アダルティックは超加速

 アムトリスに見送られ、古河の空間を後にする。湾岸区域から大きく外れ内陸部の山中に、広域ステルスフィールドを発生させつつ身を潜める。


ヴェルトメテオールの捕獲…………もとい、協力を要請する為だ。なんでも彼は他のリベレーター達とは方向性の違いで決裂し、出奔したとかなんとか。


 外見はボクサーパンツを頭に被り、スク水を穿いているイカレサイコ野郎だったが、確かに人を傷付けるような素振りは見せていなかった。音辻さんとの戦闘前に観た能力を見る限り、強力なのは確かだろう。


「ペイグマリオン、探す宛はあるのか? 」


「探すアテですか。奴は常にその、かつての失われたアダルト本とその作者を保護しているのですが、皆目見当もつきませんねぇ」


 うん知ってる。目の前で見た。もう帰っていいかな?


「ヒタチ、各種センサーにはそれらしき影は見当たりません。というより、目の前にいても感知出来ませんできたので、発見は困難を極めるかと」


「彼はアナタと同じように加速フィールドに滞在、そこから常に周りを監視していますからねぇ。そもそもここにいてここに居ないのですよ。だが、彼がいると作業が短時間です見ますからねぇ」


 常に監視だって?


 あ、思いついた。やはり同時に同じ事を考えたのだろう。ダイゴが俺にアイコンタクトを送ってくる。何? ダメです。それは使う訳には行きません? 秘密です、秘密。


 アイツ、なんで念話を使わないんだろう……。


 だが、確かにダイゴの言うとうりだ。そうだな。この手段は最後に取っておこう。


「だんな様」


「「!?」」


 突然カシマから声をかけられる。ダイゴも俺と同時に驚いたのだろう。一瞬ダイゴの目にエラー表示が出ていた事を俺は見逃さなかった。


「アーカイブファイル101番、ダイゴおすすめコレクション」


 あかん。それはあかん。


「アーカイブファイル102番、ヒタチお気に入りコレクション」


 やめて! やめてくれ! なぜ知っているんだカシマ!


「アーカイブファイル103番 実……」


「ストップ! 分かった! 許してカシマ! 」


「別に責めてはいませんよ。男性には必要な物です。ここは戦略的使用をオススメしますわ」


「なんなんです? そのアーカイブって? 」


 音辻さん、それは僕達のエロ本コレクションですなんて言えるかい? 言えるわけないよね? 男の子だもん。


「それは、だんな様とダイゴのアダルトコンテンツコレクションですわ」


 アァァァァァァァァァ!終わったぁぁぁぁああ!さらば青春。


『プヒャァァァァア! ウケるんですけどぉぉお! 』


 やかましいわぁぁアムトリスゥゥウウウ!

 ちょくちょく幻聴が聞こえると思ってたが、やっぱり音声くらいなら入れるのか。短時間っぽいけど。


「おや、それは使えますね。手っ取り早い限り。我々の世界でそれを手に入れるのは至難の業ですからなぁ」


 どうやら、音辻さんとシャリエさんはよく分かっていない様子だ。よかった、異世界ギャプだ!ダイゴも安心しているようだ。静止モードになってるもんな。しかしむっつりスケベのAIってどうかと思うよ?


「アーカイブがあるなら釣れますな。一冊ほどお借りしても? 」


「も、もちろん、ちょっと待ってな。ダイゴ、アーカイブファイル102番、ナンバー23を実体化」


「しかし……」


「実・体・化」


「Y、実体化完了。ペイグマリオン、この後は? 」


 ダイゴが質問すると同時に、ペイグマリオンは紅い閃光を迸りつつ、亜空間から何かを取り出した。やっぱり4次元ポケットじゃねぇか。ダイゴからエロ本を受け取り、そいつに括り付ける。


「亜空間ビーコンを始動したので、後は待つのみですねぇ。奴は目的のものが無いと、一瞬で消えますか…………来ましたねぇ」


「えっ!? 早くない? 」


 一瞬だけ緑色の閃光が迸ったと思いきや、いつの間にかペイグマリオンの目の前にスク水を履いた男が現れ、エロ本を凝視していた。あれ? 頭に被ってるの、ボクサーパンツからトランクスになっている…………。


「お久しぶりですねぇ、ヴェルトメテオール」


「ひひひ、久しぶりだねぇ、ぺ、ペイグマリオン君…………僕は戻らないぞ。あとそいつをどこで手に入れたんだい?き、君の趣味じゃ無いだろうに…………趣味なら友達だ…………」


「私の趣味ではないですねぇ、そこにいる彼、ミト・ヒタチ君の物ですよぉ」


 名指しされた瞬間、ヴェルトメテオールは俺の前に瞬時に移動する。全く目で追えない速さだ。


「き、き、君は前に会ったね? そこにいる、こ、コントローラーズの子にも、コントローラーズ…………? まずいトラップか! 」


「ストップ! ヴェルトメテオールさん、あなたに頼みたい事があるんです! 」


「た、頼みたい事? 」


 そうして、事の成り行きをヴェルトメテオール、略してヴェルトさんに説明する。そうして彼は…………。


「い、嫌です。あとその本頂けます? い、異世界のエロ本だ。とても珍しい…………クヒッ! 」


 即答かよ! 考える素振りくらい見せろや! いや、早すぎて見えなかったのかも?しかし、逃す訳には行かない。何としても引き止めて戦力を増強しなければ。


「ヴェルトさん、もちろんタダとは言いませんよ? ところで、その一冊でご満足なので? 」


「そ、それはどういう事な、なのかな? まさか! 君はクリエイターなのかい!? 君、君は!

 ほ、保護しなければ! 」


「いえ、残念ながらクリエイターでは無いんですがね、その本以外のアーカイブ、俺の国のありとあらゆるエロ本が、ダイゴのデータに保存されている。その数、本にして350万冊。如何です? 」


「じ、実写?ま、漫画?」


「全部です」


「さ、逆立ちや鍋つかみも?」


「多分文化が違うんでわかんないっす。探せば見つかるかも。ちょっとこちらに」


 ヴェルトさんを近くの木の影に呼びつけ、5分ほど相談をする。やはり文化により言葉の違いがあるが、大体は同じようなものがあるらしい。


「い、いいでしょう。そのお話、乗りましょう」


 なぜだか女性陣の冷たい視線を感じるが、まず一つ目の任務は早くも達成された。

 因みにヴェルトメテオール。彼はリベレーターでは珍しく、殺生を嫌うらしい。目的は洗脳解除とネイトの破壊という事を伝え、交渉は成立だ。


 俺がこの世界に来た際、初めて会ったリベレーター、ヴェルトメテオール。まさか、この変態と組む事になるなんてなぁ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る