければきっと目すら合わせることもなかっただろう。

　所（しよ）詮（せん）、妹達も女という生き物なのだ。

　だが、血の繫がりがあり恋（れん）愛（あい）感情を持たない妹達は、不思議と他の女性よりは可（か）愛（わい）く思える。

　俺からして、隣（りん）国（ごく）の王子であるルドニークことルドは女性に優（やさ）しく頭も切れ、魔（ま）力（りよく）という力も持っていて妹達の伴（はん）侶（りよ）に相応（ふさわ）しい男だと思っていた。

　ルドと俺は小さい頃（ころ）から仲が良く将来の夢を語り合ったものだ。

　俺は正妻の子だから次期国王としての教育を受けているし、隣国の王子であるルドと仲良くしなければならなかったのだ。

　我（わ）が国（くに）の王には側室が六人もいてそれぞれに男子をもうけているため、俺が死んでも俺の代わりはいくらでもいる。

　一方ルドは一人っ子で替えがきかないこともあり、自分を磨（みが）くことに余念がなく見えた。

　なんでも努力で成（な）し遂（と）げる、それがルドという男なのだ。

　そんなことを考えていたある日、ルドの国で王（おう）妃（ひ）様（さま）主（しゆ）催（さい）のお茶会が開かれた。

　そこに、同じ正妻の子である妹二人を連れていきルドの嫁（よめ）に選ばれたらいいと思っていた。

　その時は、すでにルドの嫁候補に選ばれたらしい女性がいるなんて思っていなかったのだ。

　ルドとルドの側近のローランドに挨（あい）拶（さつ）をし、王妃様に会いに行った時に彼女をはじめて見た。

　シルバーブルーのストレートの髪（かみ）が冷たそうに見える女性。

　灰色の大きな瞳は、彼女を魅（み）力（りよく）的（てき）に見せていた。

　ローランドの妹だという彼女。

　今まで見てきた女性とは何かが違（ちが）うと思った。

　しかし話をすれば、やっぱり強欲な普（ふ）通（つう）の女だと解った。

　それなのに、なぜかトントン拍（びよう）子（し）に契（けい）約（やく）をさせられてしまったのは俺の落ち度だ。

　彼女からすれば、俺に近づくためならなんだって良かったのかもしれない。

　そんなふうに考えたのは恥（は）ずかしいことだと直（す）ぐに解るのだが、その時はそう思った。

　次に彼女とルドを連れて我が国の船に向かった。

　ルドと彼女は仲が良く見えた。

　だけど船につけば、彼女が怯（ひる）んだのが解った。

　理由は彼女が我が国の船で有名な商人だったからだ。

　伯（はく）爵（しやく）令（れい）嬢（じよう）という爵（しやく）位（い）持ちのくせに商人として我が国の船乗りと繫がっているなんて、何を企（たくら）んでいるんだ？

　しかも船乗り達の前では名前や髪色を変え、服装を庶（しよ）民（みん）的（てき）にしていたようだ。

　そんなことをしたところで、変装になどならない。我が国では髪色を変えるのはファッションの一部であるからだ。

　むしろ女性の髪色が変わったことに気づけないのは男として終わっていると判断されるため、そういった変化には敏（びん）感（かん）だった。

　彼女はそれを知らなかったようだ。

　スパイなのかと問いただせば、呆（あき）れ顔（がお）のルドに彼女は商人だから仕方がないと言われた。

　それを信じろと言うのか？

　しかも、乗組員の中には彼女に好意を持っている者までいるなんて！

　ルドをたぶらかしただけでは飽（あ）きたらず、うちの乗組員まで！

　そう思った瞬（しゆん）間（かん）。

「私ね。最近、婚（こん）約（やく）破（は）棄（き）されたの。だから当分は好（い）い人はいらないかな？」

　その言葉に俺は息を吞（の）んだ。

　後々、彼女は侯（こう）爵（しやく）子息と婚約していたが、そいつに浮（うわ）気（き）され婚約破棄したのだと聞かされた。

　婚約破棄は女性にとって言い表せないほど不（ふ）名（めい）誉（よ）なことだ。

　ということはルドの嫁候補ではなく、ただの友人なのではないのか？

　彼女が言っていることが本当なのか思わずルドに聞けば、あっけらかんと本当だと言った。

　彼女は苦労をしている女性なのだ。

　どんな辛（つら）い目に遭っているのか考えるだけで胸が締（し）めつけられるようだ。

　貴族女性なんて男がいないと生きていけないと思っていたが、彼女は自分一人でも生きていけるように商人の仕事をしているってことだろう？

　なんて強い女性なんだ。

　我が国には存在しない自立した女性だ。

　俺が国王になったなら、女性の自立を促（うなが）していきたいと昔から思っていた。

　だからこそ、もっと彼女のことを側（そば）で見ていたいと強く思った。

　その後も船内を案内することになったが婚約破棄のことが気になって、なぜ婚約破棄されたのかを直球で聞いてしまう大失態をおかしてしまった。

　お詫（わ）びにとブルーの宝石がついたネックレスをプレゼントしようとするも断られた。

　商売のことしか頭にないのだとしても普通なら受け取るはずだろう？

　我が国の特産物である宝石の価値を見直さなければいけないのかもしれない。

　こんな女性に会ったことがない。

　自分から強欲だと言っておきながら、隣国の王子のプレゼントを売るわけにはいかないから要（い）らないなんて、それは強欲というのだろうか？

　しかも、俺のことを紳（しん）士（し）的（てき）だと言って笑った彼女がキラキラして見えた。

　この女性は違う。

　俺の知ってる女という化け物とは違う。

　美しくも聡（そう）明（めい）な月の化（け）身（しん）のような女性。

　そう考えるとルドと彼女の関係は不思議だ。

「婚約破棄をしたのに、ユリアス嬢はルドの婚約者なのか？」

　確認するように呟（つぶや）けば彼女は呆れたように返した。

「王子殿（でん）下（か）と私は、ただの友人です」

　その言葉に俺は彼女のことをもっと知りたいと思った。

　俺もルドのように彼女の友人になれるだろうか？

　ハッキリ言って第一印象は最悪のはずだ。

　彼女の気を引けるものはないだろうか？

　俺はそんなことを考えながら、彼女を船内にエスコートするのだった。