神の見せた異世界、それは絶望の世界

 意味がわからない。

ドッキリか? 盛大なドッキリなのか?


《時間が無い!今からガイダンス映像流すから! スタート! 》


《 異なる地球、ヤマトと呼ばれたある場所で……》


 おいなんか始まったぞ!? 視界ジャック!?映画しかみえねぇ!


《上映中はお静かに!》


 えぇ…………。


 謎の存在になぜか映画館の中で受けるような注意を喰らう。状況がさっぱり飲みこめない。っていうか普通飲みこめないだろう。


「コントローラーズのお姉ちゃん…………みんな、死んじゃったの……? おかあさんとおとうさん、いっしょに、いくって、クルマが来て……」


「怖かったね……でも安心して! 」


 《その不幸な事故は、無惨にも少女から両親を奪い去ったのだ》


 《だが、この現実は決して非情ではない。脳を分離して、幸せな夢を見る技術、水槽の脳があるからだ。そしてそれを守るコントローラーズが存在する限り…………》


 《 ――――コントローラーズ。それは、水槽の脳を守護する管理組織。彼らは記憶上書精神救済装置、“ウォッシュメント”を各々の形態で所持している》


 頭の中に鳴り響くこのナレーション。

 どうやら先程の存在が読み上げているようだ。プロなのか?プロのナレーターさんなのか?


「ブレインウォッシュ!」


「メモリーコンディション!」


「よし! 怖い記憶は消せたわ、あとは脳を切り離すオペレーションね」


 ワッツ!? 今脳を切り離すって言わなかったか!? 何これサイコ映画!? いや、そもそも映画なのか?


 ウォッシュメントとやらを背中に戻し、彼女はスタッフに声をかけている。少女は先程の混乱がウソのように穏やかな表情を浮かべている。


「もう怖い思いはしなくて良いの! 私達が護ってみせる! さぁ、オペレーション開始ね! 」


 《 この世界は、病気の蔓延、新人類の誕生、そして破滅的な戦争を経験した。そんな混迷した世界に、ある科学者が名乗り出た》


「我々は肉体から解き放たれ、幸せな未来を見る。我々が提供するのは、我々自身が『コントロール』する『人類の未来』だ! 」


 《かくして街中には、脳と肉体を分離させるオペレーション施設が次々と出来上がり、今日も社会的弱者達がオペに並んでいく》


 《人類との戦いに疲れた新人類達は、自らの故郷を求め宇宙へと旅立って行った。しかし、混沌とした社会の行く末を憂い、人類の進化を信じ、コントローラーズに意を唱えた一部の新人類達、“リベレーターズ”が現れた》


 《 リベレーターズは進化の可能性を秘める、才能のある者だけを保護しているのだ》


 《 さぁ、狂った世界へようこそ! 我々は君達を待っていた。そして忘れないで、キミは自らの運命を自分で切り開いたんだ》


 タラタターン!



 ――――いやいやいやいや、この映像は一体なんだ!?


「待ってくれ!なんなんだ突然! 」


 ビジョンが終わり、現実世界へと引き戻される。ここは冷たい宇宙の中だ。いや、実際は暖かいコックピットの中だが。


「さぁ。大体説明したかな?後は現地で確認してね! 」


「全然説明してないよね? 肝心な所説明してないよね? ん? 待てよ、現地で確認? 」


「まぁそんな訳で、ちょっと救済してきて欲しいんだ。私はこの世界には干渉出来ないからね」


 目の前にいるやたら眩しい『何か』は、一体俺に何を見せているんだ?


「大事な事がひとつ。この世界にはもう、残りの可能性があまりないんだ。君の力は可能性だ。だからここでは効果が薄くなる」


 コイツは宇宙人なのか?

 一体何者なんだ?


「キミは一体誰なんだ?どうやって、何故俺達を? 」


「私の名前はアムトリス。器を、あなた達がイバライトと名ずけた物を、あなたの体内に溶け込ませた者」


「器を持つ者よ。君の能力は……にな……アナタはこ…らこの世…に跳ぶ。あとは自力で頑張って! 困ったら助けるから! 時間がもう無い! んじゃ! 」


 か、軽い!! 何だかセリフが軽い!!


 アムトリス……? この声、どこかで聞き覚えが……?


「ヒタチ、今の声を聴きましたか?」


「えっ? お前さんも聴いてたのか?」


「情報収集を優先していましたの」


 どうやらダイゴもカシマも、俺と同じ体験をしていたらしい。


「異常発生、現在地特定できません。本来の宇宙図と整合性がとれません。宇宙の迷子ですね。しかし、彼女は一体何者なのでしょう? 」


 俺のジャケットに付けている、青と緑の二つのブレスレット端末が会話を続けている。俺の親友。AIの「ダイゴ」と「カシマ」だ。


 イバライトを使用したAIは、高速の思考能力と各々の性格を持ち合わせ、意志の力で動くイバライトすらも使用出来る。そんな君たちに分からなければ、この俺にわかるはずもあるまいて。


俺はスウェットにキティッパを履きながらヤンキーピラフをかき込む、生粋の茨城っ子だぜ? 習った以外はサッパリよ。


「何故こうなったのでしょう。我々はどうするべきか。カリストステーションからの応答も無し」


 ダイゴは倫理と思考担当のAIだからか、とても心配性だ。正確さを重視し、明確なアドバイスを送ってくれるが、意外とウッカリした奴でもある。


「ダンナ様、大丈夫ですよ。何かあったら私がダンナ様を守りますわ。さすがに原子分解したらムリですけど……」


「こわいこわい、ヤメテ」


 彼女は戦闘補助AI「カシマ」だ。緊急時の戦略と戦闘を担当するAIだが、やはり時々不安にさせられる。彼女はとてもおおらかで愛嬌があるが、AIという存在にも関わらず理論には殆ど興味無し。ルール破りは上等だ。


 まぁ、どうやらこの俺、ミト・ヒタチとAI二人は相当狂った世界に飛ばされたようだ。


 先程見た世界。明らかにオレが知る世界とは違う。

救済と言われても、実際何をすれば良いのだろうか。

今いる場所すらも分からないのにねぇ?


「報告します」


 ん?


「本艦は現在、機能不全を起こしています。約12分で地表に激突します。メインエンジン停止。イバライト発動不能。原因は先程のエイリアン、アムトリスの発言と関係があると思われます」


「え? なに? 俺達ここで死ぬの? マジで? 」


「いや〜参りましたねこれ、どうやら救済が必要なのは、俺達のようですね」


「ヒタチ、精神レベルが不安定になっています。まるで他人事のようですが」


「ハハッ、嫌だなぁ、何を言ってんだダイゴ〜…………やべぇよ!死ぬよ! 脱出だ! 」

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